コラム 2022.07.09
【コラム】すべての体感が贈り物。フランス代表、“鬼コーチ”が見せたフレンドリー

【コラム】すべての体感が贈り物。フランス代表、“鬼コーチ”が見せたフレンドリー

[ 成見宏樹 ]

 

 練習では学生たちがそのプレーにも感銘を受けていた。

 主将のNO8平坂桃一は、代表選手たちのパワーやサイズよりも反応の機敏さに驚いた。「やるように言われたプレー(アタック)はごくシンプルなものでしたが、こちらが抜けそうになることもあった。ただ、実際は抜けそうで抜けない。反応してその穴を埋める動きがめちゃくちゃ速かった」

 SH前川李蘭はディフェンス側に回った時に気がついた。「あ、これって(第1戦で)ジャパンからトライ取った動きだ…!」。スクラムからのムーブだ。「誰かがどこかで割り切って詰めないと止められない。そこに裏のキックまでがセットで加わっているので、とても止めづらい」

 2週目、2回目のセッションでは、日大生がフランス代表の練習中の円陣に加わっているのが微笑ましたかった。フランス語を聞ける選手は誰もいない。だからこそ前のめりで、耳を傾け、瞬きも惜しそうに。その姿勢に応えたものか、全体練習が終わった後に、また、ガルティエ監督が学生を集めた。

 再び、円陣。今度は日大生の中に欧州王者のヘッドコーチが一人加わる格好になった。今度はリエゾンの富田さんを挟んで、ガルティエは語りかける、1分、2分…。学生たちはこんなふうに受け取った。

「この2週にわたって私たちと練習をしてくれてありがとう。お互いに、とてもいい経験になったはず。今週末は、きっとフランス代表を応援してくれるよな?」

 小さな輪が笑いに包まれた。来日時世界ランキング2位、シックスネーションズ全勝優勝の指揮官と、日本大学ラグビー部が一緒に笑った。「よーお」、パン。最後は一丁締めまで付き合った。

 二日後、第2戦へ向けたメンバー発表会見での指揮官は試合前の静かな緊張感をたたえてメディアの前に現れた。また、元のガルティエだ。

 7月9日、観衆で埋まった国立競技場で日本はフランス戦を体験している。ジャパンが強国と戦う貴重な機会を共有している。2019年大会で日本全体が理解したように、それが国内で行なわれることに、大きな意味がある。何よりも得難いのはこの、今の、あなたの体感だ。浦安で日大生がガルティエと笑ったことも、この先の日本ラグビーの小さくない糧になっていく。

スクラム周りのアタック&ディフェンスで相手役を務める日大部員たち(撮影:松本かおり)
【筆者プロフィール】成見宏樹( なるみ・ひろき )
1972年生まれ。筑波大学体育専門学群卒業後、1995年4月、株式会社ベースボール・マガジン社入社。ラグビーマガジン編集部勤務、週刊サッカーマガジン編集部勤務、ラグビーマガジン編集部勤務(8年ぶり2回目)、ソフトテニスマガジン編集長を経て、2017年からラグビーマガジン編集部(5年ぶり3回目)、編集次長。

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