コラム 2022.04.08
【コラム】負けたチームに、何を伝えられるか。

【コラム】負けたチームに、何を伝えられるか。

[ 野村周平 ]

 今回初優勝した東京・江東ラグビークラブの安田和彦監督は「勝利至上主義」に陥らない一環として、6年生の選手全員が試合に出られるよう考えている。地区大会、決勝大会ともに勝利を追求しつつ、できるだけ多くの選手が試合を経験できるよう交代を使い、全選手が出場機会を得たという。選手層が厚くなればチーム力も上がる。勝利と普及の両立を、不自然には感じていないようだった。

  安田監督は「全国大会が悪いとは思いません。結局はコーチである僕らが、どういう取り組みをするかに尽きる」と語った。

 全日本柔道連盟が柔道の小学校の全国大会を廃止したニュースは大きな反響を呼んだ。全柔連の方針転換はおおむね「柔道界の英断」と評価されている。

 ならば他競技もそれに倣うべきなのか。

 ヒーローズカップの現場を取材した私の実感は違った。「全国大会をやるべきではない」とは軽々に思えなくなっている自分がいた。

 外から感じていた大会の弊害を運営側やチームは認識し、対策を講じていた。不十分な点はあるかもしれない。日本一という称号がこの時期の子どもたちに必要なのか、と今も悩む。ただ、ヒーローズカップが掲げるルールや理念が指導者や親、選手に「何のためのラグビーをしているのか」を考えさせるきっかけになっている部分はあるはずだと信じたい。

 林さんはこうも言っていた。

「チャンピオンシップの大会が違うと思ったら、出なくてもいい。現実にそういうチームも結構あります。色々な考え方があっていい」

 日本一をめざすチーム、楽しさを追求するチーム。その中間。それぞれのニーズを受け入れる幅の広さは、競技環境の豊かさを表している。ラグビーをプレーする小学生たちに必要なものとは何なのか。正解はすぐには見つからないが、関わる私たちが考えを深め、議論を重ねていくことも、ラグビーの教育的価値の一つではないだろうか。

子どもたちの戦いを見つめる大野均(撮影:野村周平)
指導者は小学生たちの戦いをじっと見守る(撮影:野村周平)
優勝を飾った江東RC(撮影:野村周平)
【筆者プロフィール】野村周平( のむら・しゅうへい )
1980年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、朝日新聞入社。大阪スポーツ部、岡山総局、大阪スポーツ部、東京スポーツ部、東京社会部を経て、2018年1月より東京スポーツ部。ラグビーワールドカップは2011年大会、2015年大会、2019年大会、オリンピックは2016年リオ大会、2020東京大会などを取材。自身は中1時にラグビーを始め大学までプレー。ポジションはFL。

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