【コラム】負けたチームに、何を伝えられるか。
今回初優勝した東京・江東ラグビークラブの安田和彦監督は「勝利至上主義」に陥らない一環として、6年生の選手全員が試合に出られるよう考えている。地区大会、決勝大会ともに勝利を追求しつつ、できるだけ多くの選手が試合を経験できるよう交代を使い、全選手が出場機会を得たという。選手層が厚くなればチーム力も上がる。勝利と普及の両立を、不自然には感じていないようだった。
安田監督は「全国大会が悪いとは思いません。結局はコーチである僕らが、どういう取り組みをするかに尽きる」と語った。
全日本柔道連盟が柔道の小学校の全国大会を廃止したニュースは大きな反響を呼んだ。全柔連の方針転換はおおむね「柔道界の英断」と評価されている。
ならば他競技もそれに倣うべきなのか。
ヒーローズカップの現場を取材した私の実感は違った。「全国大会をやるべきではない」とは軽々に思えなくなっている自分がいた。
外から感じていた大会の弊害を運営側やチームは認識し、対策を講じていた。不十分な点はあるかもしれない。日本一という称号がこの時期の子どもたちに必要なのか、と今も悩む。ただ、ヒーローズカップが掲げるルールや理念が指導者や親、選手に「何のためのラグビーをしているのか」を考えさせるきっかけになっている部分はあるはずだと信じたい。
林さんはこうも言っていた。
「チャンピオンシップの大会が違うと思ったら、出なくてもいい。現実にそういうチームも結構あります。色々な考え方があっていい」
日本一をめざすチーム、楽しさを追求するチーム。その中間。それぞれのニーズを受け入れる幅の広さは、競技環境の豊かさを表している。ラグビーをプレーする小学生たちに必要なものとは何なのか。正解はすぐには見つからないが、関わる私たちが考えを深め、議論を重ねていくことも、ラグビーの教育的価値の一つではないだろうか。