【コラム】教えるプロは、学ぶプロ。
クボタには年1回の試験があり、12年間その試験にパスすると、管理職になれる制度があった。一流企業の管理職を経験した方が次の道に生かせるという考えはあったが、そもそも目標にむかって努力することが掛け値なしに性に合っていた。
本人いわく「石橋を500回たたいて渡る性格」。常に逆算思考。ラグビーが大好きだから、社業に力を入れるためにあえて母校の試合も見に行かず、ラグビーから5年間距離を置いた時期もあった。2011年からはラグビーを解禁。仕事の合間、週末ごとに御所実高などさまざまな指導の現場を訪れ、交流を深め、指導法を学んだ。そんな生活を5年間休みなく続けた。
2016年、独立。自らの会社を立ち上げ、複数のチームをプロコーチとして指導するという、これまでになかったスタイルを定着させた。学生として、社会人として、競技をしながらどうやって自分たちの前にある社会でバリューを発揮していくか。「デュアルキャリア」を実践してきた人だからこそ、そうした競技以外の部分も教えられる。それが二ノ丸さんの強みになった。
「クボタを辞めた時の年収を基準にして、それを上回れないと失敗だと思って準備してきた」と言う。準備を失敗することは、失敗を準備することだーー。そんな偉人の言葉も胸に刻む。
ただ、もちろん、すべてが計算通りに進んできたわけではない。希望の部署に配属されたわけじゃないし、指導したチームを勝たせてあげられなかったこともある。それでも目の前のつらい現実から逃げてこなかった。だから、契約書を自分で書けるし、新規プロジェクトに必要な要素も肌感覚でわかる。社内研修で場数を踏んだことで、人前で話すことも苦ではなくなった。
「今の自分があるのは、クボタのおかげ」。心からそう思える。
最近は起業をめざす若いアスリートも少なくない。そんな教え子には「会社に入って学ぶことも一つの手やで」と語りかける。たとえ興味がない分野でも、目の前のことを一生懸命やることで気づけなかったことに気付けることがあるからだ。「不快適から逃げないことは大切」
準備でもっとも大切な要素の一つは自分を知ることだ、と二ノ丸さんは考える。自分のことは自分ではなかなか見えない。だから、いつでも苦言を呈してくれる複数の人間と定期的に会話するよう心がけている。多面的に自分を照らすことで、強みと弱み、今の課題と改善すべき点が見えてくる。課題が分かれば、正しい努力を積み重ねることができる。
こうした人生が、「他競技から学ぼう」の源泉にある。
二ノ丸さんはこう笑う。
「今はない道を作り出していくのが面白い。ラグビーのコーチできちんと飯を食べていく。それを、日本代表でもない自分がやることに価値があると思っている」
道なき道を、周到に突き進む。