ラグビーの多様性文化が後押し。同性愛を公表した村上愛梨のチャレンジ。
村上はアルテミ・スターズの仲間にも同性愛を打ち明けている。チーム古株のSO青木蘭、PRラベマイまこと(旧姓・江渕)、PR南早紀などだ。どんな反応が返ってくるだろうと身構えたが、彼女たちの反応はあっさりしたものだった。
いいじゃん。ジンさん(村上の愛称)は、ジンさんだから。
「『いいじゃん』という感じの反応でしたね。『ジンさんはジンさんだから』みたいな。みんな多様性に対する対応力がすごくあるんです」
ラグビーの、アルテミ・スターズの多様性文化が心地よかった。
「ラグビーは年齢も、国境も、宗教も越えちゃうスポーツ。体型がバラバラでもやれることは必ずある、という点でも多様性があります」
日本ラグビー協会としても、2019年10月、国際ゲイラグビー団体とLGBT+への差別や偏見を無くしていくための取り組みをする覚書を締結している。多様性を掲げるスポーツとして差別、偏見の解消へ向けて歩んでいるのだ。
友人の紹介で知り合った、同性パートナーの存在も大きな支えだ。
「自分よりも私を守ってくれるような人で、安心して自分をさらけ出せます。この人だったら未来を考えられる、と思えた初めての人です」
海外では2001年4月にオランダで初めて認められた同性婚だが、日本では認められていない。先進7か国(G7)で同性カップルへの法的保護がないのは日本だけだ。
’19年2月以降、同性婚を求めて5地裁(東京、大阪、名古屋、札幌、福岡)で集団訴訟が進められてきたが、’21年3月17日、札幌地裁が法律上同性のカップルが結婚できないことは違憲とする歴史的な判決が下された。いま同性婚の法制化へ追い風が吹いている。
「いまは別々に暮らしていますが、同性婚はしたいです。東京地裁の傍聴は一緒に行くようにしています。彼女は美術大学の出身で、絵が得意なので、法廷画を描いて同性婚の支援団体に送ったり、自分達に出来ることは何だろうと考えながら2人で活動しています」
また村上には最も付き合いの長い理解者がいる。
「お母さんは本当に昔から、私の味方でいてくれました」
初めて女性と付き合った高校時代は精神的に追い詰められたが、そんなときは母の姿が脳裏によぎった。村上にとっては命の恩人であり、またこの世で一番美味しいおにぎりを作る人でもある。村上をして「豪快」と評する人柄で、ちょうど’19年のワールドカップ期間中、村上の母は「目が合った」という理由で衝動的にトイプードルを買ったという。
今ではそのトイプードルとのスキンシップが、村上にとっての最高の癒やしになっている。愛犬の名は、’19年ワールドカップで引退した元日本代表にちなんでいる。
「トイプードルを飼っているんですが、名前は『村上トンプソンルーク』です。トンプソン選手が’15年のワールドカップから大好きで。正式な名前なんで、動物病院でも受付で『村上トンプソンルークちゃーん』と呼ばれます(笑)」
男子日本代表としてワールドカップ4大会に出場したトンプソンルークとの共通点は、ロックであること、そしてハード−ワークをすることだ。
今後はピッチ内外で「自分に出来ること」にチャレンジしていくつもりでいる。
「学校の部活動は何かが起こった時でも顔を合わせないといけません。そうした面で苦しんでいる子達に寄り添いたい。あとは、ラグビー界の一人としてカミングアウトできる人は本当に少ない。そういった子達に寄り添えるような発信はこれからもしていきたいです」
またデュアル・キャリアの啓蒙など、女子選手へ向けたサポート活動にも取り組んでいく予定だ。思い立ったら即実行。ロック村上のパワフルな前進に注目だ。