コラム 2019.05.23
【コラム】Yes or Yes の人々

【コラム】Yes or Yes の人々

[ 向 風見也 ]

「よく色々な場所で、チームを強くした秘訣を話してくださいと言ってもらいます。何か、魔法のようなことがあるように思ってもらうこともあります。でも実際のところ、そんなに特別なことはしていないんです。やっているのは、当たり前のことなんです(筆者注・大人数の部員に異なる目標設定やアプローチ方法を定めたり、選手同士のミーティングを活性化させて規則正しい寮生活を成り立たせたりといった施策)。ただ、その当たり前のことをやるか、やらないか、というだけなんです」

 そう。自分の不出来を棚に上げて言えば、「すげぇ」を放つ人たちは、「多くの人がその人と同じようにできない」かもしれない点も含めて「すげぇ」のではないか。

 すべての人に頭を下げるのだって、朝から晩まで頭と身体を動かすのだって、周りの人に気を配るのだって、常に成長への意欲を失わないことだって、文字に起こせば「特別」なことではないのだろう。一方で「その当たり前のことをやるか、やらないか」というゲインライン攻防で競り勝つのはそう簡単ではなく、少なくとも筆者は簡単に競り負けている。

 今年の9月にはこの国で初めてのワールドカップがあり、その後もいつまで続くかわからない記者生活のレールを駆けてゆく予定だ。ずっと誠実で、ずっと力強くいられる自信はない。確かなのはその場、その場で感じた「すげぇ」をなるたけ誇張せずにお伝えできるよう努めることのみだ。

【筆者プロフィール】向 風見也( むかい ふみや )
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(共著/双葉社)。『サンウルブズの挑戦』(双葉社)。

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