コラム 2019.05.06
【コラム】未来につながる不安定

【コラム】未来につながる不安定

[ 藤島 大 ]


   そこで代役の先発を託された若者、それが23歳のコリン・スレイドだった。そこまで同大会のジャパン戦などキャップは「8」。キック、パス、ラン、タックル、すべてに優れており、バックスリーなど複数ポジションをこなす。しかし、地元開催の世界の大舞台の主要なゲームで背番号10をまとう覚悟は、おそらく、まだなかった。

2011年RWC、イーデンパークでの準々決勝で負傷に倒れたコリン・スレード(Getty Images)

 およそ楕円球王国の男の子として最高級の身体能力、ラグビーの技術を有しているからここにいる。なのにカナダ戦の開始45秒前後、チャージをくらい失点。以後、自陣深くからのキックがライナーになったり、オフサイドで戻されたものの、あわや失トライのインターセプトを許し、抜いたあとに落球したり、どこか、おどおどしたような攻守はつきまとった。パスの腕が縮こまっている。準々決勝のアルゼンチン戦、落球寸前、ノータッチ、落球と続き、前半終盤に「鼠径部を痛めて」退く。大会は終わった。以後、追加招集組、代表からもれてスケートボードを楽しんでいたアーロン・クルーデン、ワカサギ釣りにいそしんでいたスティーブン・ドナルドに10番は託される。

 カーター負傷以降のスレイドは、現地で追った本稿筆者の独断では「イップス」にすら映った。どのグレイドでも同世代のてっぺんを走ってきた才能が、突然、ナイーブの魔界に引き込まれる。人間らしい。

 オールブラックスの一員がそうだったのだから、サンウルブズにひどく滑らかでない試合が訪れても不思議はない。それも歴史のパートなのである。チーム、いや、クラブもひとりの人間と同じなのだ。

 そしてラグビーの闘争史は語る。よちよち歩き→一歩進んで二歩退がる→よく勝つようになる→ここというところで星を落とす→栄冠→常勝。順を踏んだ進歩は負けを嫌悪する態度によってのみ実現する。ファンなら、サンウルブズが仮にだらしなく敗れたらブーイングを浴びせたって構わない。悔しがらぬ者に未来の凱歌は訪れない。たとえ、次のシーズンを最後にスーパーラグビーから外されようとも、そこまでの残り時間は「未来」なのだ。

藤島 大
【筆者プロフィール】藤島 大( ふじしま・だい )
スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。著書に『ラグビーの情景』(ベースボール・マガジン社)、『ラグビー大魂』(ベースボール・マガジン社)、『楕円の流儀 日本ラグビーの苦難』(論創社)、『知と熱 日本ラグビーの変革者・大西鉄之祐』(文藝春秋)、『ラグビーの世紀』(洋泉社)、『ラグビー特別便 1986~1996』(スキージャーナル)などがある。また、ラグビーマガジンや東京新聞(中日新聞)、週刊現代などでコラム連載中。J SPORTSのラグビー中継でコメンテーターも務める。

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