130年を超える歴史を重ねた伝統の一戦で、今年も渕上 裕(ふちがみ・ひろ)がピッチに立った。
昨年に続きトライを挙げた。勝利に貢献し、再び歴史に名を刻んだ。
昨年Year11(高校1年生)で一人だけクライストチャーチ・ボーイズ・ハイスクール(以下、CBHS)の1st XV(一軍)に選ばれた渕上は、Year12(高校2年)になっても1st XVのレギュラーとして活躍を続けている。
昨年までSH 、CTB、WTBの様々なポジションこなしていた。今季は5月18日のMiles Toyota Premiership (クルセイダーズの地域の1st XV)の開幕戦から背番号9を付けて公式戦に出場している。
◆日本人高校生が、クライストチャーチ(NZ)の名門校で開幕戦先発出場。
◆クライストチャーチボーイズ高の渕上裕が伝統の一戦で先発。トライも挙げる。
◆準決勝では日本人対決も。クライストチャーチボーイズ高校の渕上裕がクルセイダーズ地区で優勝
6月4日の火曜日の午後1時、雲ひとつない晴天。冬に入ったとは思えないほどの暖かさの中、CBHS×クライスト・カレッジの伝統の一戦、通称カレッジマッチが行われた。
昨年は、CBHSのグラウンドでおこなわれ37-3でCBHSが圧勝している。
今年は、どちらかの学校での開催ではなく、リンウッド・ラグビークラブのグラウンドのリンフィールド・パークで初めての開催となった。ニュートラルな開催地だけに昨年のようなホームアドバンテージはない。
学校を挙げての一大イベントのカレッジマッチとあり、この日の授業は短縮され、両校の生徒を乗せた大型バスが何台も会場に到着。そしてOBやラグビー愛好家は、車で会場に駆け付ける。周辺は大渋滞となっていた。
その光景からも、伝統の一戦の重みが伝わる。
キックオフが近づくにつれて、会場のザワツキが徐々に熱気を帯びてくる。試合が始まる前から、応援に駆け付けた生徒たちはスイッチ全開。選手だけでなく、生徒たちも一緒に戦っている。まさに好敵手との対決だ。
サイドラインで見守る生徒達が必要以上にエキサイトする事があるため、警備員が至る所に配置されるほど厳重警備の中で試合は実施される。
選手が入場すると会場の盛り上がりは最高潮に達した。そしてまもなく両校のHaka(ハカ)が始まった。
最初にCBHSがハカを披露。1st XVで2年目となる渕上がチームからの信頼を得て今年からハカの中心に入る大役を任されている。
続いてクライスト・カレッジのハカがおこなわれ、いよいよキックオフとなった。
普段の公式戦とはまったく違う雰囲気なのは言うまでもない。選手たちも緊張しているのか、キックオフでは、普段ではありえないミスが起こるほどだった。
試合開始まもなくしてCBHSが敵陣ゴール前のラインアウトのチャンスを迎える。昨年と同様に得意としているモール攻撃でトライを狙う。
耐えるクライスト・カレッジに対して、背番号9を付けた渕上がインゴールに飛び込んだ。昨年の伝統の一戦に続いて今年も渕上がトライを挙げた(5-0)。
その後は、お互いにトライを奪い合いシーソーゲームが続いた。FW戦でプレッシャーを受けていたCBHSは反則を繰り返しシンビン選手が出た(32分)。
すかさず数的有利を活かしたクライスト・カレッジがスクラムからBKに展開してトライを奪う。10点のアドバンテージを得たクライスト・カレッジが25-15のリードでハーフタイムを迎える。昨年以上に白熱の展開となった。
◆後半ギアを上げたCBHSが逆転勝利で伝統の一戦を制す。
クライストカレッジに勢いのある前半戦だったが、後半に入ると流れが一変した。
前半と同様に後半始まってすぐにトライを挙げたCBHSが3点差に詰め寄る(22-25/後半3分)。
続いて、後半13分にも1トライを追加したCBHSが10点のビハインドから一気に逆転に成功(29-25)。
再び流れを引き寄せようと試みるクライストカレッジに対して、CBHSはFW戦で奮闘して試合を有利に進める。そして後半20分、ターンオーバーから1トライを追加して34-25のセーフティーリードに持ち込んだ。
その後もCBHSが気を緩めることなく試合をコントロールした。後半はクライスト・カレッジをシャットアウト。34-25のスコアで伝統の一戦の勝利を手にした。
試合が終わった瞬間にサイドラインから生徒たちが駆けつける。伝統の一戦ならではの光景が見られた。
勝利したCBHSの選手を祝福するためにたくさんの人だかりができる。笑顔があふれる一方で、負けたクライスト・カレッジの選手たちが肩を落としていた。 同じピッチでふたつの物語が作られた。
いろいろな問題を抱える現在のNZラグビー。そんな中、クラブラグビー、スクールラグビーで純粋にラグビーを楽しんでいる姿がある。
今年もピッチをぐるっと囲んだ大勢の観客で盛り上がった伝統の一戦。日本人選手、渕上の活躍を嬉しく思うとともに、NZラグビーを本当の意味で支える大切なものを見せてもらった気がする。