混乱していたオーストラリア代表“ワラビーズ”の新しい指揮官がようやく決まった。
ラグビーワールドカップ2023フランス大会で初のプールステージ敗退という屈辱を味わい、2027年に自国で開催される大舞台まで率いる予定だったエディー・ジョーンズ氏が約10か月で突然の辞任。協会トップも責任を取らされるなど、大きく揺れていたが、ワラビーズの新ヘッドコーチ決定で、再出発を切る。
新しいヘッドコーチに決まったのは、世界最優秀コーチに選ばれたこともあるニュージーランド人のジョー・シュミット氏だ。現在、58歳。
エディー・ジョーンズ氏の後任をめぐっては、昨年のワールドカップでアルゼンチン代表を4位に導いたシドニー出身のマイケル・チェイカ氏も候補と言われ、同じオーストラリア人でワラビーズのアシスタントコーチを務めたことがあるスティーブン・ラーカム氏やダン・マッケラー氏、さらに、南アフリカ代表を率いて2007年のワールドカップ優勝を遂げたジェイク・ホワイト氏らの名前もメディア上で挙がっていた。
オーストラリアラグビー協会のディレクター・オブ・ハイパフォーマンスとなったピーター・ホーン氏によれば、ワラビーズの偉大なOBも含めた徹底した採用プロセスを経て、「ジョーの任命は満場一致で決定した」とのこと。「パネルの全員が彼の態度、試合に対する冷静かつ論理的なアプローチ、そしてコミュニケーションスタイルに感銘を受けた」と語っている。
シュミット氏は、母国やフランス、アイルランドのクラブチームでコーチングのキャリアを重ね、レンスターを2度も欧州王者に導くなど多くのタイトルに輝き、2013年から19年にかけてはアイルランド代表のヘッドコーチを務めた。その間、シックスネーションズ(欧州6か国対抗戦)は3度優勝し、2018年にはグランドスラムを達成、そして翌年には、アイルランド代表を初の世界ランキング1位に押し上げた、まさに名将である。2019年のワールドカップ(準々決勝敗退)を最後に帰国し、本人いわく、「ニュージーランドに戻ったら引退しようと思っていたが、それがとても苦手で」、2022年シーズンにブルーズのコーチングスタッフに加わると、同国代表“オールブラックス”のセレクターに就き、のちにアシスタントコーチ(アタック担当)となって低迷していたオールブラックスを立て直し、2023年ワールドカップの決勝進出に貢献した。
彼の手腕は高く評価された。
そして、オーストラリアラグビー協会は1月19日、ワラビーズの新しいヘッドコーチにシュミット氏が就任することを公式に発表。シュミット氏は少なくとも、来年にあるブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズのオーストラリアツアー終了までワラビーズの指揮官を務めることになる。
シュミット氏は、「ワラビーズが困難な時期を乗り越えてきたことは承知している。より連携を強化し、オーストラリアラグビー協会からの明確な指示を得て、ワラビーズが前進する道を築く手助けをしたいと思っている」と意気込みを語った。
来年のビッグイベント後の将来については、まだ不確実なことがたくさんある。シュミット氏には、重度のてんかんに苦しんでいる息子がおり、家庭も大事にするなか、長期契約とはならなかった。「今後18か月で仕事をやり遂げ、正しい方向に向かう勢いをつかむことができれば、自分の役割は果たしたと感じるだろうし、もし可能であれば喜んで引き継ぐつもりだ。もし、私が残留することが最善ならば、それが私たちが渡るべき橋だ」
ニュージーランド人だが、強いワラビーズを復活させたいという思いは強い。シュミット氏は、「世界のラグビーファミリーは、ワラビーズがいるべき場所にいることを望んでいると思う。私はワラビーズが競争力を発揮することを切望しており、もし私にできることがあれば、それが私がここにいる理由だ」と語った。「再建には少し時間がかかるだろうし、私はおそらく現実主義者だ。可能な限りの成功を収めるために、懸命に努力するということ以外、何も約束することはできない」
オーストラリアラグビー協会のフィル・ウォーCEOは、「統一したラグビーシステムを構築するという我々の明確な計画を考えると、世界で最も足並みをそろえたラグビー大国であるアイルランドとニュージーランドでのジョーの経験は、我々が前進する上で間違いなく貴重なものになるだろう」と期待している。
ワラビーズの指揮官となったシュミット氏が本格的に動き出すのは3月1日からで、スーパーラグビー・パシフィックで選手をチェックし、7月にはウェールズ代表とテストマッチを戦う。