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【連載】プロクラブのすすめ⑥ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 2024シーズンからのリーグのあり方

2023.03.13

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛けを山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 6回目となる今回は、2シーズン後に変化を迎えるリーグワンのあり方について、語ってもらった。(取材日3月1日)

◆過去の連載記事はこちら

――まずは久しぶりのホストゲームから。2月25日のサンゴリアス戦で、(マスク着用の)声出し応援が解禁されました。

 声出し応援は初めてだったので、いくつか試してみました。ラッパ音でパララララと鳴らしたら「レヴズ」と叫んでもらったり、こちらがブルーと言ったらレヴズと答えてもらったり。
 これは前回(第5回)もお話ししましたが、声出しはMCがずっと叫んでいれば声が出るようになるかというとそうではありません。目指すのはこちらが何もしなくても、声が出ること。そういう雰囲気をいかに作れるかだと思っています。すぐにはできないと思っていますし、まだ声出し自体に恥ずかしいと思う人も多いでしょう。続けることが大切ですね。

 ラグビーはこれまでホームゲームがなかったので、どう自分たちのホームゲームを盛り上げるかを考える余地がなかった。初めての挑戦なので、どういうシーンでどう盛り上がるのか、どう声を出すのかは、お客さんの反応を見ながら作っていきたいです。今シーズンはアイドリング期間というか、どこで声を出すかのお約束のシーンをいくつかお見せできればと思います。
 そんな中でも、先日の試合ではみなさん積極的に声を出してくれました。コロナの扱いがこれから変わっていくので、気持ち的にも声を出しやすくなるのかなと思っています。

――サンゴリアス戦は好カードでしたが、観客は4552人(ヤマハスタジアム)。目標の7000人には届きませんでした。

 浜松は総領事館があるほどブラジル人の方が多いので、ブラジルのカーニバル(サンバ)を披露したり、サントリービールを飲みこめ! という大人向けの企画を立てて、イベント盛りだくさんで臨みました。
 ですが、そうした情報を伝えるターゲットに、ミスマッチがあったという反省がありました。ラグビーに関心のない人(ライト層)にどう伝えていくか。コミュニケーション戦略の部分です。
 ラグビーがもともと好きな方に対しても、サントリーという日本代表がたくさんいるチームとのマッチメイクということをもう少し訴えればよかったなと。過去には日本選手権の決勝で戦った、ヤマハとサントリーの歴史やストーリーをもっと訴えるべきでした。

 来場者アンケートではすごく満足が高いんです。お酒を飲めて、カーニバルも見れて、天気も良くて、すごく楽しかったと。やってることは間違ってない。ただ、それを興味を持ってる人に的確に届ける、というところに甘さが出てしまいました。

――以前(第1回)、リーグと各チームの代表者によるミーティング(実行委員会)が毎週あると聞きました。いまはどんな議論を進めていますか。

 次の次の(2024-25)シーズンの話が中心です。リーグワンは昨シーズンからの3年間をフェーズ1と位置づけているので、再来年度のシーズンから次のステップに移ります。試合数やフォーマット、開催時期が焦点です。
 いまは個別のチームへのヒアリングが終わり、どういう考えや意見があるかが共有された段階。次は実行委員会のメンバーが集まって議論できる場を設けるとのことなので、リーグとしてしっかり方向性を決めようと動いています。

 自分の意見としては、D1を12チームでやる以上、各チームとホーム&アウェーで2回戦う22試合は最低限の試合数です(現在は16試合)。フェーズ1では代表活動を考慮して期間を短くしたために、変則的になった。各カンファレンスでは2回戦うけど、対抗するカンファレンスとは一度しか戦わない、でも順位は全チーム並べた勝ち点で決める。少し納得度が低いですよね。
 ただ試合時期を伸ばすことは、代表選手を多く抱えるチームにとっては非常に不満もあると思います。選手にお金を払ってるのはクラブなので、戦力的にも興行的にも痛手。代表側が金銭的な補償をしたり、選手の登録や移籍に柔軟性を持たせることは、セットで議論されるべきです。
 いまはシーズン中にチーム間を移籍することはできませんが(海外リーグからは可)、選手をレンタルできたり、新たに契約したりできるようにする。ゆくゆくはサテライトチームを作り(第2回に詳しい)、そこにいる選手であれば何度も登録抹消ができる、みたいなこともできたらいいですね。

――日本代表が長期合宿を通して成果を挙げてきた背景を踏まえると、リーグと代表の並走は議論が難航しそうな印象を受けます。

 確かにバスケやサッカーは国際試合がシーズン中にあっても、長期的に拘束されません。先日バスケは国際試合がありましたが、その時は1部リーグ(B1)を3週間止めただけでした。ここがラグビーとは違う。
 とはいえ、試合時期を長くするには、代表活動との並走は避けて通れません。試合数を増やした方がいいと感じているチームが多いのも事実です。

 リーグやチームにとっては、プラスしかないと思っています。スポンサーや放映権の価値を上げられ、多くの選手にチャンスが巡ってくる。長丁場をどう戦うかを考えることは、各チームの強化にも繋がります。
 代表強化は2015年のW杯からずっと成功していると思いますが、そうではないやり方を模索したり、ファン目線で考えたり。リーグワンがなにを目指すのか、本質的な議論ができればと思っています。

――開催時期については、山谷さんが何度も訴えているテーマですね。ほかにも変えた方がいいと感じていることがあれば教えてください。

 開催時期は屋外スポーツであることも考えれば、お客さんが見やすい時期、寒くなく過ごしやすい3〜5月、9〜11月がベストです。寒かったり、天気が悪いと一気に着券率が下がるのは、この2年で痛感してます。

 ほかは細かいところですが、スポンサー関係ですね。他競技と比べると、試合時のチームのスポンサーを露出する場所が少ないです。例えば、記者会見やプレイヤー・オブ・ザ・マッチの裏に立てるボードは、他競技であればホームチームのスポンサーのロゴなどが並ぶのですが、リーグワンはリーグのものなんです。選手の入場口周りもそうです。(パートナーシップを締結したTOP14の)トゥールーズではそこもうまく活用していました。もう少し、チーム側の権益を増やせればと思っています。

――興行としてのラグビーの難しさはどう感じていますか。ラグビーは現状、他のスポーツと比べて試合数が少なく、各チームが抱える選手数も多くてコスト(人件費など)がかかります。

 確かにバスケはコンパクトな規模です。選手は1チーム12人、観客も1試合3000〜4000人呼べれば大盛況。ラグビーの方がスケールは大きいので難しさはありますが、可能性は十分にあります。
 ラグビーのコンテンツとしての価値や評価は本当に高い。しっかりと見やすい時期に面白い試合をして、お客さんに楽しんでもらえること(演出)ができれば、絶対に人気が出ます。

 おいしい料理はあるんです。ただ、ついこないだまでは、まかない料理のように身内だけで食べていた。きちんとお客様に食べていただこうということで始まったのがリーグワンです。味見をしてもらったり、メニューを説明したり、内装をよくしたり、店員の愛想をよくしたり…。しっかりプロモーションできれば必ずその店は繁盛するはず。いまはその一つひとつを積み重ねている段階だと思います。

――リーグワンが創設されて1年半が経ちました。いい方向に向かっていると感じますか。

 それは絶対にいい方向に向かっています。一番はやはりホーム&アウェーにして各チームが興行を始めたこと。コロナの影響はありますが、チームの色が出始めていますよね。しっかり収益を求めて、自分たちの価値を高められている。
 ただ収支を合わせるのは難しく、お客さんが少なかったり、会場の演出にお金をかけ過ぎれば当然赤字になる。どこのチームもそこのバランスを試行錯誤しているところだと思います。我々はこの間の試合のように4000人でも利益が出るような状況になってきました。興行での満足度や収益を上げることをだいぶ学習できてきていると思います。

 次のステップは、リーグ全体として売り上げをどう上げていくか、より良くしていくためにどうするか。先ほど話した試合数だったり、企業名を取るのか、チームを会社化するのかといったチームのあり方も考えていかないといけない。そうしたステップを踏まなければ成長は続かないと思っています。



PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)