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「選手もコーチも、育てる」。ディディエ・ラクロワ会長[スタッド・トゥールーザン]インタビュー(下)

2023.01.05

ラクロワ会長は、フランス国内優勝6回、チャンピオンズカップ優勝1回と、黄金期を築いたクラブの1990年台を象徴する選手のひとりだった。(Stade Toulousain Rugby)

ホームスタジアムのエルネスト・ワロンに隣接するスペースにある赤黒白の壁は、コロナで試合ができなかった時期に寄付を募ったもの。1枚30ユーロで名前入りのプレートを買ってもらい、壁を作った。「支援の壁」と言われている。150ユーロの寄付だとプレートのレプリカももらえる。2021年1月時点で2万枚を超え、140万ユーロ(約2億円)に達したと報道されている。



 フランス国内優勝21回、欧州チャンピオンズカップ優勝5回と両大会で最多優勝を誇る。
 スタッド・トゥルーザンは、アントワンヌ・デュポンやロマン・ンタマックのようなスター選手を抱え、またフランス代表に最も多くの選手を輩出している。

 ラグビーの成績だけではなく、今年は予算額でもトップ14の中で最大の同クラブ。その成功の秘密をディディエ・ラクロワ会長に訊いた記事の第2弾だ。

 ラクロワ会長(52歳)は自身も1983年にスタッド・トゥルーザンのジュニア部門に加入、1990年から2002年まで1軍でフランカーとしてプレーした人だ。
 2017年に現在の会長職に就任し、新たな黄金期を築くことに成功した重要な人物である。


◆コーチを育てることが大事。

 過去4年でこのクラブから7人の選手がフランス代表に選ばれました。
 代表選手がトゥールーズに加入したのではありません。

(イタリア代表FBの)アンジュ・カプオッゾは世界的に注目される前に契約していました。前回のシックスネーションズの前にすでに話はできていました。
 メルヴィン・ジャミネ(フランス代表FB)も、彼がまだ2部リーグのペルピニャンでプレーしていた時に話を進めていました。フランス代表でデビューする前です。

 ペルピニャンが2部リーグのままだったら、トップ14のクラブに移籍が許される条項が彼の契約には含まれていました。
 しかしペルピニャンが昇格したことで、トゥールーズへの移籍は1年遅くなりました。メルヴィンは、その間に代表選手になったのです。

 最近は他のクラブでプレーしているフランス代表の選手がこのクラブに来たいと言うようになりました。WTBダミアン・プノーも来たがっていますが、まだわかりません。
 代表選手全員と契約することはできません。代表の試合がある期間、誰もいなくなってしまいます。

 これからもスタッド・トゥルーザンが独自のチームであり続けるために必要なことがあります。
 若手の育成で大切なのは、選手を育てることではなく、選手を育てるコーチを育てることです。

 25歳のジュリアン・マルシャン(HO)がこうあるためには、15歳のマルシャンはどのようにスローイングをしなければならないのか。
 そこが大事。

 17歳のマルシャンはどのようなタックルをしなければならないのか。
 コーチが、19歳のマルシャンはどのように走らなければならないのかを分かっていなければならない。

 プロチームのコーチはU14のコーチに、「このポジションの選手は毎日スローイングを20分しなければならない。ただ、1時間もする必要はない、嫌になってしまうから」と伝えなければならないのです。

「このポジションは、毎日背中のウェートトレーニングをしなければならない。このポジションでプレーするためには、首と背中の姿勢が重要」と、コーチは一般的なトレーニングではなく、ポジションに特化したやり方を指導することが重要です。

 周辺のラグビースクールのコーチも育成しなければならない。
 私たちは、それぞれのクラブと一つになり、コーチを育成することに時間を割いています。
 ここから半径50キロ圏内のクラブにより多くの指導者がいるように支援する。提携クラブが構築できるように手助けをしています。

 提携クラブとの関係性が構築されると、良い選手が出てくる。良い選手が出てくると、コーチはボルドーやモンペリエではなく、スタッド・トゥルーザンに選手を送りたい、スタッド・トゥルーザンに入れることを誇りに思ってくれる。

 その選手たちがスタッド・トゥルーザンでプレーして、出身クラブのラグビースクールに顔を出すと、スクールの子どもたちがまたスタッド・トゥルーザンに来たくなる。
 好循環が生まれるのです。

 また、ラグビースクールのコーチはボランティアが多いことが現状です。
 夏休みなどに、子どもたちの合宿を企画します。その参加費がコーチの収入になれば、ボランティアではなく仕事にもなります。


◆女子の可能性。勝利のアドレナリン。

 昨年は女子のエリート(シニアカテゴリー)でも、すべての年齢別のカテゴリーで優勝しました。
 フランスでは女子スポーツが成長しています。私たちはラグビー界のリーダーとして早い段階から女子ラグビーの発展に取り組んできました。

 早い時期に、女子ラグビーが男子ラグビーと同じぐらい人を惹きつけるポテンシャルがあることに気づきました。

 女子ラグビーは30年前の男子ラグビーの状態に似ています。
 協会とプロ契約を結んでいる代表選手を除いて彼女たちはまだプロではないので、クラブの受付、コミュニケーション、チケット販売、私のコミュニケーション事務所など、彼女たちの仕事を準備しました。

 彼女たちはこのクラブで働いている人たちを一つにすることができる。クラブ全体が彼女たちの試合に関心を持つからです。

 今はまだ女子ラグビーで得られる収入よりも、運営などにかかる支出の方が大きい。しかし、いつか収入が支出を上回る日が来るでしょう。
 もしかしたら、女子ラグビーでアメリカに縁ができるかもしれません。アメリカでサッカーは、男子よりも、まず女子で人気が出ました。

 もしかしたら新しくラグビースクールに加入する子どもは、男子よりも女子の方が多くなるかもしれません。
 そういうことも考えて、方針を定めていくのです。

 女子の1部リーグのチームを作るには、まず育成が必要です。そこでもっとも大切なことは、ファーストチームの選手の70パーセントが、このクラブの育成コースの出身だということです。

 70パーセントの選手のうち3分2は、年齢別のカテゴリーでの優勝経験がある。
 2019年、エスポワールで優勝しました。

 若いカテゴリーで優勝を経験すると、優勝した自分のイメージを持つことができる。家族、同僚、友人と喜びを分かち合い、クラブの祝勝会でも盛り上がる。
 それがさらに努力を続けるパワーになり、再びこの感激を味わおうとする。

 これが勝利のアドレナリンです。
 ドラッグのように1度勝つとまた勝ちたくなる。さらにパワーが生まれ、チームに一体感を与えます。これがスタッド・トゥルーザンなのです。

 スタッド・トゥルーザンをいくつかの言葉で表すと、育成、社会貢献活動への取り組み、勝ちたいという意欲になるでしょう。
 内容は、5年前、10年前にしていたことから進化している。また5年後、10年後も変わっていく。

 若者へのアプローチや指導方法も変わりました。10年前は2人だったコーチが、今は7人になっています。将来は15人、もしかしたら3人になるかもしれない。
 常に時代の流れに適応できるように敏感でいなければなりません。

 そして大胆にプレーし、成長する。
 メソッドがあるのではなく、原則があって状況に合わせて対応していくのです。


【メモ】
 フランスでは環境への取り組みも重要視されています。試合の日の行動やゴミの処理などについて注意を促しています。
 しかし、(航空産業が盛んな地域の)トゥールーズで飛行機を批判することはできません。

 飛行機はCO2を生むと批判する人もいますが、飛行機を使うと速く帰ることができ、次の試合に備えてリカバリーもできる。
 さらにトゥールーズでは地域の人の10人に4人がエアバス、もしくはエアバス関連会社から収入を得ています。飛行機を批判することはできないのです。
 エアバスがCO2排出量を大きく削減してよりクリーンな飛行機を作ってくることを願っています。


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