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【ルリーロ福岡/2022レビュー(下)】個々のチャレンジ。それはチームのエナジーであり未来

2022.12.31

高いレベルを維持するFB髙野恭二。(撮影/松本かおり)

低いタックルを見せるHO倉屋望。(撮影/松本かおり)
最終戦ではSOを務めた田辺雅文。(撮影/松本かおり)
東京ガス戦には大勢のファンが足を運んだ。(撮影/松本かおり)



 2022年の春に発足したルリーロ福岡(以下、ルリーロ)には、「ここなら夢を叶えられるチャンスがある」とやって来た若者もいれば、夢を追い続けている者もいる。

「ウイ・ハブ・ウイングス/私たちは翼を持っている」 
 その理念には、誰もが、いつでも、どこでも、何度でもチャレンジできる社会の実現を目指そうという思いが詰まっている。

 東京ガス戦に2番、HOで出場した倉屋望(29歳)は、リーグワン2022を最後に休部となった宗像サニックスブルースでプレーしていた。
 大好きだったチームでの活動を終えるタイミングで引退も考えた。しかし、いま、新天地で若手に影響を与えている。

 シーズン最終戦を終えて、「楽しかった。それが一番の思いです」と話した。
「始まったばかりのチームです。若い選手たちも多い。エナジーを感じています」

 倉屋は常翔啓光学園高校、関西大学を卒業後、ブルースでプロ選手として生活してきた。
 現在は、多岐にわたる環境整備をおこなう会社で働きながらプレーを続けている。
 将来は教員になりたい。その前に社会経験を積もうと、現在の生活を送っている。

 プロとしての日々から大きく変わった。
「仕事を終えた後の平日の練習は、(ラグビーが好きなので)ご褒美みたいな感じです。週末が近づけば近づくほど疲れが蓄積するのですが、生活は充実しています」と言う。

 ブルース時代はムードメーカー。ルリーロでも積極的に若手と話す。
「みんな心を開いてくれる」と笑顔になる。

 発足元年。チームはトップキュウシュウの開幕戦に敗れ、目が覚めたようだったと言う。
 注目される中でふわふわしていたかもしれない。負けたことで、地に足をつけて戦うことができるようになった。

「切り替えて、よく戦ったと思います。きょうも、トライを取られてもポジティブな声が出ていました。今シーズンはスタートを切るのが遅かったけど、来年はしっかり準備できるし、もっと戦えると思っています」

 この日は10番を背負ってプレーした田辺雅文(28歳)は、長崎北陽台高校、専修大学で活躍した後、コカ・コーラレッドスパークスでプレーを続けた。
 2021年の春に同チームが廃部となるまで在籍し、翌シーズンは豊田自動織機シャトルズ愛知へ。
 同チームでは活躍の機会をつかめず、うきはへやって来た。

 スピードのあるアタックを強みにしているSHは、ケガに泣いた。
 ヒザの前十字靭帯を断裂し、レッドスパークスでの最終シーズンはピッチに立てず。
 華やかな舞台から遠ざかっている間に、トップレベルのチームを離れざるを得なくなった。

「そのとき(現役生活を)やめようと思ったんです。でも、福岡に新しいチームができるよ、と、みんなが誘ってくれました。それで、ラグビーをもう一度楽しもうかな、と思いました」

 高いレベルに再挑戦する意欲も失っていない。
 ただ、トレーニング環境はトップチームとは大きく違う。難しいとは分かっているけれど、「環境のせいにはしたくない。頑張るかどうかは自分次第」とベクトルを自身に向ける。
 田主丸中央病院で介護の仕事をしながら前を向く。

 トップレベルを経験してきた者として、リーグワンへの道は簡単ではないと理解している。
「きょうの試合で、自分たちの現在地が分かったと思います。上のレベルを知らない若手も、いまのままではダメだと分かったはずです」

 しかし、「ここから上がっていくだけ」とシンプルに考える。
 この日はSOでプレーしたが、本人も、上を目指すなら本職のSHだと分かっている。
 チャレンジは続く。

 敗戦の中、髙野恭二はFBの位置でレベルの高いパフォーマンスを出し続けた。
 宗像サニックスでも出場機会の多かった26歳は、もう一度トップチームでプレーをするため、このチームを引き上げるため、気持ちの入ったプレーを続けている。

 前所属チームでの活動が今年の5月に終わった後、新天地を求めて複数のチームにアプローチした。
 声をかけてくれたところもあった。しかし条件が折り合わなかったり、タイミングが合わず、話はまとまらなかった。
「いまは、ラグビーが好き。そのシンプルな理由でプレーを続けています」

「もう一度、高いレベルでやりたい」
 その強い覚悟を胸に、シーズン中もプレーの質にフォーカスしてきた。
 強豪チームの関係者の目に触れた時、印象付けるプレーをしていなければだめだ。
 高いクオリティを維持していないと、新たな契約を得ても活躍できない。
 髙野はシーズンを終え、あらためて新たな可能性を模索する思いを胸に秘める。

 この先がどうなるにせよ、うきはでの数か月間の生活は、今後の人生を豊かにしてくれると感じている。
 ワインを作っている会社で働いている。農家と連携して葡萄の仕入れなどをおこなう。
「会社員の経験がなかったので、仕事を通して知識も経験値も増えて、人間的にも成長できたと思います」

 東福岡高校時代は全国大会優勝を果たしている。
 しかし、青学大や宗像サニックスでは白星から遠い期間も少なくなかった。
 そしていま、よちよち歩きのチームで、働きながら奮闘する。
 人生って面白いなあ。

 一人ひとりにストーリーがあるのも、ルリーロの魅力だ。
 新しいシーズンには、また特別な魅力を持った選手たちが加わる。
 応援者も増える。
 うきはがもっと熱くなり、夢の実現が少し近づく。


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