日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛けに迫る連載、第3回。
リーグワン2022-23開幕まで1か月を切った中でおこなった山谷拓志社長へのインタビューでは、フランス出張を中心に開幕に向けた進捗状況を訊いた。(取材日11月30日)
◆連載(第1回)「今季のプレシーズンを振り返る」
◆連載(第2回)「来年のW杯中になにができるか」
――開幕まで1か月を切りました。
自分は地域の会合に毎日参加したり、講演会を積極的に入れている状況です。講演は1日に2回おこなう日もあります(笑)。チームの近況報告やこれから何を目指していくのかなどを話し、最後に開幕戦の告知とチケットの即売会をしてます。
地道なことですが、結構これがチリツモで大事です。年末なのでスポンサーの皆さんとの会食も増えますので、そういった機会では常にチケットを持参してその場で営業しています。
――スポンサー獲得の状況はどうでしょう。
初年度は約80社にご支援いただき、(目標を大きく越える)3億円でした。ただ今年は新しく決まった企業も多くあるのですが、景気の動向を踏まえて今年は継続を見合わせる企業もあり、結果、微増くらいになりそうです。(7月の会見では)目標5億円と鼻息荒く言ってはいたのですが3億円台の見込みで、ジャージーにもまだ広告掲載できるスペースが余っている状況です。
もちろん初年度の伸びが良過ぎた、ということもあるのですが、営業マンを採用したり、新規のお客さんとの接点づくりも増やしていかなければいけません。来季の課題です。
――では、開幕に向けてチケットの販売状況はどうでしょう。
チケットを発行した枚数は1万枚ほどいきましたが、なかには招待券も入っているので、着券率(配布した枚数のうち、どれだけ実際の入場に使われたかを示す割合)で考えると5000人は見込めるという状況です。1か月前の数字としては悪くないです。
ただ1万人という目標まではあと半分、積み上げなければいけません。先日は小柳ゆきさん(歌手)の来場や、先着1万人にニットキャップを配布することを発表したり、この1か月は広告や新聞記事、テレビCMにも力を入れているので、そこでなんとか目標までたどり着ければ、と思っています。
――開幕に向けて、イベントもたくさんおこなってますね。移転した事務所の前にある今之浦公園も早速活用していました。
前回、ジャージーにプリントする機械を持っていることはお話ししましたが、11月6日のファミリーフェスではその場で刷ったTシャツを試作品として販売してみました。これが結構、反響が大きかった。テストマーケティングの場にもなるなと。
某スポーツアパレル用品メーカーでユニフォームのデザインとかも担当していたデザイナーの平野(明日香)さんがいろんなデザインを考えてくれるので、それをプリントして、イベントで出して、(ファンの反応が)よければ大量生産(グッズ化)、みたいな流れを作れそうです。
グッズでいえば、今年は計画値以上の伸びが期待できます。11月26日の神戸とのプレシーズンマッチでは、雨もあって観客は伸び悩んで2000人を割ってしまいましたが、グッズは200万円ほど売り上げました。これは大きい方です。
グッズは新しいデザインやファンが欲しいと思えるものを投入していけば、まだまだ伸びる余地がある。タンブラーで有名なハイドロフラスクさんとのコラボ商品なんかは、僕もめちゃくちゃ欲しいと思えるものでした(笑)。そうしたブランドとのコラボはどんどんやっていきたいと思ってます。
――今回のメインテーマですが、フランス出張のお話を聞かせてください!
スケジュールが合わず日本代表戦は見れませんでしたが、11月上旬に3日間行ってきました。ヤマハ時代から交流のあるスタッド・トゥールーザンと、あらためてパートナーシップ協定を締結するためです。
まずは選手やスタッフの交流もコロナでなかなかできなかったので再開しようと。そしてこれからどういう取り組みをしていくか。まだ確定していませんが、国際親善試合を来年のW杯の前後でどちらかが遠征しておこなおうと話しています。
これは選手をリクルートをする上でもウリになると思っているので、大きな取り組みです。なによりTOP14で何度も優勝してますし、ンタマックやデュポンなど多くの代表選手を輩出してる強豪チームですから。
売上高としても40〜50億円出してるクラブなので、われわれが目指す規模感でもあります。
――3日間の滞在で感じたことはありましたか。
トゥールーズの試合を見ましたが、かなり勉強になりました。フランス以外の代表も入れると10人くらい主力が抜けた試合で、実際、下位のチームにかなり苦戦して引き分けに終わりましたが、スタジアムは満員でした。約1万8000人のキャパシティ(スタッド・アーネスト=ワロン)で、この後の試合も売り切れは続いていると。
話を聞いてみると、どんな選手が出ても自分たちの町にあるクラブを応援するのは当たり前で、若い選手や控えの選手が出ているいまだからこそ、来ているファンもいました。試合が終わると今度は2軍の試合が始まり、それも楽しみながら見ていた。僕らも1日に2試合やれたらいいなと。
〈山谷社長のサテライトチーム(2軍)構想については第2回に詳しい〉
コンパクトなスタジアムでしたが、トラディショナルなレストランも若い人たちが入れるバーもありましたし、いろんなおもてなしがありました。試合会場周りにある子どもたちの体験コーナーも、ラグビーの動きを取り入れてるものが多かったです。バンジーのゴムを付けて走るアトラクションも、どこまで遠くまで走ってトライできるか、みたいな。
スポンサーの露出のさせ方などは、バスケの世界ではだいぶ見てきましたが、ラグビーのプロクラブがどうしているかは、かなり勉強になりました。ハーフタイムのキックコンテストでは、マクドナルドの巨大カップに蹴ったボールを入れるとプレゼントがもらえるイベントがあったり、試合後にスポンサーと選手が交流する場もしっかり設けていた。このスポンサーに対してはこの選手が来る、といったものがパーティールームの中で設定されている。選手も迷わないし分かりやすいなと。
こうしたノウハウも含めて意見を交換していくので、ビジネス面でもチームの強化の面でもかなり収穫のあった出張でした。
――今すぐレヴズのホストゲームでも取り入れたいものはありましたか。
ありました! 試合会場でかかってる曲とか、試合前後にグラウンドにラジコンカーがずっと走っていたので、これはマネしてみようと。なにかのプロモーションだと思うのですが、静岡にはタミヤさんがあるので、早速提案したいと思っているところです。タミヤさんの宣伝にもなるし、そこに旗をつけて企業のロゴを入れれば、スポンサーのアクティベーションにもなる。良いアイデアがあれば、僕はすぐにパクります(笑)。
あとは選手育成の仕組みですね。あらためて重要だと感じました。バスケではユースチームやジュニアユースを作ろうと、サッカーを見習った動きがあるのですが、とはいっても高校や大学のチームはまだまだ多いし、大会もしっかりやれていて、代表の強化につながっている。
ただ、ラグビーはさすがにこのままでは(学校だけに頼るのは)まずいなと。鳥取県が人数不足で1試合もおこなわれなかったニュースも見ました。近い将来、代表を出せないような県が出てきてしまうのではないか、そうでなくても多くの県で100-0のような大差の試合が見られます。
そうした状況を考えると、われわれプロのチームがしっかり選手の育成をやらなければいけない。フランスの選手の育成の仕組みも見せてもらいましたが、かなりしっかりしていました。
高校生、大学生の育成や、前回話したサテライトチームを作ることなど、先々ではなくて、本当にすぐやらなければいけないと痛感しています。静岡の高校は少ないかもしれないけど、静岡で高校に通いながらブルーレヴズのユースチームで活動して、(現在は合同チームやクラブチームの参加は認められていないが)将来的に花園に出られるような道ができれば、そこにチャレンジできるモデルケースにしたい。
大学も静岡には強豪チームが残念ながらありませんが、近隣の大学に通いながらわれわれのサテライトチームで活躍する選手が出てくるような状況を、早く作らなければいけないなと。
ただ練習する施設や場所が必要になりますし、練習環境を抜本的に見直すことも考えないといけない。乗り越えなければいけない壁は多いです。
――最後に、先日発表された新プロジェクト「SCRUM Action」について。ジャージーの背番号のすぐ上という、目立つ場所にロゴマークがあり、このプロジェクトにかける思いを感じました。
*静岡ブルーレヴズが重点テーマとして定めた社会課題を中心に、 事業活動を通じてそれらの社会課題の解決に貢献するためのプロジェクト
社会課題の解決、SDGsに対する取り組みは、いまではどのスポーツチームでも取り組んでいますよね。僕らも以前、川崎フロンターレさんや川崎ブレイブサンダースさんの方に行って勉強させてもらいました。
そこでわれわれもSDGsを意識して、社会課題の解決に貢献しようと議論を重ねてきました。ただその中で、あまりにもSDGsに合わせて宣伝行為のようにやるのは違うのではないかと。本当にわれわれが社会のためにやったほうがいいこと、やりたいこと、やるべきことは何かということに立ち戻って考えました。
ひとつは静岡は富士山があり、海のある県なので、環境に対することをやろうと。脱プラスチックやカーボンニュートラルといった取り組みです。
もうひとつはわれわれはスポーツチームですし、選手もよく食べるということで、食に関すること。フードロスなどの課題解決や地産地消に取り組みます。
3つ目はラグビーらしさでもある、ダイバーシティです。バリアフリー、障がい者支援、LGBTQに対する理解を示していく活動などをやっていきます。
「SCRUM Action」という言葉もロゴもそうですが、すべてスタッフのみんなが議論して決めたことです。われわれはこれを本気でやろうと。スポンサー獲得の一環でやるとか、プロモーションとして知名度が上げるために、とかではなくです。
先日、選手たちにも説明会を開きましたし、なぜわれわれがこういうことをやるのか、もっと深く理解してもらう。ただ、こうしたことに取り組むと言っただけなので、実際の活動が伴わなければいけません。例えば試合会場でどうすればプラスチックを減らせるのか、といったことをこれから考えて、実行に移せればと思っています。
PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任
静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)