18シーズン続いたトップリーグは2月20日に開幕するトップリーグ2021で幕を下ろす。2003年から始まったトップリーグ。その始まりをラグビーマガジンの掲載の記事から振り返りたい。第5回は「ジャパンラグビートップリーグ」の概要発表・後編。
◆第1回(初めて明るみに出た「日本リーグ」構想)
◆第2回(2003年度から開始決定!「スーパーリーグ」構想)
◆第3回(名称は「ジャパンラグビートップリーグ」に決定も寂しい会見)
◆第4回(「ジャパンラグビートップリーグ」概要発表・前編)
ラグビーマガジン2003年3月号掲載
構成◎編集部
「2003.9.13」華やかに開幕。
ジャパンラグビートップリーグ 概要決まる
最近の記者発表では、もっとも取材陣が多く、多岐に渡る分野の人々が集まっているように感じた。12月25日、日本協会で開かれたトップリーグの概要発表会見。企業スポーツの存在感が薄くなっていく中で踏み出す一歩に、世間は注目している。
会場には町井会長、同リーグ準備委員会の先頭に立ってきた真下専務理事、すでに参加資格を得ていた東日本社会人リーグ、関西社会人リーグ、西日本社会人リーグの覇者、サントリー、ヤマハ発動機、サニックスの監督、主将も列席し、同リーグのロゴや日程、意込みを伝えた。
ここでは、その構想に血を通わせる部分を真下専務理事に訊いた。
レフリーのクオリティーが、リーグ成功の鍵を握る大きな要素のひとつ
「皆さんが驚くような対戦で」と明言された開幕カード。試合の大詰めまで勝者が分からず、リーグ戦の最後まで優勝チームが決まらぬ展開がシーズン通じての興奮を呼ぶことになるだろうが、そのために欠かせぬ要素がレフリーのクオリティーだ。トップレフリーとしての長いキャリアを持つ真下専務理事も、「レフリングが、リーグ成功の大きなウエートを占めていると思う。プレーヤーの実力向上と、それぞれのチームの持ち味を十分に引き出すこと。その両方を実現させるバランスのいいジャッジを求めたい」と語る。
ただ、その需要に応じられるだけの供給源が問題だ。1日に6試合開催される同リーグ。第3タッチジャッジまでを含めれば、24人のレフリーが最低ライン。そして、その質が問われる。
「実際に笛を吹くのはA1級(A=5人、A1=10人)より上のレベルとなりますが、ある程度の人数を固定して運営していかないといけません。いま、そのレベルに達しているレフリーが必要な数だけいるかと言えば疑問で、この春から継続して教育、トレーニングを重ね、育成していくことになります」
現職レフリーのレベルアップを図るだけでは、限界が見える。新しくレフリーの世界に踏み込んでくる人たちを多く促す姿勢もある。例えば、高いレベルの勝負の機微を肌で知っているトッププレーヤーたちの、現役引退後の選択肢のひとつに奨励する考え。
「その意向は各チームにも伝えています。ファンクラブの創設を奨励しているのですが、レフリー育成の件も協力してほしい。希望してくれる人たちを募り、リストを提出してもらうなどいろいろなアプローチを仕掛けていきたいですね」
即効性と育成の両面を考えて外国人レフリーを招聘する案も、早くに実現しそうだ。
「春から呼べるのか、シーズンを通して1人か、数人か、そのあたりは調整していきます。ただ、南半球から呼びたいと思っているのですが、W杯の影響がどれだけ出るか。ダメな場合はカナダあたりから呼ぶことも考えることになるでしょう」
海外のトップレベルがピッチに立つことで選手、レフリー、ファンがグローバルスタンダードを体感、育成の場に立ってもらうことの影響はきっと大きい。また、プロフェッショナルレフリーの誕生についても氏は、「そういう資質のあるレフリーがプロとしての道を選びたいとなれば、こちらとしては環境を整えるもりはある」と前向きだ。
将来的にはアジアのチームも参加して発展。その先にあるのがW杯誘致
実際のゲームの充実は、マッチメイクや外国人レフリーの招聘などで実現の方向に向かいそうだが、ピッチの外の整備はどうか。例えば、移籍や外国人枠の問題。記者会見でも、配られた資料に記された移籍に関する細かな規約に対して「実力アップを求めるのなら容認すべき方向性も考えられると思うが」との質問も出たが、町井会長はきっぱりと「高い金額での引っこ抜きなどの可能性も出てくる。チームのためにも、選手のためにもならない」と答えた。
移籍に関する取り決めは、次の通り。
▶現行=移籍した場合、1年間は出場を認めない。
▶改訂=前所属チームからの「承諾書」(指定フォーマット)を所有する選手は選手登録期間中に登録完了した場合、試合出場が可能。
*承諾書がない場合、1年間公式戦に出場できない。
*いわゆる「レンタル移籍」はNG。
*所属チームが休廃部の場合は承諾書必要なし。
実際は、リリースする側の承諾があればこれまでも移籍は認められてきたわけで、大きな変わりはない。むしろ問題は、チームと考えが合わずに他チームに行き場を求めた選手が、前所属チームの承諾を得られず、1年間プレーの場を失っている現実だと思うが。承諾書のルールは、秩序を保つためにあっていいと思う。が、企業側ばかりが大きなアドバンテージを握っているのではないか。多様な雇用契約が存在する最近を考えるなら、紙一枚の有無ですべてを決めるより、正当な判断を下す調停委員会のような機関を協会に設けるべきだ。
外国人枠も登録人数に制限はなく、試合への出場は同時に2人までと、これまでと変わりはなかった。ただ、登録期限は2003年度こそ現状通り3月末日(日本国籍選手は8月末日)までだが、2004年度以降は国籍に関係なく全選手について6月末日までの登録に。また、3名までの追加登録を8月末日まで認めることになった。これまで外国人選手は登録後180日以上経過しなければ出場できなかったが、その点は多少緩和されることになった。
ただ外国人枠については、『登録人数に制限はないが同時出場は2人』という負担が大きくなりがちな現状に、企業側からは「3人」にという声も多く、そういう背景に対して「弾力的に対処していきたい」と真下専務理事。「NO8やCTBなどを外国人選手たちばかりで占めて、日本ラグビーの成長につながらない結果を招くことは避けたい」との意向を踏まえた上で、将来的には枠が広げられることになりそうだ。
例えば、英プレミアシップがEU圏とそれ以外の選手に差別化を図っているように、アジア枠を設け、列強の元代表たちとは区別していいと思う。トップリーグの未来像について、「アジア各国のチームからの希望があるならそれらも巻き込んでいきたい。地域全体で盛り上げ、その先にあるのが、W杯誘致だと考えている」(真下氏)ということなら、なおさら実現させるべき点だ。また、日本代表の資格がある選手、そうでない選手の間に違いがあってもいいし、日本の教育制度で学んできた選手たちの現在の処遇の改善できないものか。
「完成形としてスタートするものではない。発展していくものと考えて欲しい」と、トップリーグの伸びしろを睨む真下専務理事。運営についてはその道のプロに任せるアウトソーシングという形をとらず(チケット販売については別)、現有スタッフの再編、これまでの組織の改編で運営委員会を設置、軌道に乗せる計算だ。周囲の期待の大きさと、そのあたりのマンパワーの差に不安を感じるが…。
「特に、実際に現場で動くことになる各地域協会の専従スタッフを増やすことになると思います。そういう対応をとっていきたい。まずはそういう力を結束して、上昇気流に乗せ、『もう、プロの運営でないと捌ききれない』となるところまで持っていければ、と思っています」(真下氏)
大枠は確立されたが、細部については「弾力性をもって」との表現も多い現状。リーグ開幕前の期待感、 直後の興奮を継続、進化させて行くには、日本協会の芯を貫くリーダーシップと柔軟性のバランスを持って推し進めてほしい。