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スプリングボクスとオールブラックスによるラグビー界最大のライバル対決「Rugby’s Greatest Rivalry」。運営の舞台裏

2026.05.25

オールブラックスのハカに対峙するスプリングボクス(Photo/Getty Images)

 南アフリカラグビー協会は、今年開催されるラグビー界最大のライバル対決「Rugby’s Greatest Rivalry」ツアー実現のため、膨大な準備とリソースを投入している。
 このツアーでは、オールブラックスが南アフリカのユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ(URC)4チームおよびスプリングボクスと対戦し、4試合に渡るテストシリーズを戦う。

 全8試合からなるこのツアーの規模は近年では前例がなく、南ア協会のオペレーション統括責任者を務めるユスフ・ジャクソン氏は、その巨大なロジスティクスについて次のように語る。

「規模と運営面で言えば、ワールドカップに最も近いイベントです」

 オールブラックスがフルスケールの南アフリカ遠征を最後におこなったのは30年前。その伝統的なツアー形式の復活は、すでにラグビー史上屈指のライバル関係として知られる両国対決に、さらに特別な意味を与えている。

 ツアーでは、4つのフランチャイズ(ライオンズ、ブルズ、ストーマーズ、シャークス)との試合に加え、南アフリカ最大級のスタジアムで3試合のテストマッチが開催される。
 その後シリーズはアメリカへ移動し、決戦はメリーランド州ボルティモアのM&Tバンク・スタジアムでおこなわれる。南アフリカ×ニュージーランドの試合がアメリカ開催となるのは史上初だ。

 もしボルティモアでシリーズ成績が並んだ場合は、タイブレークによってシリーズ勝者が決定される。


 この「Rugby’s Greatest Rivalry」構想は2023年に始まった。南ア協会とNZ協会がビジョンを共有し、歴史的なイベントの計画づくりに着手したのである。

「両協会とも”これを実現したい”という点で一致していました。そこからずっと準備を進めてきました」とジャクソンは語る。

 遠征人数や移動計画の綿密な設計も、運営上の重要な柱となっている。
「オールブラックスの遠征団は80人強になります。両チームとも81~82人程度ですが、実質的には80対80です」 

 両チームの条件を完全に揃えることが、最初から重要視されていた。
「片方だけ人数が多いようなホームアドバンテージは作りません。完全に対等にします。(アメリカでの)第3テスト前には両チームとも65人規模へ縮小されます」

 その後、両チームは同じチャーター便でアメリカへ向かう。南アフリカ滞在中、NZは伝統的な”ツアー方式”を採用し、全員が一団となって都市間を移動する。

「彼らは本当に昔ながらのスタイルです。全グループで移動していきます」

 オールブラックスは7月末に同日に3便に分かれて到着し、最初の拠点をケープタウンに置く。ケープタウン滞在中のメイン練習場にはアスローン・スタジアムが指定されており、ファン向け公開練習も予定されている。

「可能な限りファンとの接点を作りたいので、公開セッションを計画しています」

 ケープタウンからダーバン、さらにヨハネスブルグへと移動しながら、南アフリカのURCチームと対戦する。ダーバンではノースウッド、ヨハネスブルグではセント・スティシアンズでも練習をおこなう。

「ケープタウン以降は、遠征団がチャーター便で移動します。国内移動は両チームとも専用チャーター機です。そして第3テスト後には国際チャーター便が1機用意されています」

 対照的に、スプリングボクスは中央拠点方式を取る。エリス・パークやベルヴィルのハイパフォーマンスセンターなどを使用する。

「ボクスは8月9日から第1テスト終了までヨハネスブルグを拠点にします。その後ケープタウンへ移動し、第2テスト週を過ごします。そして再びヨハネスブルグへ戻り、第3テストへ備えます」

 舞台裏では、両協会による綿密な調整が続いている。
「両チームのマネジメントが理事会室に集まり、一項目ずつすべてを確認しました。宿泊先、練習場、到着時刻、各試合で着用するジャージー、キャプテンズラン…すべて確定しています」

 このシリーズは、まさに共同事業(JV)として運営されている。
「意思決定には両協会が完全に平等に関わっています。運営、商業、ツアー関連の各分野で毎週ミーティングをおこない、すべてを詳細に計画しています」

 宿泊施設もツアー期間全体を通して確保済み。NZは都市ごとにホテルを変更する一方、スプリングボクスは主にヨハネスブルグを拠点とし、ケープタウンにサブ拠点を置く。

「ワールドカップは7週間ですが、このようなツアーは本質的に別物で、考え方自体を変える必要があります。NZは8月12日から23日までヨハネスブルグ滞在ですが、”景色を変えたい”という理由で4日間だけ別のホテルを希望してきました」

 各段階でバックアップ計画も組み込まれており、回復プロトコルにも細心の注意が払われている。
「各都市に第1・第2練習場を準備しています。天候の影響があっても代替施設があります。特にユニークなのは移動式サウナです。ホテルの共用設備を使いたくないとのことで、専用サウナをチームホテルに設置します」

 南ア協会はこのツアーに対応するため運営チームも拡充した。
「イベント運営能力を強化しました。開催都市、スタジアム、地方協会とも密接に連携しています。照明からインフラまですべて準備万端です」

 南ア協会にとって、このツアーは1995年ワールドカップ以来最大級の事業となる。
「チーム、ファン、パートナーすべてにとって完璧なものにしたい。この経験は2030年に開催するスプリングボクスのNZ遠征の青写真になります」

 そして彼は、このシリーズの意義をこう語る。
「これは他に類を見ないツアーです。単なるラグビー最大のライバル対決ではありません。世界スポーツ全体でも屈指のライバル関係です」


 今回選ばれた会場は、ツアー全体の物語性を構成する重要な要素となっている。

 南アフリカ国内の3テストは、エリス・パーク(収容6万2000人)、ケープタウン・スタジアム(5万8000人)、FNBスタジアム(9万2000人)で開催され、第4テストはボルティモアのM&Tバンク・スタジアム(7万1000人)でおこなわれる。

「最終的には座席数が重要です。収益最大化につながりますから」

 エリス・パークは歴史的重要性から開幕戦会場に選ばれた。
「このライバル関係が本格的に始まった場所です。1995年ワールドカップ決勝も、1992年の復帰後初戦もここでした」

 ケープタウン・スタジアムは現代的で世界水準の体験を提供し、FNBスタジアムは圧倒的なスケールを誇る。
「世界最大級のスタジアムの一つです。満員になれば最高ですね」

 ジャクソンは南アフリカの会場を海外の有名スタジアムとも比較した。
「エバートンの新スタジアムはまだ塗装の匂いが残るほど新しく巨大スクリーンがあります。一方オールド・トラフォードは本当に昔ながらで、大型スクリーンもリプレイもない。でも”体験”があるんです」

 その哲学はエリス・パークにも通じる。
「世界でもあの熱気を再現できるスタジアムはほとんどありません」

 このツアーは”総合ファン体験”として設計されている。
「メッセージの一つは『I was there(自分はそこにいた)』です。20年後、30年後に”あの場にいた”と言える体験にしたい」

 特にオールブラックスが1996年以来初めて本格ツアーをおこなうことが、その特別感を高めている。チケット体系も、多様なファン層に対応するよう設計されている。

「会場ごとに4〜5段階のカテゴリーを用意しました。ホスピタリティーとは別にプレミアム席もあります。ハーフウェイライン、トンネル付近、国歌斉唱を間近で見たい人たちは、その価値にお金を払うのです」

 また、価格設定は国際基準に合わせているという。
「プレミアム席が約2000ランド(約2万円)、つまり約100ポンドですが、海外では170〜180ポンド(3万6000~8000円)が一般的です」

 そして彼は”現地観戦の価値”を強調する。
「なぜテレビではなくチケット代を払うのか、と言われます。現地では焼かれるオニオンの匂いも、観客の声も、空気も感じられる。そこが違うんです」

 現在の試合日は、もはや80分間の試合だけではない。
「いまでは12時間イベントです。ゲートが開いた瞬間から体験が始まっています」

 ファンビレッジ、ステージイベント、スポンサー体験などが終日展開される。
「スプリングボクスには17社のパートナーがいて、その多くが試合日にファン向け施策を行います」

 キックオフ直前の演出も緻密に設計されている。
「音楽、パフォーマンス、チーム入場、航空ショー…すべてが一つの瞬間へ向かって盛り上がるんです」

 試合後もイベントは終わらない。
「ファンは再びファンビレッジへ戻り、飲食やエンターテインメントを楽しみます。チームが勝てば、滞在時間がさらに伸びるのが数字にも表れています」

 会場へ来られないファン向けには、「Bok Town」ファンパークも全国で展開される。
「テストがケープタウン開催でも、グケベハ(ポートエリザベス)やブルームフォンテーンにBok Townを設置するかもしれません。どこにいても”共有体験”を届けたいのです」

「ラグビーだけではなく、一生忘れられない体験を作ることが目的です」


 このツアーは国家レベルの高警備イベントとして扱われる。
「国家保護イベント指定を政府に申請しています。政府治安組織も全面関与しており、ほぼ”国家元首来訪”レベルです」

 警備計画には警察、交通警察、民間警備会社などが関与する。
「各州で南ア警察主導の緊急会議がおこなわれます。必要ならイベント中止権限すらあります」

 両チームには専属警備チームも同行する。
「移動はブルーライト先導付き。審判団にも専属警護官が付きます」

 練習場やホテルの管理も厳格だ。
「公開セッション以外の練習は完全非公開です。ホテルも専用フロアを使用します」

 食事管理も徹底される。これは1995年ワールドカップ決勝前の”スージー事件”――オールブラックス毒物混入疑惑――がいまなお語り継がれているためでもある。

「チームマネジメントの承認なしに提供される食事はありません」


 このツアーでは、クラシックなラグビーツアー文化の復活も目指している。シャークスはキングス・パークでの対オールブラックス戦で特別ジャージーを着用する。

「オールブラックスもシャークスも黒です。ではどうするのか?シャークスに聞いたんです。グレーや白のオールブラックスジャージーと交換したいですか?それとも本物の黒?と」

 答えは明確だった。
「だから特別ジャージーを作ることになりました」

 またNZ側も、記念トロフィー文化を復活させる。
「もし相手が勝てば、記念品を贈るんです。それも伝統の一部です」

「選手によっては一生に一度しかオールブラックスと対戦できないかもしれない。国歌を聴き、ハカを見て、試合後にジャージー交換をして、一緒にビールを飲む。それがツアー文化なんです」

 このツアーではビジネスの成功も重要な目的となっている。南ア協会とNZ協会の共同事業として、商業権は均等に共有される。

「中央商業エージェンシーが権利を一括管理しています。パートナー同士の競合を避けるためです」

 収益源にはチケット、スポンサー、放映権、グッズ販売、試合日施策などが含まれる。チケット需要は非常に高い。

「事前登録は9万7000人超でした。1人4枚まで購入可能だったので、理論上は即完売もあり得ました」

 ケープタウン開催分はすでに完売し、他会場も続く見込みだ。


 このツアーの魅力はラグビーだけに留まらない。
「遠征ファンにとって、ケープタウンやヨハネスブルグ、近隣サファリなども含めて素晴らしい旅行体験になります」

 NZ本国だけでなく、欧州在住のNZ人コミュニティからも多くの観客来訪が見込まれている。
「すべての準備は整いました。あとはチームが結果を出すだけです」

◎ツアー日程
7月末〜8月初旬:オールブラックスが南アフリカ到着、ケープタウン拠点設置
8月7日(金):ストーマーズ vs オールブラックス@ケープタウン・スタジアム
→オールブラックス、ダーバンへ移動
8月9日(日):スプリングボクス、アルゼンチン戦後にブエノスアイレスからヨハネスブルグ入り
8月11日(火):シャークス vs オールブラックス@キングス・パーク
→オールブラックス、ヨハネスブルグへ移動
8月15日(土):ブルズ vs オールブラックス@ロフタス・ヴァースフェルド
8月22日(土):第1テスト スプリングボクス vs オールブラックス@エリス・パーク
8月25日(火):ライオンズ vs オールブラックス@エリス・パーク
→両チーム、別のチャーター便でケープタウンへ移動
8月29日(土):第2テスト スプリングボクス vs オールブラックス@ケープタウン・スタジアム
→両チーム、別のチャーター便でヨハネスブルグへ戻る
9月5日(土):第3テスト スプリングボクス vs オールブラックス@FNBスタジアム
→両チーム、同一チャーター便でアメリカ・ボルティモアへ移動
9月12日(土):第4テスト スプリングボクス vs オールブラックス@M&Tバンク・スタジアム
→オールブラックス、ロサンゼルス経由で帰国
→スプリングボクス、9月27日のワラビーズ戦@パース・オプタス・スタジアムへ向かう

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