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真剣勝負で日本を倒しにくるウエールズの現在地と、二人の暫定リーダー。ウエールズ代表シェラットHC&レイク主将インタビュー。

2025.06.30

185センチ、114キロの大型HOであるレイク。強い覚悟で日本とのテストマッチに挑む(Photo/Getty Images)



 きたる7月5日、12日に日本代表と対戦するウエールズは、人口約300万人程度の小国にしてラグビー界では伝統のティア1国として大きな実績を持つ。だが、この小さな大国は近年、長い不調に苦しんでいる。代表チームは同国史上最長のテストマッチ17連敗中で、最後に勝利を挙げたのは2023年ワールドカップのプールマッチ最終戦のジョージア代表戦だ。

 今年のシックスネーションズ第2節でイタリアに敗れたウエールズは、この時点でテストマッチ14連敗。試合終了後にウォーレン・ガットランドHCが協会と双方合意のもと職を退くという事態にまで発展した。

「依頼を受けたときは、驚きました。シックスネーションズの真っ最中、というタイミングでしたしね」

 ガットランドに代わり、暫定HCとしてシックスネーションズの残り3試合の指揮を依頼されたマット・シェラットは、2023年よりユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ(URC/アイルランド、イタリア、ウエールズ、スコットランド、南アフリカのトップクラブで構成するリーグ)のカーディフでHCを務めている。この依頼は、正に青天のへきれきだったそうだ。

「正直、状況を完全に受け止めるのに少し時間がかかりましたが、この大きな仕事に対するやる気はすぐに湧いてきました」

 ウエールズラグビーの危機とあり、カーディフのマネジメントも快く兼業を受け入れてくれたそうだ。選手たちにとってもこのHC交代劇は大きなショックだったのは間違いないが、第3節のアイルランド戦は18-27、第4節のスコットランド戦は29-35と“予想外”と言われる健闘を見せた。

「アイルランド戦前のチーム全体での本格的な練習は、3回しかありませんでした。限られた時間をアタックの練習に費やしたこと、新しい人間が入ってきたという新鮮さで、チームのムードはポジティブだったと思います」

 当初の予定では、シェラット暫定HCはシックスネーションズの残りの3試合のみ代表チームの指揮を執る予定だったが、夏の日本遠征まで延長となった。現在48歳の同氏は、「長期的に代表HCを務めるにはまだまだ経験が必要」と控え目だが、独自のスタイルを持つ日本代表との対戦への準備も万全だ。

「URCのいいところは、それぞれ違ったスタイルを持つ複数の国のチームとシーズンを通して戦えることです。日本はラグビーのスタイルだけではなく気候も独特ですが、私も選手たちも、違うスタイルの相手と戦うことには慣れています」と自信を見せている。

 今年は、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ遠征の年で、ウエールズ代表からはキャプテンのジャック・モーガン(FL/NO8)がライオンズに選ばれたため、日本遠征ではデヴィ・レイク(HO)がキャプテンを務める。シェラットとともに日本代表の分析もキッチリおこなっているようで、「日本のスピード重視のラグビーを示すスタッツとして、どれだけ早くラックからボールが出るかを示す様々な数値も聞いています」とレイクも準備万端だ。

「日本遠征にはジャックなどライオンズに選ばれた選手はいませんが、僕たちはそれを言い訳にするようなチームではありませんし、この遠征は若手にチャンスを与えるための遠征などではないことは皆分かっています。日本がどれだけ手強い相手であるかは知っています」

 この夏のテストマッチ前のウエールズのワールドラグビーランキングは12位。13位につける日本を容易な相手などとは見ていない。2022年に代表デビュー、現在26歳のレイクはケガに悩まされる時期もあったが、これまで代表戦に19試合出場し6トライを挙げている。所属クラブのオスプリーズでもFWとしては非常に高いトライ率を誇り、ゴール前の接近戦で強引にトライをねじ込む技術とパワーを持つ。

 父の影響で5歳でラグビーを始め、体操競技や水泳などでも体を鍛えてきた真のアスリートだ。怪我さえなければこの夏はライオンズ遠征に行っていただろうと言われるほどの実力者だが、ウエールズ人らしい素朴な面も見せる。

「18、19歳頃まではエリートレベルには届かない普通の選手でした。それまでは競争の激しいFW3列でプレーしていましたが、コーチにHOへのコンバートを勧められ、今に至っています」

 ウエールズ代表と言えば、アラン=ウィン・ジョーンズ(LO)、ジョージ・ノース(WTB/CTB)、ダン・ビガー(SO)など、世界のラグビーファンたちに知られる100キャップ超えの選手たちが、2023年ワールドカップ前後に数多く引退した。現在の前の世代があまりにも黄金世代だったため、次世代への世代交代が上手くいかなかったのでは、というのはウエールズのファンたちの間で語られる当然の定説だ。だが、レイクはそんな状況を言い訳にはしない。

「確かに、僕たちの一つ前の世代が黄金時代だったと言われているのは知っています。ですが、僕たちの世代はそうした伝説的選手たちと一緒に練習し、試合に出た経験があります。現在の代表チームは若く、そしてエネルギーに溢れています」

 連敗を17で止めるというミッションとともに日本遠征に参加している今回のウエールズ代表。ラグビーが国技であるだけに、代表選手たちの背負うプレッシャーは計り知れないが、キャプテンはそんなプレッシャーを感じながらも、さらに大事なことを考えている。

「この遠征で一番大切なのは、チームとして一つになることです。新しいHC、新しいコーチ陣、新しい選手たちがチームに入り、とにかく皆が一体化することが非常に大事です」

 インタビューの一つひとつの質問について真剣に考え、ウエールズ訛りで真摯に答えるレイク。所属チームのオスプリーズは、シェラットのHC本職であるカーディフとの激しいライバルチームだ。だが、この二人はウエールズラグビー界の特別なものを背負って、日本に来ている。

 日本を背負う桜の戦士たちにとっても、相手として不足はないだろう。勝負の結果がどちらに転ぶにせよ、熱い戦いになることだけは間違いない。

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