南アフリカ代表、スプリングボクスは、2024年シーズンで52人もの選手が起用された。かつてなら、こうした大規模なローテーションはチームに問題がある兆候と見なされていたかもしれない。
例えば、イタリアは2022年にキアラン・クローリーHC(現・三重H)がW杯フランス大会を前に必死で解決策を模索する中、58人を起用した。
オーストラリアも同様の状況で、デイブ・レニーHC(現・神戸S)は51人の選手を使い、最終的にはその年に解任された。
しかし、スプリングボクスのHC、ラッシー・エラスマスには、イタリアやオーストラリアのような問題はない。
ボクスが過渡期にあるチームでなく、迷走しているわけでもない。
むしろその逆で、史上もっとも選手層の厚いチームであり、リッチー・マコウ、ダン・カーター、マーア・ノヌらがいた全盛期のオールブラックスをも上回るかもしれない。
2024年を「世界一のチーム」として終えた彼らを打ち破れるチームは当面の間、出てこないだろう。
エラスマスは膨大なラグビータレントの「プール」を持っている。だからこそ、これほど大胆な起用を試すことができるのだ。各ポジションでの選手層を、質を落とさずに構築できるという贅沢な状況にある。
2024年はまさにそのための期間だった。2025年シーズンもホームでイタリアとジョージアとの3試合から始まるため、さらに多くのローテーションが期待される。
南アフリカは、世界中のほぼすべてのラグビー国に選手を「輸出」している。正確な数字を把握するのは難しいものの、1000人以上の南ア出身プロ選手が国外でプレーしているという推計もある。
もちろん、日本もその例外ではない。
重要なことは、エラスマスが世界中に散らばる南アフリカの選手たちを自由に代表に招集できるという点だ。
ラグビーにあまり詳しくないファンや、サッカーファンからすれば当然のように思えるだろう。
例えば、ブラジルのサッカー協会が国内クラブの所属選手のみを代表に選ぶとしたらどうなるか?
コパカバーナでは暴動が起きるだろう。彼らは国籍に関係なく、世界中でプレーする「最強のブラジル人選手」を代表に呼びたいのだ。
しかし、いまだに一部のラグビー強豪国では、国外クラブに所属している選手を代表に選べないという選考ルールが残っている。
フランスのように国内クラブに巨額の資金力があり、選手の海外流出がほとんどない国ではある程度、理にかなっているかもしれないが、イングランド、オーストラリア、ニュージーランドのような国はもっと柔軟な方針にした方が得策ではないだろうか。
実際、エラスマスが2018年にHCに就任した際の最良の決断のひとつは、それまでの「国外選手はキャップ(代表試合数)30以上でなければ選出不可」というルールを撤廃したことだった。
この「30キャップルール」は2017年頭に導入され、ヨーロッパや日本のクラブへ高額契約で流出する選手を抑える目的があった。海外では国内リーグの10倍以上の報酬が得られることもあり、多くの選手が海外移籍を希望するのは当然の流れだったからだ。
そこで、エラスマスは南アフリカ協会を説得してこのルールを撤廃する代わりに、「海外移籍を自由化」しつつ、国内に残る選手には協会からのトップアップ(追加報酬)を支給するという新たなモデルに移行した。
「プロ化してからの30年間、ずっとどうすれば選手を国内に留められるか悩み続けてきた。でも現実問題、われわれの通貨は弱く、南アフリカラグビーの経済規模は小さ過ぎて、世界と戦うには不利だ。日本での2か月間の契約の方が、W杯優勝よりも稼げる。これは、われわれが直視しなければならない現実なのだ」(エラスマスHC)
現在、南アフリカは理想的な二重構造を実現している。トップ選手たちは、世界市場が評価する報酬を得ることができ、しかも代表として自由にプレーできているのだ。
最後に、日本のクラブに所属する南ア出身選手のドリームチームを紹介しよう。国際レベルでどのくらい戦えるのだろうか。
【リーグワン所属(2024-25シーズン)・南アフリカXV】
PR1 マティウス・バッソン(三重ホンダヒート)
HO マルコム・マークス(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)
PR3 クフチャ・ムチュヌ(三菱重工相模原ダイナボアーズ)
LO4 フランコ・モスタート(三重ホンダヒート)
LO5 ルード・デヤハー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)
FL6 クワッガ・スミス(静岡ブルーレヴズ)
FL7 ピーターステフ・デュトイ(トヨタヴェルブリッツ)
NO8 ジャスパー・ヴィーセ(浦安D-Rocks)
SH ファフ・デクラーク(横浜キヤノンイーグルス)
SO FC・デュプレッシー(三重ホンダヒート)
WTB11 カート=リー・アレンゼ(三菱重工相模原ダイナボアーズ)
CTB12 ダミアン・デアレンデ(埼玉パナソニックワイルドナイツ)
CTB13 ジェシー・クリエル(横浜キヤノンイーグルス)
WTB14 チェスリン・コルビ(東京サントリーサンゴリアス)
FB ブレンダン・オーウェン(横浜キヤノンイーグルス)