「トップ14や代表チームで才能を開花させ、どんどん伸びている選手がいる。これは自然な進化なのだ」
フランス代表のファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)の、日本戦に向けてのメンバー発表会見(11月7日)での言葉だ。
これまで保守的だったガルチエHCからは想像できなかった変化が、今回の選考に見られた。
日本代表戦2試合を含む「オータム・ネーションズシリーズ」
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FW第一列から見てみよう。HOはペアト・モヴァカがスタートし、先週、筋肉に違和感を感じていたジュリアン・マルシャンはリザーブに入る。
左PRシリル・バイユが足首の靭帯断裂と腓骨骨折のため欠場。右PRウイニ・アトニオもふくらはぎ負傷から復帰したばかりで日本戦は大事をとった。そのため、1番にはこれまでの序列通り、ジャン=バティスト・グロが入り、レダ・ワーディーがベンチに控える。
一方3番には、先月フランス代表資格を取得したばかりのテビタ・タタフ(22歳)が初選出され、すでに4キャップを得ているジョルジュ=アンリ・コロンブ(26歳)がベンチスタートする。
2人とも、アトニオ(34歳)の後継者として期待がかかっているが、代表スタッフは、日本戦をタタフを試す絶好の機会と捉えた。元々パワフルで爆発力とスピードがあったが、体力を消耗していたスクラムの組み方を改善し、昨季からさらに動けるようになり注目を集めていた。
グループの雰囲気に慣れさせるために、代表資格はまだなかったタタフをこの夏の南米遠征準備合宿に参加させていた。その時158kgあった体重が、今回の合宿では140kgまで絞られていた。しかもパワーを維持したままだ。
「代表レベルでは何をどのぐらい求められるかを意識するようになったのだろう。彼のようにスキルの高い選手はスムーズにチームにフィットできる。とは言っても、まだ若い選手だ。最初の試合はリズムも掴みづらいだろう。それは当然のこと。ゆくゆくは多くの人を驚かす選手になる」とスクラムコーチのウィリアム・セルヴァットは、タタフの今後を楽しみにしている。
第2列はチボー・フラマンと、今年のシックスネーションズで代表デビューしたエマニュエル・メアフーの安定のトゥールーズペアだ。控えには、ロマン・タオフィフェヌア(34歳)ではなく、ミカエル・ギヤール(23歳)が選ばれた。
ギヤールは、昨季、所属するリヨンでトップ14の全試合と、チャンピオンズカップ3試合に出場。運動量豊富、攻守において力強いコンタクトでチームを前進させ、ラインアウトではキープレイヤーになり、夏のアルゼンチン戦で代表デビューを果たしそのパフォーマンスが認められた。また、4番から8番までの全てのポジションをこなせることも選ばれた一因だろう。フランスのリザーブは、いつものFW6人+BK2人ではなく、今回はFW5人+BK3人になっている。
そして第3列。6番フランソワ・クロスと8番グレゴリー・アルドリットに並んで7番のジャージーを掴んだのは、アレクサンドル・ルマットだ。ラインアウトの優れたジャンパーで運動量も多い。ブレイクダウンでも頼りになる。
ボールキャリーをすればパスも器用で味方を生かす。2022年に、フィジカルでゴリゴリタイプのFWを好むクリストフ・ユリオスHC時代のボルドーから移籍したトゥールーズのパスをつなぐラグビーにフィットし、今年のシックスネーションズで代表デビューした。
そして、負傷していた期間を除けば2019年W杯準備試合からレ・ブルーの7番のジャージーを独占していたシャルル・オリヴォンが、リザーブにも入っていない。確かに昨季は疲れていて、シックスネーションズでもトゥーロンでも彼らしい輝きを失っていたものの、今季は再び調子を取り戻していたのだが…。
BKにもサプライズがある。トップ14のレッドカードによる出場停止期間が終了し、ギリギリ日本戦に間に合ったヨラム・モエファナ(24歳)と、エミリアン・ガイユトン(21歳)がCTBに起用され、ガエル・フィクー(30歳)はリザーブになった。フィクーが代表でベンチスタートするのは、2019年のシックスネーションズ以来である。そしてジョナタン・ダンティー(32歳)の名前はマッチシートにはない。
ガイユトンは、スピードと持久力を兼ね備えていて、高いインテンシティーでプレーし続けることができる。また状況判断力に長けており、味方のちょっとした穴を埋めてくれる。この試合では、フィクーに代わってディフェンスリーダーを任されている。
ガルチエHCはこれまでオリヴォンやフィクーら主力選手を『プレミアム』と格付けしてきたが、「これからは42人の『グループ・フランス』で、選手間で切磋琢磨しながら競い合い、ローテーションもある。新しい才能が伸びてきた。でもこの5年間ともに旅してきた選手を切ってしまうのではない。彼らもさらに成長し続けるために体力を回復させる必要がある。彼らに期待しているし、彼らもそれはわかっている。彼らは戻ってくる」と言う。今後の動向が注目される。
9番にW杯以後初めてアントワンヌ・デュポンが復帰することは、もう書く必要もないだろう。控えにはノラン・ルガレックが入る予定だったが、先週の練習中に膝を傷め、マキシム・リュキュが選ばれた。
ルイ・ビエル=ビアレとダミアン・プノーが両翼に配置され、練習時に着用していたビブスの番号が示していた通り、10番にはトマ・ラモス、15番にレオ・バレ、マチュー・ジャリベールがリザーブに回る。
その理由を問われて、「まず才能、ポテンシャル、プレーのレベルだ」とガルチエHCは答えた。
「チームの成功を考えると、集団的経験値が鍵になるが、その時の最も良いパフォーマンスをしている選手を選ぶことになる。当然、このHBがスターターになる」と続けたが、「今のトップ14でベストSOはジャリベールで、ラモスはベストFBで、今のバレはそのレベルにほど遠いじゃないか!」とフランスのファンや識者が最も突っ込むのはここだ。
ただ、今日(11月8日)の『ミディ・オランピック』に掲載されたエディー・ジョーンズHCのインタビューで、フランス代表で注目する選手を尋ねられ、「どんなチームでもトマ・ラモスを欲しがるだろう。10と15でプレーでき、ロングキックも蹴れる。スピードもある。アグレッシブで、しかもゴールキックも決める」と真っ先に彼の名前をあげている。ラモスがピッチにいてもらいたい選手なのは間違いないようだ。
ところで、日本代表について問われたガルチエHCは、「確かに、そんなに多くの試合で勝てていないが、彼らのプレーを分析すると、まず目につくのがプレーの速さだ。120m/分。最も速いのではないだろうか。次に、彼らのプレーは戦術的にとても構築されているということ。またボールを持つ傾向が強く、HBが勢いをつけ、ディフェンスの前でどんどんボールをまわす。CTB、WTB、バックローにパンチの効いたボールキャリアーがいる。また、日本代表チームは、かつてエディー・ジョーンズの下、素晴らしい成績を残していることも知っている。私たちはこの試合にとても集中している」と答えた。
「しかもこれは今季最初のスタッド・ド・フランスでのフランスサポーターとの再会の場であり、私たちにとって、とても大切な瞬間になる」
平均年齢26歳、平均キャップ数25。メンバーに関して賛否両論はあるが、デュポンも復帰してようやく新しいスタートになりそうな予感がある。