イングランド代表の10番の座は、長年オーウェン・ファレルとジョージ・フォードという名手2人の独占状態だった。同世代には2人とは違う攻撃的なプレースタイルで第3の司令塔として期待されたダニー・シプリアーニもいたが、素行に問題があり、飲酒絡みのトラブルが絶えず、コーチやチームメイトとの軋轢から頻繁に移籍を繰り返していた。イングランド代表が必要としていたエキサイティングな司令塔は、グラウンド外での諸問題により、その才能をテストマッチの舞台で輝かせることができなかった。
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時は流れ、2024年夏。現在32歳のファレルは、来季からフランスTOP14名門クラブ、ラシン92へ移籍することを発表した。例外的な事情がない限り国外クラブに所属する選手は代表に選ばないというイングランドのポリシーにより、ファレルは代表を退くことになった。一方、現在31歳でファレルとは幼なじみでもあるフォードは国内のセール・シャークスに所属しているが、慢性的に痛めているアキレス腱の治療のため、今夏の遠征を辞退している。
そうした中、今ツアーでイングランドの10番を担うことになったのが、25歳のマーカス・スミスと21歳のフィン・スミスだ。ちなみにスミスはイギリスによくある苗字で、二人は兄弟でも親戚でもない。
マーカスはシプリアーニに似たスタイルの攻撃的なSOで、みずからのランでトライを生み出せるタイプのプレーメイカーだ。176センチ、82キロとインターナショナルレベルではかなり小柄なプレーヤーだが、抜群のスピードとフットワークを誇り、エキサイティングなプレーで観客を沸かせる。視野の広さ、長短を交えたキック、オフロードを含めたパスプレーの正確性もトップレベルで、肉弾戦の弱点を補って余りあるだけのパフォーマンスを発揮できる選手だ。
ただ、所属クラブのハーレクインズではエースとして自由自在に試合を操るマーカスだが、代表戦では何かと勝手が違うのか、思うように持ち味を生かせないことが多かった。ファレルやフォードとはまったくタイプの違う司令塔であり、代表デビュー当初はチームメイトと噛み合わず、みずから強みを抑えているように映ることもあった。ランプレーを買われFBで起用される試合もあったが、近年ようやくトップレベルのテストマッチの世界にも慣れ、気がつけば33キャップを積み重ねている。
もう一人の新世代のSOとして注目を集めるフィン・スミスも、ファレルやフォードのような典型的なイングランドスタイルの10番とは違い、自分で走ってトライを取れるスピードが魅力のSOだ。今季のプレミアリーグを制したノーサンプトン・セインツの快進撃の立役者であり、本年のシックネーションズで代表デビューを果たした。この2人は今後、代表10番の座を争うライバルとして切磋琢磨していくことになるだろう。
前世代のファレルとフォードとは大きく違う魅力を有する、2人の若き司令塔たち。この夏のツアーでも、観客を魅了するエキサイティングなプレーを見せてくれるはずだ。