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【パシフィック4シリーズ】女子カナダ代表が世界王者のブラックファーンズから歴史的初勝利

2024.05.23

歴史を変えて喜びを爆発させるカナダ。(Getty Images)



 5月19日、クライストチャーチ。霧雨が降る寒い中、カナダが18回目の挑戦にして、世界チャンピオンのブラックファーンズ(女子NZ代表)に22-19のスコアで初めて勝利した。

 今年で4回目を迎えたパシフィック・フォー・シリーズ(ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、アメリカが参加)。カナダは、アメリカに50-7(4月29日)、オーストラリアに33-14で勝ち(5月11日)、唯一の全勝(3勝)で日程を終えた。
 ブラックファーンズの最終戦(対オーストラリア/5月25日)を待たずにパシフィック・フォー・シリーズのタイトルを獲得した。

 ブラックファーンズは前週、57-5(5月11日)でアメリカに圧勝し、パシフィックフォーシリーズで良いスタートを切った。2戦目のカナダ戦も前半から相手を圧倒しようという意気込みが感じられた。
 前半6分、カナダにPGでの先制を許すも、ブラックファーンズは9分、22分にWTBケイリトン・ヴァハコロの連続トライで14-3と逆転。そのまま勢いが続くかと思われた。

 しかしその後、ブラックファーンズは足踏みした。何度もインゴールに迫るも、カナダのゴールライン上のディフェンスの強さにトライを追加できなかった。

 カナダは粘り強いディフェンスで耐えながらボールを保持すると、サイズのあるロック陣を筆頭に、FW戦で奮闘する。効率のいい攻めを見せて世界チャンピオンに引けをとる事はなかった。

 そして、29分に敵陣ゴール前のラインアウトでチャンスを掴む。力ずくでモールを押して前に出た後、WTBファンシー・ベルムデスがインゴールにねじ込む。14-10と4点差に迫った。
 その後もカナダはしぶとく食らいつき、そのままのスコアでハーフタイムを迎えた。

勝因のひとつは激しいディフェンスだった。(Getty Images)

◆気迫のディフェンスを見せたカナダが世界チャンピオンを撃破。

 後半に入ってもハッスルし続けたカナダは、44分に敵陣ゴール前ラインアウトから、モールを押し込んでトライ。15-14としてこの試合初めてのリードを奪う。完全に勢いに乗った。
 59分には敵陣ゴール前ラインアウトから、再びモールでゴールラインに迫る。モールが止まったところで、前半と同じ形で走り込んできたWTBベルムデスが再び強さを見せつけ、ファイブポインターとなった。22-14と点差を広げた。

 最終クォーターを過ぎて8点ビハインドのブラックファーンズは、展開ラグビーからFWのピックアンドゴーで手堅く前に出る戦術に変えた。
 自陣からじわじわとカナダ陣のゴール前に迫る。しかし、強いディフェンスになかなかトライが奪えず、攻めてはいても明らかに焦りが表情に出ていた。

 70分、危険なタックルでカナダにイエローカードが出た。数的有利となったブラックファーンズが後半初めてトライを取れたのは、73分だった。
 19-22と3点差にして逆転に望みをつないだ。

 カナダのリスタートのキックオフからブラックファーンズは自陣から攻めた。しかし、強固なディフェンスの前に自陣から脱出する事ができない。ディフェンスを破れないと判断した10番ルアヘイ・デマントがキックの選択をした。
 効果的なキックとはならず、相手にボールを渡しただけとなった。

 残り時間1分、カナダは、ピックアンドゴーでボールを確実に確保しながら時間を稼ぐ。やがて80分となり、ボールをタッチに蹴りだした。
 その瞬間、カナダがブラックファーンズから歴史的初勝利を掴んだ。そしてパシフィック・フォーシリーズの優勝を決めた。
 赤いジャージーを身にまとう選手たちが飛び上がり、歓声をあげながら喜びを表現した。

試合後は、カナダの勝利を祝福する笑顔であふれた。(撮影/松尾智規)

 カナダの勝因は、なんと言っても気迫あふれるディフェンスに尽きる。そして、セットピース(スクラム、ラインアウト)の安定感。FW戦で互角以上に戦い、ブラックファーンズが得意とする高速ラグビーを封じ込めた。
 特に後半は、カナダが有利に戦っていた印象が強い。

 敗れたブラックファーンズは、ブレイクダウンでの反則が多かった。後半に2枚のイエローカードが出るなど規律面の悪さが試合を有利に進めれない要因となった。
 FW戦ではカナダにプレッシャーを受け、特にモール攻撃に対応できなかった。そこからトライに持ち込まれたことが一番の敗因だった。

 プレーヤー・オブ・ザ・マッチは、カナダのPRダレアカ・メニン。インタビューでは「チームに凄く興奮している。私たちは、最後の最後までハードワークをしました」と話し、続けて「この一週間は、彼女たち(チームの皆)と一緒に、私たちのベストを尽くす事だけを考えていた」。
 応援に来てくれた人たちに向けての感謝も忘れずに伝えた。喜びのあまりに感情が抑えきれず、涙しながらのインタビューはとても印象的だった。

 敗れたブラックファーンズの共同キャプテン、ケネディー・サイモンは、ショックを隠し切れない様子で、「カナダが私たちの上をいった。おめでとうございます」。続けて、「私たち自身を振り返り、必ず立ち上がらなければいけない」。最終戦のオーストラリア戦に向けて立て直す事を強調した。

 試合後は、勝利したカナダの選手たちの笑顔でいっぱいだった。そして、その勝利の喜びを一緒に分かち合う笑顔のファンも大勢いた。
 アマチュアの選手が多いカナダがプロとして活動しているブラックファーンズに勝利した。カナダの選手たちにとって、この試合の勝利の重さがどれほどのものなのかを感じることができた。
 観る者の心も揺さぶる試合だった。

◆日本代表前HCのジョセフ氏の娘が代表入り。

 カナダに敗れて世界ランキング2位から3位となったブラックファーンズの新人に注目したい選手がいる。日本代表の前ヘッドコーチ、ジェイミー・ジョセフの娘、SHマイア・ジョセフだ。

 現在ブラックファーンズのSHのポジションンは、2022年のワールドカップで引退をしたレジェンド、ケンドラ・コックセッジが抜けた穴を埋め切れていない。そこで、今季は若いSHを代表に入れた。
 その一人がジョセフで、パシフィック・フォーシリーズの開幕から2試合とも背番号9を任された。期待が込められている証拠だろう。

 そのジョセフは、新人とは思えないほど周りの状況がしっかりと見えている。カナダ戦では、ディフェンスをしっかりと引き付けてノールックパス。ヴァアコロの2つ目のトライを生み出した。
 女子では珍しく、自陣22メートル内から一気に敵陣に入るキック力がある事も証明した。経験を積んでいけば、さらに頼もしい選手となっていきそうだ。今後に注目したい。

将来性豊かなブラックファーンズのSHマイア・ジョセフ。(撮影/松尾智規)


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