口を滑らせたら事が大きくなる立場になった。
そう簡単には本音では語れない。
新しくオールブラックスのヘッドコーチ(以下、HC)に就いたスコット・ロバートソン氏は、日本の報道陣の前でも言葉を選んで取材を受けた。
3月17日の秩父宮ラグビー場。来日していたロバートソンHCが東芝ブレイブルーパス×三菱重工相模原ダイナボアーズの試合視察の前、囲みでのインタビューを受けた。
同コーチは日本に1週間滞在。ブレイブルーパスやトヨタヴェルブリッツ、コベルコ神戸スティーラーズのトレーニング施設を訪れ、スティーラーズ×埼玉パナソニックワイルドナイツの観戦もした。
来日の主な目的について、現役オールブラックスの選手たちの現況を知ることに加え、ニュージーランド(以下、NZ)出身のコーチたちとの対話と話した。
「選手たちがトレーニングをしているところを見たり、一緒にコーヒーを飲んで話す時間があったことを嬉しく思っています」とにこやかに話した同HCは、同国の代表資格についての質問には素っ気なかった。
ライバルの南アフリカは、海外ベースでプレーしている選手も代表選出に支障がない。そのルールに変えて以来、世界トップの力を安定的に維持できるようになった。
しかしNZは、経験豊富な選手に与えられる権利であるサバティカル(長期充電休暇/1シーズンに限っての海外でのプレーなど)以外の海外ベース選手は、オールブラックスに選ばないルールだ。
HC就任直後は、そのレギュレーションの変更を希望する趣旨の話も(現地で)していたロバートソンHCだが、その点についての質問に関しては、「NZ協会は代表選手選出資格の要件については、現状では変更しないと認識しています」と繰り返すだけだった。
この日、目の前でプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれる活躍を見せたSOリッチー・モウンガは、ブレイブルーパスと3年契約を結んでいる。
その司令塔については、「彼が日本でもとても良いプレーをしていることは認識していますが、現状は日本での契約があるので」と言うにとどまった。
サバティカルでプレーしているLOブロディ・レタリック、NO8アーディ・サベア(ともにスティーラーズ)やSO/FBボーデン・バレットとは立場が違う。
「リッチーに関しては (そのときの状況が)2027 年のワールドカップにもし出られるようであれば選考を考えたいと思います」とした。
複数のチームを巡り、いろんな人と会い、あらためて感じたことがある。
「NZ出身、もしくは NZに由来のあるプレーヤー、そしてコーチ、アナリスト、スタッフが本当に多い。非常に嬉しく思いましたし、びっくりしました」
友人、知人たちが、日本での生活を楽しんでいるように感じた。
日本のラグビーのスピード感、クオリティーの高さや観客の多さも印象に残った。
2006年度シーズン、リコーブラックラムズ(現・リコーブラックラムズ東京)に所属し、NO8として活躍した。
同シーズンの最終戦、ホンダ(三重ホンダヒート)との入替戦(43-24)が自身のプロ生活のラストゲームだった。
「その試合を、ここ(秩父宮)でプレーしました。思い出深いですね」と懐かしんだ。
当時と比べ、日本ラグビーは大きく成長した。ピッチ上の進化は、W杯での日本代表の残す結果に顕著に表れている。
ロバートソンHCも実際にリーグワンの試合を見つめ、テンポのはやさ、コリジョンの激しさを感じた。
その結果は、NZの選手たちのコンディションの良さにも反映されていると話す。
「大事なのは、彼らがNZに戻ってくる時にいいコンディションであること、テストマッチに入っていける状態であること」と言う同HCは、日本のチームのトレーニング環境の良さを評価した。
コーチたちの指導のクオリティーの高さも認める。スタッフのケアも細やかで、普段からメディカルスタッフらと連絡を取り、選手たちのコンディションも把握している。
レベルも含め、日本でプレーすることのマイナス面は感じていないようだ。
日本選手では、ワイルドナイツのSO松田力也の質の高いプレーが印象に残ったと言った。「チームをうまく操っており、SHとのコンビネーションが国際レベルと感じました」と高く評価した。