今年(2024年)のシックスネーションズ(以下、6N)では、参加している全6チームが背番号の上に選手の名前を入れている。
過去にも2008年にウエールズが同様の試みをおこなったが続かなかった。
2022年のオータム・ネーションズシリーズでイングランドとスコットランドの選手が名前入りのジャージーで戦った。
フランスも2023年ワールドカップ(以下、W杯)前に実施されたサマー・ネーションズシリーズで初めて名前入りのジャージーを披露した。
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「6Nとネーションズシリーズの主催者から勧められていた。2023年の6Nでは名前を入れた国とそうでない国があった。同年のサマー・ネーションズが始まった時にも勧められた。気がつけばしていないのはフランスだけだった。代表チームのスタッフと相談し、(同シリーズ)2戦目のホームでのスコットランド戦で試しに入れてみようということになった」とフランス協会のジャン=マーク・レルメ副会長は経緯を説明する。
今回は6か国の協会が協議した結果、全員が賛同した。
昨年フランスで開催されたW杯をきっかけにラグビーに興味を持った新たなファン層の拡大を期待してのことだ。
しかしながら、この企画に違和感を感じているフランスのラグビーファンは少なくはない。現地ラグビーサイトの『ラグビーラマ』がおこなったアンケートでは、69パーセントが反対意見だった。
「ラグビーでは個よりチームに重きが置かれる。芝生の上では誰もが無名になる」という哲学がラグビー界に継承されているからだ。
このスポーツを発展させていくためには、現代に順応したプロモーションやマーケティング戦略が必要だ。一方には、伝統的なラグビーバリューこそ、このスポーツの魅力とする側面もある。
その間でジレンマに陥っているかのような、ブルーのジャージーの背番号の上に入れられた選手の名前は控えめで消極的。
自信なさげで、そこにあることに気づかずスルーしてしまいそうだ。
今季6Nの開幕ゲームとなったアイルランド戦(2月2日)のフランスも、本当にピッチに出ているのだろうかと疑ってしまうぐらい控えめだった。
「試合序盤のフィジカルバトルを優先したメンバー選考」と言うファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)の言葉とは裏腹に、開始からアイルランドの緑の波に襲われ、コンタクトで食い込まれた。
スピードでも劣り、ディフェンスでも脆さを露呈し、ボールを持っては落球。ラインアウト、モール、ラック、キックとすべての分野で劣勢となり、17-38とガルチエ体制下で最も点差の開いた敗戦となった。
前半終了間際にダミアン・プノーのトライで10-17と7点差にしたが、方向性が見えず迷子になっているような無力感、まるで5年か10年前のフランス代表を見ているようだった。
LOポール・ヴィレムセの退場もあったとはいえ、15人揃っていた時からアイルランドの怒涛の勢いに圧倒された。
ヴィレムセの2度のハイタックルの弁護をするわけではないが、彼は20分間に11のタックルをしている。凄まじいペースで緑の猛攻を食い止めようとしていたのだ。おそらくその役を任されていたのだろう。
W杯前に負傷して以来、やっと代表復帰できた。しかも最初のスコッドには入っておらず、まだノーキャップのエマニュエル・メアフーが負傷しての召集で、自身が1番手ではないこともわかっていた。
久しぶりのインターナショナルレベルの試合で、しかもアイルランドの猛烈なスピードの中、自身の任務を果たそうと持ちうる力以上の働きをしようとして、かなり消耗していたに違いない。
そのことは、試合後に新キャプテンであるグレゴリー・アルドリッドの言葉からもうかがえる。
「14人でももっと上手く対応できたはず。ポール(ヴィレムセ)はとても悲しんでいるだろう。このジャージーのためにすべてを捧げてくれた。そんな彼のことを恨むことはできない」と話した。
ラインアウトのオプションも減って苦戦することになったが、そもそもの布陣が、ラインアウトを重視したものではなかった。
さらにW杯まで代表のラインアウトコーチをしていたカリム・ゲザルがスタッド・フランセのコーチになり、逆にスタッド・フランセのFWコーチだったロラン・サンペレが今大会から代表でラインアウトを担当している。
昨季のスタッド・フランセのラインアウトはトップ14で1位の安定感を誇ったが、代表選手は新しいシステムを10日間では消化し切れなかったのだろう。
そのため、次のスコットランド戦(2月10日、15時15分キックオフ/日本時間23時15分)にはLOカメロン・ウォキを先発させることにした。ウォキはラインアウトリーダーで、アイルランド戦で欠けていたジャンパーのオプションにもなる。
インターナショナルレベルのトライの60パーセントはラインアウトが起点と言われている。クリーンなボールを確実に出して得点に繋げたい。
アイルランド戦でベンチスタートが予定されていたLOロマン・タオフィフェヌアが脚の傷の感染症のため出場できなくなり、試合前日に急遽、ポソロ・トゥイランギが呼ばれた。
「トゥイランギは、過去にゲーム形式の練習をした時にU20のメンバーとして練習に加わっていた。今回も補助メンバーとして1度練習に参加したが、試合出場メンバーとしては2度のミーティングと試合前日の練習にしか参加していなかった。」(ガルチエHC)
19歳のトゥイランギが途中出場するとスタジアムから歓声が起こった。かつてのスター、セバスチャン・シャバルがピッチに入る時の歓声を思い出させる光景だった。
物おじせずにボールを持っては敵に体当たりして役目を果たしていた。しかし当然のことだが、ラインアウトには参加できず、またボールを持っていない時の動きもまだ飲み込めていなかった。
今週のスコットランド戦もトゥイランギはフィニッシャーメンバーに入っているが、W杯時から不安視されていたLOの選手層の薄さは改善されていない。
BKでは、先週ベンチスタートだったルイ・ビエル=ビアレがWTBで先発する。先週先発だったCTB、WTBをカバーできるヨラム・モエファナが今週はベンチスタートだ。
FWでまずフィジカルバトルで勝ち、SHマキシム・リュキュとSOマチュー・ジャリベールが仕事しやすい環境を作る必要がある。また、ベテランCTBコンビのガエル・フィクーとジョナタン・ダンティーの真価も問われている。
「スコットランド戦ではフランス代表の反逆を見せたい」とアルドリット主将は言う。