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アルドリット復活。W杯の苦い経験経て、ラ・ロシェル、フランス代表でさらなる進化へ。

2024.01.12

中央がグレゴリー・アルドリット。ラ・ロシェルの仲間とともに今年最初の試合に臨んだ(Photo: Getty Images)


 フランスリーグ・トップ14の2024年はポー対ラ・ロシェルで幕を開けた。

 昨季を12位で終えたポーだが、今季は開幕から常に上位につけている。2018、2019年とフランスU20代表を世界チャンピオンに導いた経歴を持つセバスチャン・ピケロニ ヘッドコーチ(以下、HC)が若手を育てながらチームを築き上げてきた成果が出てきたことに加え、イングランドのエクセターから今季入団したSOジョー・シモンズがチームにフィットし、開幕からトップ14の全試合に出場、フィールドでは味方のプレーを指揮し、ゴールキックを狙っては確実に決め個人的にも現在得点ランキング1位、チームは前節終了時点で4位につけていた。

 対するラ・ロシェルは今季ここまで5勝6敗と苦戦。特にアウェーでは勝ち星をあげることができていなかった。強いFWで敵を圧倒し組織だったプレーで確実に勝利を物にしてきた姿が今季は見られず、昨季のファイナルで79分にロマン・ンタマックの劇的なトライでトゥールーズに逆転され、手が届きかけていた初優勝を逃したショックから立ち直れていないのではと言われていた。

 試合前のグラウンドでカメラは、ニュージーランドのクルセイダーズから今季ポーに入団したサム・ホワイトロックを捉えた。移籍後2試合目だが、ホームでは初お目見えだ。2018年にクルセイダーズでコーチをしていた、ラ・ロシェルのロナン・オガーラHCと談笑している。

 次にカメラはフランス代表NO8のグレゴリー・アルドリットを捉えた。アルドリットはワールドカップ(以下、W杯)後、2か月余りの休暇をとっていた。本来ならこの試合から復帰予定だったが、チャンピオンズカップでレンスター、ストーマーズに敗れ、その後のトップ14でスタッド・フランセにも敗れ3連敗していたチームの窮状を救うために、予定を早めて前節のホームでのトゥールーズ戦から戦列復帰していた。

 前節は後半から出場し26分プレーしただけであったが、すでに存在感を発揮していた。今節は半年ぶりに先発出場。ラ・ロシェルのキャプテンが帰ってきた。

「グレッグ(アルドリット)は僕たちの真のキャプテン。彼にはオーラがある。偉大なリーダーなんだ。まだ若いけど(26歳)、フランス代表50キャップ(正確には54キャップ)だよ。彼の不在を日々感じている。グレッグは敵とのコンタクトで決して後ろに下がらない。そんな彼から僕たちは自信を得る。敵も絶好調のグレッグが前から向かってくるのを見ると心穏やかではいられない」と話していたのは、チームメイトのジョナタン・ダンティーである。

 確かに、今季のラ・ロシェルはどこか自信無さげで劣勢の時間帯でパニックになる場面がよく見られ、そんな状況でチームを落ち着かせるリーダーの不在が感じられた。

 この試合、前半はポーがプラン通りにラ・ロシェルにプレッシャーをかけ14-9とリードして折り返した。しかし後半開始早々ラ・ロシェルのウィル・スケルトン、レヴァニ・ボティアら強力FWがどんどん身体を当てて敵陣に攻め込んだ。ゴールポストの足元でポイントを作り、ボールを取り出したアルドリットがインゴールに持ち込むと見せかけ、右についていた味方にパスをしてゴールに送り込んだ。コンバージョンも成功し19-14と逆転。その後も敵にトライを許さず29-20で勝ち切った。今季初のアウェーでの勝利となった。

 試合後、円陣でチームメイトに熱く言葉をかけているアルドリットの姿が見られた。試合中は至る所に出没し、コリジョンでは常に前進した。敵を仕留めたタックルの数は20。しかもミスゼロである。

「まだ自分が目指しているレベルではないけど、それは当然。どれだけ練習しても試合の代わりにはならない。はやく目指すレベルに到達するために全力で取り組む」

 今回の長期の休暇はW杯の前から決めていた。2018-19シーズンは31試合に出場した後(フランス代表を含む)、W杯準備試合2試合とW杯日本大会の4試合でプレー。その後2週間の休みを挟んだだけで再びラ・ロシェルのジャージーを着て戦った。それ以来、年間平均28試合のペースで文字通り身を粉にして働いてきた。大きなけがはなかったが、ハムストリング、肩、腰を傷め、右膝は変形性関節症になった。

「こういうアラートがあったからリカバリーと身体を作り直すための時間を取らなければと考えるようになった。もっと強くなるために、もっとプレーできるようになるために」

 昨年5月にチャンピオンズカップで優勝した後、「W杯後に2か月の休暇を取りたい」とオガーラHCに伝えた。すぐに承諾してくれ、会長に伝えてくれた。会長も快諾してくれた。

自国開催W杯で初優勝を目指したフランス代表だが南アフリカ代表との死闘で準々決勝敗退(Photo: Getty Images)

 11月は治療と周辺の筋力の強化に取り組んだ。12月からはクラブのSCコーチと連絡をとりながらトレーニングに励み、12月23日からクラブの練習に復帰した。

「認めてくれたクラブに感謝している。休みを取る前は『もう35歳ぐらいの気がする』とよく言っていたけど、おかげで今は26歳に戻れたよ」と復帰試合の後でテレビのインタビューに答えた。

 W杯での準々決勝敗退も消化できたのだろうか?
「南アフリカ戦から1週間ほど経って、気持ちが落ち着いた頃に試合を見た。何度も止めて繰り返し見たアクションもある。見るのは酷で辛かったけど、どうすればよかったのか分析したかった。もっとうまく対処できていればこちらに流れを引き寄せることができた場面もあった。理解して、受け入れ、消化する必要があった」と言う。

 そして学んだことは、
「どれだけいいラグビーをしても、大一番で勝てるとは限らない。『南アフリカはそんなによくない、きっと勝てるよ』と言われていたけど、彼らは大切な試合は全て勝った。経験の差を見せつけられた。僕たちはこの経験を活かし、これからの4年で最大限の自信をつけてオーストラリア大会に最高の状態で臨めるようにしなければ」

 LOロマン・タオフィフェヌアが「南アフリカはずる賢かった」と言っていたが、
「そこでも勝たなければならない。成熟するにつれて賢さも身についていく。でもスプリングボックスが単に狡猾だったと言うのは短絡的すぎる。彼らはフィジカルでも最高の状態だった。どのチームにも劣らない。いろいろな要因がある。僕たちも誰かをまねるのではなく、自分たちのDNAを大切にし、自分たちのラグビーをしなくてはならない。その点は代表スタッフを信頼している。彼らはフランスらしいもの、僕たち選手にふさわしいものを作り上げることに成功したのだから」

 レフリングにミスがあったとワールドラグビーも発表した。
「ミスがあったのは確か。でもそれらのミスがあっても、僕たちにはこの試合に勝てるだけの力があった。僕はレフリングよりも、選手として何を変えるべきかにフォーカスしたい。そうしないと前進できない」とあくまでも前を見る。

 今後の目標は?
「全てにおいて成長したい。フィジカルもリカバリーもスキルも。W杯期間中はコンタクトの姿勢に取り組んでいた。タックルスキルも常に改善に取り組んでいる。また、ラ・ロシェルではラインアウトのオプションになっているのだから、代表チームでもできないかなとも思っている。これらが実現するかどうかは、自分がどれだけ努力するかにかかっている」

「僕の目標は自分の能力を押し上げること。パフォーマンスに上限はないのだから。若い選手も伸びてきているし、のんびりしているとポジジョンを奪われる」

 より強くなったアルドリットを必要としているのはラ・ロシェルだけではない。シックスネーションズの開幕まで1か月を切ったフランス代表にとっても必要不可欠なリーダーである。

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