昨年の女子のワールドカップの準決勝の再戦ニュージーランド×フランスは、再び1点差の死闘となった。
女子15人制のラグビーの新しい国際大会【WXV】が10月13日から開幕した。
世界のトップクラスが集まるファーストグループ【WXV1】の試合は、【WXV2】と【WXV3】から1週遅れて10月20日に開催国のニュージーランド(以下、NZ)でキックオフとなった。
WXV1のフォーマットは、2つのプールに分けられる。
一つ目は、ヨーロッパの女子シックスネーションズの上位3チームの「イングランド、フランス、ウエールズ」、もう一つは、パシフィック4シリーズの上位3チームの「ニュージーランド、オーストラリア、カナダ」で構成され、別のプールの3チームと対戦するクロスプール方式で戦う事になる。
◆昨年ワールドカップ準決勝の再戦は、粘りのディフェンスでフランスが勝利。
昨年のワールドカップ(以下、W杯)で劣勢を見事に跳ねのけて優勝を勝ち取ったNZ女子ラグビー代表“ブラックファーンズ”。メンバーの主力として優勝に貢献したFLサラ・ヒリニ、WTBポーシャー・ウッドマン、ステイシー・ワカ(フルーラー)等のセブンズの選手たちは、W杯後は15人制には参加していない。それにより戦力ダウンが懸念された。
しかし、残された優勝経験者に数人の新人を加えて挑んだパシフィック4シリーズを危なげなく優勝。オーストラリアとの伝統的なトロフィーがかかるオライリーカップでは、50-0、43-3で2試合とも圧勝した。
そして今年から始まるWXVでは、W杯後に初めてヨーロッパの強豪と対戦する事により、ブラックファーンズの現状のレベルが試される試合となる。
WXV1のブラックファーンズの初戦の対戦相手はフランス。昨年のW杯の準決勝の再戦となる。
女子ラグビーの次元をはるかに超え、内容で圧倒していたフランスを相手にリスクを犯して果敢に攻めたブラックファーンズが僅か1点差(25-24)で死闘を制した歴史に残る試合だった。
あれから一年が経ち同じNZの地で準決勝の再戦となった。
10月21日、今回の会場はウエリントン。両チームの国歌斉唱の後、ブラックファーンズの迫力満点のハカ「コ・ウヒア・マイ」を披露。
ハカを堂々と受けて立ったフランスは、その後円陣を組んで再び国歌「ラ・マルセイエーズ(La Marseillaise)を歌う。
昨年のリベンジをしてやる!
そんな意気込みがヒシヒシと伝わってきた。
序盤に勢いがあったのはブラックファーンズだった。FW戦は昨年のように劣勢でなくむしろ優勢だった。ラインアウトからモールで前に出た後にBKに展開。しかしパスをインターセプトされて80メートルの独走トライを許し先制される0-7(6分)。
落ち着きたいブラックファーンズは、WTBルゥビ・トゥイのラインブレイクからチャンスを得る。そこから、FW戦に持ち込みラックの近場で確実に前に出る。最後は、ゴールポスト真下に8番リアナ・ミカエレ=トゥウがトライ。7-7の同点に追いつく(11分)。
ここから勢いをつけると思われたブラックファーンズ。
しかし、フランスの鋭い出足のディフェンスを前にミスが多発。その後、フランスボールのスクラムからサインプレーを見事に決められトライを許した。更には、ペナルティーゴール(PG)を決められるなど7-15で折り返しとなった。
後半に入り巻き返したいブラックファーンズは、早めに控えの選手を入れた。巨漢PRターニャ・カルーニベールの突進で前に出るもフランスの激しいディフェンスの前に得点できず。
両軍1PGずつ入れて10-18でフィナル・クォーターに入った。引き続きミスが続いたブラックファーンズにとって、いらいらする試合展開となった。
そして間もなく規律が乱れる。62分に途中出場のPRクリス・ヴィリコが頭部へのコンタクトで一発レッドカード。スコアだけでなく数的不利にもなった。ブラックファーンズがここから逆転するのは厳しいと思われた。
しかし、レッドカードをきっかけにブラックファーンズの目が覚めた。
それまで多発していたハンドリングエラーが信じられないくらいに改善。攻撃にテンポが出てきた。
やがてチャンスがおとずれ、14番ルィビ・トゥイが絶妙なグラバーキックをインゴールに転がす。今季の新人WTBケイトリン・ヴァハアコロが競り勝ちボールを押さえてトライ。コンバージョンも決まり17-18の一点差に迫る(71分)。
しかし、ディフェンスで粘るフランスが耐えブラックファーンズの追撃は及ばず試合終了の笛が鳴った。この瞬間にフランスは昨年のW杯のリベンジ成功となった。まるでW杯に優勝したかのようなフランスの選手の喜んだ姿が印象的だった。同じ一点差というスコアだったと言うのもドラマの様だ。
フランスがNZの地でブラックファーンズに勝利するのは初めての事もあり、リベンジした事と合わせて喜びは大きいようだ。
この結果によりブラックファーンズの連勝記録は16でストップ。
FWで有利に進めながらも、一試合通じてハンドリングエラーが目立ったブラックファーンズのエンジンのかかりの遅さが敗因となった。しかし、そのミスを誘ったのは、フランスの気迫あふれるディフェンスだった。まさにディフェンスの勝利と言っても過言ではないだろう。
試合後のインタビューで共同主将のケネディー・サイモンは、自分たちのミスの多さを認め、次のウエールズ戦で立て直しに目を向けた。
◆復帰戦で存在感を見せつけたルゥビ・トゥイ。
チームがミスを連発をする中で、一人気を吐いた選手がいた。WTBルゥビ・トゥイだ。
昨年のW杯でもたびたびチームに勢いをつけたが、この試合でも流石のパフォーマンスを見せた。
ボールを持てばスピードとランニングスキルを見せた。二つのトライの足掛かりもトゥイだった。
激戦が続いたW杯後にしばらく休養したトゥイは、その後、サバティカルでアメリカに渡った。
そしてNZに帰国後ファラ・パーマー カップ(NZ女子ラグビー国内選手権)に出場してNZラグビーに復帰。
WXVの大会前に一年振りに代表に返り咲き、復帰戦でいきなり良いパフォーマンスを披露し存在感を見せつけた。トゥイの今後の活躍も十分に期待できそうだ。
WXV1の開幕週のその他の試合は、昨年のW杯準優勝のイングランドがオーストラリアに42-7で圧勝。カナダが42-22のスコアでウエールズに勝利している。
ブラックファーンズの2戦目は、10月28日にダニーデンでウエールズと対戦する。
その翌週に昨年のW杯決勝で戦ったイングランド対戦する事になっている。