北半球の日本に訪れて約1週間。母国である南半球のニュージーランドとは真逆の季節を過ごす。ベイリン・サリヴァンは、関東地区の蒸し暑さに苦しんでいた。
7月8日、東京・秩父宮ラグビー場。オールブラックスXV(フィフティーン)の14番をつけた。JAPAN XVと名乗る日本代表に挑んだ。
キックオフ時間は夕方だったとあり、「風が吹いている時は、身体を冷やすことができた。うまく対応できた」と笑った。
JAPAN XVは守りで前に出る。間合いをつめ、走者には2人がかりで飛び掛かる。ミスを誘う。
システム上、大外のカバーが手薄に映りがちだ。とはいえ、数的不利を強いられた選手も思い切り飛び出すことで危機を防ぐ。攻め手のパスを乱す。
おもにフィールドの外側でプレーするサリヴァンは、戦後、JAPAN XVの防御との駆け引きをこう振り返った。
「外にスペースは見えていた。ただ、JAPAN XVはそのパスをカットするようなディフェンスがうまくできていた。確実に穴を突くのは難しいと思っていました」
攻め勝つために意識したのは、「足をためる」ことだ。深い角度の攻撃ラインを作り、間合いを詰めにくる相手との間合いを取ろうとした。そうすれば、ボールをもらった走者が余裕を持ってタックラーの死角を突ける。
後半15分。自陣深い位置でのターンオーバーから、チームがその形を繰り出す。
CTBのジャック・グッドヒューが、JAPAN XVのFLで共同主将のリーチ マイケルをかわす。オフロードパスをつなぎ、10メートル線付近まで進む。まもなくSHのブラッド・ウェバーが、飛び出す相手SHの齋藤直人を抜き去る。
その瞬間、直近のフェーズでリーチを避けたグッドヒューが右側に位置していた。味方を引き連れながらだ。
グッドヒューはウェバーから球をもらい、右大外へパス。ここには2人の選手がほぼノーマークで待っていて、まずは手前側にいたSOのスティーヴン・ペロフェタが駆け上がる。追いすがる防御を引き寄せ、右へバトンを渡す。
ここで待っていたのが、サリヴァンである。加速する。タックラーをステップでかわす。
最後は、左を併走していたグッドヒューへ折り返す。トライとコンバージョンの成功で、スコアを21-6とした。
38-6で勝ってから、サリヴァンは防御を破る工夫についてさらに語った。相手への敬意も添えた。
「足をためる(間合いを取る)ことを意識しました。JAPAN XV側も、それに対して『上がり過ぎない』という対応をうまくしていたようにも思いましたが」
オールブラックスXVはこの日まで、不慣れな環境のもとで約1週間、練習しただけだった。準備の条件が芳しくないなか、本番で一定の連帯感をアピールしたのだ。
その裏には、同国ラグビー界の一体感がにじむ。
今回のメンバーの所属先は、国際リーグのスーパーラグビーへ自国から参戦する5チームのうちのいずれか。ハリケーンズ所属で22歳のサリヴァンは、こう説く。
「我々にはニュージーランドでラグビーをしている時間がある。それぞれのチームが異なるものの、(スーパーラグビーに加盟する5チームの)システムに大きな違いはない。その意味では、(合流したてのオールブラックスXVでも)同じ絵を見やすい状況ではありました」
身長187センチ、体重89キロ。柔らかい走りに加え、空中戦での強さも披露した。
8-3とリードした直後の前半19分頃。自陣22メートル線付近の中央左寄りからペロフェタがハイパントを上げる。
ボールの落下地点は、同10メートル線付近右だった。ここにはJAPAN XVのジョネ・ナイカブラが待ち構えていた。サリヴァンは後方から駆け上がり、ナイカブラの死角からジャンプした。
競り勝った。そのまま前進できた。
「私にとってはラッキーもあったが、その部分(空中戦で)相手と差をつけられたシーンもいくつかあったと思います」
攻防の駆け引き、キック合戦でのコンテストで、日本代表は貴重なレッスンを受けた。
両軍は15日、熊本・えがお健康スタジアムで再戦する(日本代表対オールブラックスXVとして)。