「執行猶予付き懲役2年、罰金75,000ユーロ(約1080万円)、2年間ラグビーに関係するいかなる職務に従事することを禁ずる」
12月13日にパリ軽罪裁判所からフランスラグビー協会ベルナール・ラポルト会長に宣告された判決である。罪名は収賄、優越的地位の濫用、利益相反行為、横領、横領隠匿だ。
事の始まりは2016年、モンペリエのオーナー兼会長であるモヘド・アルトラッド氏がチームのヘッドコーチ(以下、HC)を探していた時期にラポルト氏と出会ったことだった。
当時、ラポルト氏はトゥーロンのHCであったが、すでにフランス協会の会長の座を狙っていたためこの話は実現しなかったものの、ラポルト氏に魅力を感じたアルトラッド氏が、翌年ラポルト氏に年間4回の講演会と肖像権使用の契約を結び、その契約料として18万ユーロ(約2600万円)がラポルト会長個人の会社であるBLコミュニケーションに支払われた。
しかし講演会は実行されていない。以後、フランス協会の会長に就任したラポルト氏からアルトラッド氏への『サービス』が始まる。
2017年3月、フランス代表チームのジャージーに2023年ワールドカップの誘致運動を支援するアルトラッド社のロゴが「#France 2023」という文字と並んで入れられる。
1年につき180万ユーロ(約2億6000万円)という安すぎる金額で。
しかも契約成立に至るまでの交渉の形跡が残されていない。
同じく3月にスタッド・フランセとラシン92が合併すると突然発表された。
両チームの選手たちにも寝耳に水の話だった。騒動の渦中で試合ができる状態ではないと判断したLNR(トップ14の運営団体)は同月18日に予定されていたカストル×スタッド・フランセと、モンペリエ×ラシン92の2試合の延期を決定した。
延期に反対しラシン92の不戦敗を訴えていたアルトラッド氏は協会にLNRの決定を改めるよう要請した。
協会はLNRの延期の決定を無効にすると発表したが、国務院に訴えたLNRの主張が認められた。
同年4月22日、その試合がモンペリエのホームスタジアムで行われた時に、LNRとラシン92の癒着を訴える横断幕がスタジアム内にいくつも見られた。
横断幕はサポーターが持ち込んだものと言われているが、LNRの懲罰委員会はモンペリエに対して「視覚的に訴える手段を使用し憎悪や暴力を生み、人々を扇動しようとした」と罰金7万ユーロ(約1000万円)と、翌シーズンの最初のホーム試合をホームスタジアムから75キロ以上離れた場所で行うことと処分を決めた。
モンペリエは上訴し、6月29日にフランス協会で上訴委員会が行われた。29日の時点ではLNRの懲罰委員会を維持することで委員会の意見は一致していたが、翌朝ラポルト氏から上訴委員長に電話がかかってきた。
結果、懲罰は罰金2万ユーロ(約290万円)に軽減され、ホームスタジアムで試合することもできるようになった。さらに出場停止処分を受けていたモンペリエの2名の選手の出場停止期間も短縮された。
8月、「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」紙が2人の間に肖像権契約が結ばれていることを報じた。スポーツ省が調査に乗り出し、9月には国家金融検察庁に書類を転送したことを発表。経済犯罪抑止部隊が調査を命じられる。
11月、フランスが2023年W杯開催国に選ばれ、翌年1月にはアルトラッド社が2018年から2023年のフランス代表チームのジャージースポンサーと発表される。
契約金額は5年で3500万ユーロ(約50億5300万円)だった。
このスポンサー募集にあたり、長年フランス代表の大手スポンサーである他の4社には、セルジュ・シモン副会長から1年につき990万ユーロ(約14億3000万円)と提示され、アルトラッド社には、W杯誘致を担当し、その後協会に『ビジネス・ディレクター』として在籍していたクロード・アチェ氏から1年につき540万ユーロ(約7億8000万円)と他社より安い金額が提示されていた。
その結果、手を挙げたのはアルトラッド社だけであった。
約2週間後、フランス協会のオフィスがあるラグビー国立センターとラポルト氏の自宅、そしてアルトラッド氏の自宅と会社に家宅捜査が入る。
2020年9月、ラポルト氏、アルトラッド氏、シモン氏、アチェ氏が取り調べのため48時間勾留される。
その数週間後、ラポルト氏は会長に再選される。
フランス協会の会長は、フランス国内に1800近くあるアマチュアクラブが票を投じて選ばれる。ラポルト氏の得票率は51.47パーセント、対立候補のフロリアン・グリル氏は48.53パーセント。
僅差の勝利だった。
2021年7月、経済犯罪抑止部隊が4年以上に及ぶ調査を終了し報告書を国家金融検察庁に提出した。
そして今年9月、約2週間にわたって裁判が行われ、その判決がようやく言い渡されたのだ。
すでにラポルト氏の弁護士は控訴を申し立てる構えだと伝えており、刑の執行は最終の結果が出てからになる。
フランス協会は、「ラポルト氏は引き続きフランス協会の会長である」と声明を出した。
しかしラポルト氏が副会長の職に就いていたワールドラグビーからは、「ラポルト氏は一時的に、自発的にワールドラグビーの全ての職から退いた」と発表された。
フランス国内でも退任を求める声が上がっている。
スポーツ相のアメリー・ウデラ=カステラ氏は「フランスが世界中の国々を受け入れるW杯直前の重要な時期に、有罪判決が出された今の状況はラポルト氏が協会のトップとしてミッションを遂行する障害となるだろう。新たな民主主義の下、フランスラグビーが健全で強固な土台の上で速やかに再出発することを求める」と会長選挙を求めた。
LNRも「選挙を行いフランスラグビーに平穏を取り戻すことが望ましい。この選挙によって選ばれた協会幹部はW杯というフランスラグビーにとって大きなイベントに向かって気持ちよく進むことができるだろう」と声明を出した。
判決から3日後にはフランス協会の道徳・倫理委員会がラポルト氏に、判決が確定するまで一時的に退任するよう命じた。
翌日には、「なぜ辞めなければならないのかわからない。辞めれば訴えられている内容を認めることになる。言いたい連中には言わせておけばいい。私は無罪だと確信している」とインタビューに答えるラポルト氏の発言が「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」紙に掲載されたが、週が明けた12月19日、フランス協会から新たな声明が発表された。
道徳・倫理委員会の命令を受け止め、ラポルト氏は一時的に会長の職から離れ、近日中に会長代行も任命するという。
あくまでも会長はこれまで通りラポルト氏という但し書き付きである。
一方、執行猶予付き懲役18か月、罰金5万ユーロ(約720万円)、2年間会社経営に携わることを禁止されたアルトラッド氏の有罪判決の影響は、アルトラッド社がスポンサーとなっているオーストラリアのウェスタン・フォースとニュージーランド協会にも波及している。
両者ともアルドラット社と協議すると発表している。
今回は無罪となったアチェ氏だが、氏はW杯組織委員会で『憂慮すべきマネージメント』が問題となり、10月に最高経営責任者の任を解かれている。
自国開催W杯を目前にして、今大会誘致の立役者である組織委員会と協会のトップ自らが、フランスラグビーとフランスW杯のイメージに傷をつけたことになる。
代表チームには黄金世代の選手が揃い、現在テストマッチ13連勝、世界ランキングも2位と好調で、フランス国内での人気も右肩上がりだ。
来年のW杯でも優勝候補と期待されているのに残念なことだ。
※参照:「レキップ」紙、「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」紙