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ジャパンを称賛した王国のファン。オールブラックスへの不安は再燃

2022.11.03

日本代表はチーム力で上回った。写真は、圧力をかける中村亮土(左)、ディラン・ライリーのCTBコンビ。(撮影/松本かおり)



「ジャパンのパフォーマンスは、素晴らしかった」
 ニュージーランド(以下、NZ)のラグビーファンの多くがそう語った。

 10月29日、4年ぶりに日本代表 と対戦となったNZ代表 、オールブラックス 。国立競技場に足を運んだ6万5188人の大観衆の前で38-31と、冷や汗の勝利を手にした。
 そして黒衣軍を追い詰めた日本代表のパフォーマンスは、ラグビー王国のファンから称えられた。

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 遠征前、NZ国内のメディア、ラグビーファンからは、オールブラックスが日本代表に問題なく勝てるという声が多く聞かれた。
 出場メンバーについても、経験の浅い選手にチャンスを与えるべきだという論調だった。大差ばかりの、過去の対戦成績から、決戦というより、テストマッチながらも試合をイベント的なものと考える空気があるようにうかがえた。

 バレット三兄弟、サム・ホワイトロックなど、主力の合流が遅れた影響はある。
 しかし実際のオールブラックスのメンバーは、イアン・フォスター ヘッドコーチ(以下、HC)が語ったように、これまでプレータイムの少なかった選手を起用したことでベストなメンバーではなかった。
 それでもレギュラークラスの選手も多く含む強力メンバーだった。

◆しっかり準備されていた日本代表、一方のオールブラックスは?

 NZ生まれのリーチ・マイケルは「勝てると確信している」など、戦前から強気の発言をしていた。
 そのリーチは、試合2日前にNZのラジオ番組に電話出演し、オールブラックス相手でも自信のある発言をした。
「しっかり準備をしてきた」
 その言葉を、ジャパンの選手たちが力強く語っていたのが印象的だった。

 日本代表は9月から強化合宿で強度の高い練習を重ね、その後、オーストラリアAと3試合を戦った。
 テストマッチに近いレベルの実戦を経験したことで、「オールブラックス戦に向けてしっかり準備をしてきた」と言えるだけの自信を持っていた。

 一方のオールブラックスは、どうだったか?
 9月24日のオーストラリア代表 、ワラビーズ 戦から10月29日の日本代表戦まで5週間あいた。その間にNZ国内でスコッドが集まったのは、10月中旬に南島にあるネルソンで行われた3日間のキャンプのみだった。

 代表スコッドの中で出場機会が少なかった一部の選手は、NPC(NZ国内選手権)で1,2試合出場することが許された。
 しかし、多くの選手がこの期間を休養にあて(個々のトレーニングはしている)、チームとしてのトレーニングが不足している状態での来日だった。

 試合前のフォスターHCのインタビューは、いつもより緊張感がないように感じた。
 来日前からコメントでは、日本代表を評価し、リスペクトしている言葉を並べた。ただ、調整自体は準備万端とは言い難かった。

 実際の試合でも、5週間ぶりの試合、そして新しい選手を加えている事から、コンビネーションには綻びがあった。
 それでも個人技でのラインブレイクからトライを挙げるなど、前半の約30分で18点のリード。 力の差がまだまだあると思われた。

 しかし、日本代表のパフォーマンスが高かった。
 オールブラックスのミスを巧みに突いて1トライを返す。さらにカウンターアタックから見事なスキルを見せつけてトライ。前半残り時間10分弱で2トライを返して18点差から4点差にした。

 日本代表の中村亮土、ディラン・ライリーのスキルの高いCTBコンビは、オールブラックスの経験の浅いCTBコンビを上回った。ブレイクダウンでは、リーチ・マイケル、姫野和樹らがオールブラックスの3列陣と対等以上に戦った。

 日本代表は一人ひとりの状況判断が素晴らしく、個人としてだけでなく、チームとしてオーガナイズされていた。合宿、オーストラリアA戦と重ねた準備の結果が、前半に続き後半も離されかけたところで食らいついていける下地となっていたように見えた。

◆個人技のオールブラックス、チームで戦った日本代表。

 ワクワクさせてくれたのは日本代表の方だった。
 LOブロディ・レタリックのレッドカードが出た時、勢いからみても日本代表の逆転する可能性も感じられたが、そこはオールブラックスが許さなかった。
 まさに冷や汗の勝利だった。

 オールブラックスに迫った事により、日本代表は世界での評価を上げた。
 NZ国内では接戦という結果に加え、しっかりとしたゲームプラン、スキルレベルの高さをオールブラックス相手に出した評価は高い。

 オールブラックスはどうだろう?
 今季序盤の不調から徐々に立て直し、ブレディスローカップ、ザ・ラグビーチャンピオンシップのタイトルをキープした事で、安堵感があったか。

 NZ国内のファンの信頼を回復しつつあった。しかし今回の試合内容で、NZ国内は再びざわつくことになった。トークバックラジオから聞こえてくるファンの声は、不安が再燃したことを感じさせた。
 北半球遠征のターゲットは、遠征の最後に行われるイングランドだろう。しかし、その試合までに調子を整えていくような余裕は、いまのオールブラックスにはないだろう。

 日本代表戦は、事前の準備が試合に大きく反映された。その結果は、オールブラックスにお灸をすえる事となったに違いない。
 今週末からウエールズ、そしてスコットランド、イングランドとテストマッチが続く。ファンを納得させるには、すべての試合で良い内容を見せて勝利する必要がある。
 オールブラックスの本当の復活は見えてくるだろうか?


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