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【連載】プロクラブのすすめ② 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 「来年のW杯中になにができるか」

2022.11.02

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛けに迫る連載、第二回。

 今回は2季目のリーグワン開幕が近づく中、レヴズが10月にリリースしたニュースの詳細をはじめ、チームの代表である山谷拓志社長が描く中長期的ビジョンを訊いた。(取材日10月28日)

連載(第1回)

――この1か月でブルーレヴズがリリースしたニュースを振り返りたいと思います。まず、10月7日には各選手に与えられるプレイヤーズナンバーを変更、更新しました。

 野球、サッカー、バスケでは、背番号は選手の象徴的なものです。何番と言えばだれだれ、みたいに紐づく。それによってグッズも売れます。そういう世界でずっとやってきたので、(選手に固定された背番号がない)ラグビーは個人と紐づくグッズが作りにくいと思っていました。
 ですが、そのことを話していると、レヴズでも他のチームでもプレイヤーズナンバーがありますと。チーム内で共有しているし、車のナンバーにする選手もいて、結構愛着があるのだとびっくりしました。
 それなら番号を入れたグッズを作ろうと、去年から話はしていたんです。ただ、試合ごとに選手が変わる1番から23番を与えられた選手もいた。それで今季から個人番号を整理して、25番から99番のなかで割り振り直しました(24番はレヴニスタナンバー)。矢富(勇毅)選手は愛称がヤッツなので82にしたり。これからプレイヤーズナンバーのグッズはどんどん出てくると思います。

――やはりプレイヤーズナンバーを活用することでグッズ化しやすかったり、ビジネスチャンスも生まれやすくなるものですか。

 ファンの中には箱推しの人(チーム自体が好きな人)もいるけど、選手個人を応援する人も多いですし、応援する中でお気に入りの選手が出てくることもある。そこにプレイヤーズナンバーがあれば、愛着も湧きやすい。
 ただ、これまではその選手のグッズが欲しいと思っても、例えばオーセンティックジャージーには番号が入っていませんでした。そこで、受注販売か試合会場での販売かは未定ですが、好きな選手の番号を入れられるサービスも始めようと思っています。

 実は自分たちで番号をプリントできる機械はすでに持っているんです。別のきっかけで買っていました。これもラグビー界にきてびっくりしたことですが、試合で使うジャージーがすごく多い。1から23までプリントされたジャージーが、誰でも着られるよう5サイズくらいあって、破れた時などの予備で3枚ずつありますと。23×5×3(≒350枚)のジャージーがありました。ただ、実際は3分の1しか使わない。これはもったいないなと。
 番号が決まってから、プリントすればいいのではと提案しました。同じ枚数用意したとしても、使わなかったものはオーセンティックジャージーとして売り物にもなるし、次のシーズンにも回せますから。

 ゆくゆくはその試合限りの選手の名前入りのジャージーを作りたいですね。ラグビー界ではあまり見たことないと聞きました。スポンサーの表記やリーグのルールでできるかは分かりませんが、48時間前に選手が決まった後に番号と名前を入れるというのはチャレンジしたい。その試合限りのジャージー限定販売みたいなこともできると思います。

*10月29日にはスコットランド代表がオーストラリア戦で各選手の名前入りジャージーを着用して話題になった

――10月19日には、延岡合宿のリリースがありました。地元企業からの協賛でおこなったキャンプだったのですね。

(地元企業の協賛を募って合宿をするのは)おそらく初めてだと思います。去年、延岡に行った際に、トップのラグビー選手を間近で見られるのは貴重で経済的な効果もあると、地元の皆さんに喜んでいただいた。練習や試合を公開したり、合宿の前後に講演やラグビー教室をやることが、地域にとってプラスになると感じました。それなら地元の人たちが支援をしてくれるのではないかと。今年は多くの地元企業さんがお金や差し入れなど、たくさんの支援をいただいた。われわれは合宿中にその企業の看板を立てたりしてPRにつなげました。
 合宿で儲けるという発想ではなく、ひとつのコンテンツとしていろんな価値を発揮できるなと。ただ練習するだけではなくて、地域の人のプラスになったり、地元企業をPRする機会になったり、ラグビーの普及発展につながったり、ファンの獲得にもつながる。

 次は合宿を静岡県内でもやります。11月は裾野市でキャンプをすることにしました。東地区でやるのはおそらく初めてです。合宿だけではなくて、1日の練習をある町のグラウンドに行ってでできないか、というのも検討しています。五郎丸くんが言っていたのですが、フランスではバス1台である町に行って練習することが結構あったと。練習を見せてラグビークリニックを開いてBBQをして帰る、みたいな。
 われわれはいまいろんな町(市)と協定を結んでいますが、試合ができるスタジアムを持っていないところがほとんどです。それでも練習なら芝生のグラウンドが1面あればいい。若干、チームの負荷はかかりますが、そうした町を回ることは面白い取り組みだと思います。地域の人たちにも喜んでもらえるし、それがスタジアムまで足を運ぶきっかけになる可能性にもなる。練習に来てくれるのであればスポンサーになります、という動きも出てきています。

――19日には、負傷で長期離脱する選手のお知らせもありました。日本のラグビー界では、選手のケガのリリースを出すチームはこれまでなかったと思います。

 プロスポーツにおいては選手が出られない状況であれば、ファンやスポンサーなどのステークホルダーにその情報を開示すべきですよね。その選手を応援しようと思って、チケットを買ったファンの方もいるわけですから。ラグビーはケガの多いスポーツでもあるので、ラグビーこそやるべき、と思っていました。
 ただ、昨年は賛否両論でした。他のチームがやっていない中でやるべきなのか、貧乏くじを引くのではないかと。確かに本来であればこれはリーグが決めることで、各チーム平等にやるものです。なので昨年は、かなり議論を重ねた上で見送っていました。
 ただ今回、石塚(弘章)選手は本当に残念ですが、石塚選手も含めて選手たちから、長期離脱のケガをした時はしっかりファンの人たちに知らせたい気持ちもあると聞きました。選手たちがどう感じるかも含めて、かなり丁寧にもう一度議論した結果、今回リリースを出すことに決めました。
 ケガは大小さまざまで、痛くても出場する選手もいれば、大事をとって休んだり、ケガに関係なくコーチの戦術的に起用されないこともある。なのですべての情報を出すわけではないですが、3か月以上離脱してしまうケガに関してはシーズン中でも出していく予定です。

――前回のインタビュー時にお話ししていた、中長期的な視点についてもうかがいます。考えているのはワールドカップ2023(以下、W杯)の前後でしょうか。

 そうですね。来年のいま頃なにができるか、というのはよく考えています。W杯の真っ最中で、ラグビーに注目が集まっている状況ですよね。日本代表やW杯だけではなく、ラグビーそのものが注目されるこの機会を、どうファン獲得につなげていくか。
 W杯の前後に海外のチームを呼べないか、逆にわれわれが海外に出て試合ができないか、というのは考えます。呼ぶとすれば、興行としてしっかりやる。行くにしても、行く意義をしっかり伝えることでツアーをサポートしてくれるスポンサーがつけば、それは面白い取り組みになると思っています。
(TOP14の)トゥールーズとわれわれはヤマハ時代から協定を結んでいて、私も11月に一度トゥールーズに行きます。来年、それ以降になにかできることはないかを議論する予定です。

――ワールドカップ以降のことも考えている。

 いま考えているのは、われわれの練習環境を改善していく必要があるなと。D-Rocksさんやワイルドナイツさんがものすごい施設を作ったり、神戸さんも新しいクラブハウスを作りました。磐田市の中にも、医療、コンディショニング、ニュートリションなどを揃えた日本有数の練習環境、トレーニング施設を作りたい。それも、地域の人や高校生、ユースチームなども利用する地域に開かれた施設です。

 自分たちが練習場として使う時間はごくわずかですから、その施設をサテライトチームが利用するのもありだなと。いわゆる、チームの2軍を作るのはどうかなと思っています。ルール上できるか分かりませんが、社会人リーグに参戦するとか。これも選手の登録制度上、難しいと思いますが、サテライトチームで頑張った選手がいれば1軍に呼ぶといった入れ替わりがあってもいいなと。

 実はバスケの栃木(ブレックス)にいた時にまったく同じことをやりました。当時の日本リーグは1部と2部で入替戦がなかったので、栃木は1部と2部の両方にチームを持っていた。トップのリーグに行けなかった選手がサテライトチームに入ってくれて、そこで頑張った選手が1軍に上がったり、他のチームでエースになったりといった経験がありました。
 例えば茨城ロボッツで頑張っている多嶋朝飛選手や、群馬の並里成選手。彼は高卒でプロになりましたが、大活躍して他チームに引き抜かれました。栃木(現・宇都宮)の遠藤祐亮選手は、Bリーグのベストディフェンダー賞を2度も受賞しています。3人とも栃木のサテライトチームの出身でした。

 リーグワンは1チーム約50人の選手が在籍してますが、シーズン中にメンバーの23人に入る選手は、毎年35人くらいです。残り15人はまったく試合に出ないでシーズンが終わってしまう。だからラグビーこそ、サテライトチームを活用すべきだと思います。特にわれわれはヤマハ時代から選手の育成が得意です。
 いまは海外出身選手も増えていて、優秀な選手でもリーグワンのチームに入団できない日本人選手もいます。それでも諦めないで上を目指したいと思った時に、サテライトチームであれば努力して力をつければすぐに目に止まります。チャンスを掴む選手が必ず出てくる。大卒でリーグワンのチームに入れなくて、もう下のレベルでやろうと考えてしまうと、なかなかそうはなりません。

 サテライトチームなりに小さなスタジアムでも興行ができたらと思っています。プロ野球のイースタンリーグのように、2軍を応援したいファンもいます。2軍時代から見ていた選手が1軍の試合に出るとなれば、すごく愛着も湧きますよね。そういう選手が1軍の試合に出るとわーっと拍手が起こる。そうした雰囲気を作れたらいいなと。ラグビー界の選手育成の新たな発想を考えていけたらなと思っています。

 ただ、ここまでの話は完全に妄想です(笑)。それでも話してみると、いいねとか、この企業がスポンサーしてくれるんじゃない?とか、いろんな反応をもらえる。妄想から構想に変えることを、これから頑張ってやっていこうと思っています。



PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)