オールブラックスがやって来た。青空の下の緑の芝で、日本の子どもと楕円球をつないだ。
10月29日に東京・国立競技場で日本代表と戦うオールブラックスことニュージーランド代表は、23日、大正製薬主催のもとラグビークリニックに現われる。
前夜に来日したばかりだった8選手が千葉・アークス浦安パークに集まり、浦安ラグビースクール、柏ラグビースクールからやって来た小中学生、約110人と触れ合う。
参加者は4つのグループにわかれ、元日本代表の廣瀬俊朗さんら日本人コーチの指導でキャッチ&パス、2対1、キック、タッチフットを実施。こちらへ2人1組となったオールブラックス戦士がローテーションして周り、汗を流した。
ここで丁寧な指導を繰り返していたのが、CTBのアントン・レイナートブラウンだった。
手にした球を蹴る際の動作について「ボールを足元へ落とす時は、なるべく足の近くにする。これで、より正確なキックを毎回、蹴られるようになる」。タックラーをひきつけてパスをする動きに触れては、「サポートについている人(パスの受け手)がもっと(立ち位置や欲しい球の種類について)しゃべらないと」。簡潔な技術指導を重ねた。
レイナートブラウンは大けがで戦列を離れ、地方代表選手権へ出るワイカト代表の指導にもあたったことがある。基本技術にまつわるアドバイスが適切なのは、自らの感覚を言葉にする作業を積み重ねてきたからなのだろう。
冗談を交えて言う。
「ちょうど故障から回復している途中、ワイカトでコーチングをしました。その意味で、(若い選手への)指導の経験があると言えます。また、(ちょうど隣に立っていた)デイン・コールズ選手にもいろいろと教えています!」
出席者で中学2年の中山大翔さんは、「チームで練習していることを発揮したかったけど、オールブラックスを前に緊張して…」。苦笑いを浮かべながら、楽しめた様子だ。
所属する浦安ラグビースクールでは、元NTTコミュニケーションズシャイニングアークス主将で父の浩司さんの指導を受けている。
今回、レイナートブラウンにキックの助言を受け、日頃の取り組みが間違っていないと再確認できた。
「ボールの落とす位置を下(足に近い位置)にしたら、(弾道が)真っすぐになると。いつも父親から聞いていることと一緒だなって」
パス回しの最中、アーディー・サヴェア選手がバックフリップパスを交えてくれたのもいい思い出になった。この日の学びをまとめた。
「オールブラックスの選手は皆、同じことを言っていました。『練習を積み重ねて努力しないと、うまくはならない』。トップの選手にそう言ってもらうと、改めて実感できました」
千葉の少年、少女のヒーローになったニュージーランド代表は、7月の対アイルランド代表3連戦は1勝2敗。さらに直近のラグビーチャンピオンシップでも、優勝こそしたものの大勝と完敗を繰り返した。初めてホームでアルゼンチン代表に負けた。
ワールドカップ3度優勝の伝統国は、不本意な季節を過ごしてきた。
29日の日本代表戦へ、レイナートブラウンは気を引き締める。
「日本代表をリスペクトしています。毎年、毎年、強くなっている。我々はまず、自分たちのプレーにしっかり集中する。この(ニュージーランド代表の)ジャージィを着るからには、ベストを尽くす」