女子ワールドカップの開幕戦の南アフリカ×フランスで試合開始から1分45秒、南アフリカ22メートルのモールからボールを持ち出しディフェンスのギャップを素早くすり抜け大会第1号のトライを決めたのはレ・ブルーのSHロール・サンシュス(28歳、31キャップ)だ。
サンシュスは、157センチと小柄ながら、SHとしての非凡な才能と勘の良さ、キレのあるプレーなどから男子フランス代表SHのアントワンヌ・デュポンとよく比べられる。
所属クラブもデュポンと同じトゥールーズで、トゥールーズの男子プロチームのユーゴ・モラ ヘッドコーチがサンシュスのことを「女子代表チームのアントワンヌ・デュポンだ。彼女の才能がチームのパフォーマンスに大きな影響を与えている」と言ったほどである。
サンシュスの最初のトライに続いてフランスは17分までに2トライ取った。
しかしその後、アグレッシブでフィジカルの強い南アフリカに押されてミスを繰り返し、南アフリカの選手がシンビンで1人欠けている時間帯でも得点できず、逆に得点を許してしまう。
66分に南アフリカゴール前ペナルティから素早くプレーしたサンシュスがゴールに切り込みトライを決めた。
ようやく体制を立て直したフランスはさらに2トライを加えて勝利した(40-5)。
「試合には勝った、ボーナスポイントも獲れた。でも内容はまだ満足できるものではない」と試合後のインタビューでサンシュスは語った。
サンシュスの家族はラグビー一家である。
父親がコーチをしているラグビースクールで兄が練習しているのを見て育ち、サンシュス自身は4歳から男子に混じって楕円球を追いかけた。
「男子の中で体格でも力でも不利な状況の中でやっていたから、常に戦うしかなかった」と彼女のタフな闘争心の秘密について打ち明ける。
2014年に所属していたアヴニール・フォンソルベ・女子ラグビー・クラブが、6年計画で女子チームを育てようとしていたスタッド・トゥールーザンと合併し、それ以来トゥールーズの赤と黒のジャージーでプレーしている。
サンシュスが20歳の時だった。
フランス代表が優勝した2016年のシックスネーションズで代表デビューを果たした。しかし、翌年ラグビーから離れることになる。
当時、サンシュスはデカトロン(スポーツ用品メーカー)で働いていた。
「他の人と同じ平凡な従業員だから代表チームに参加すると休暇はすぐになくなってしまう。お給料をもらうためにラグビーを中断しなくてはならなかった」
1年後、「クラブで楽しむために」とトゥールーズでプレーを再開したが、目覚ましいパフォーマンスを続けるサンシュスを代表チームは放ってはおかなかった。
ちょうどフランス協会では女子15人制代表選手のセミプロ化が進んでいた。サンシュスも恩恵を受け代表活動に打ち込めるようになった。しかし社会とのつながりは持ち続けたかった。
ラグビーと並行してスタッド・トゥルーザンのブティックの在庫管理の仕事をさせてもらえることになった。
アメリカ、カナダ、イングランド、NZ、フランスの5か国が参加した2019年のウィメンズラグビースーパーシリーズで代表復帰して以来、サンシュスの成長は止まらない。
今年のシックスネーションズでは大会を通じて6つのトライと6つのトライアシストを決め、どちらも大会最多で最優秀選手に選ばれた。フランスの女子選手では初めてのことだ。
ちなみに男子の最優秀選手はデュポンだった。
フランス国内で昨シーズンの女子の最優秀代表選手にも選ばれた。
こちらも男子はデュポンだった。クラブでもトゥールーズは女子1部リーグのエリート1で初優勝を達成した。
いま、ノリに乗っている。
しかしサンシュスはこのワールドカップを最後に現役を引退することを発表している。大会が1年延期されたためサンシュスも引退を1年延期していた。惜しむ声も多いが、「普通の生活に戻りたい。朝起きて、仕事に行って、夜は友人と食事に出かけたり…」とミディ・オランピック紙のインタビューで打ち明けている。
将来はコーチの仕事も視野に入れているが、当面はトゥールーズのブティックの在庫管理責任者として勤務することが決まっている。
そして来年の夏には代表チームでもトゥールーズでもチームメイトで、同じSHとしてライバルであり、また私生活のパートナーでもあるポリーヌ・ブルドンと結婚することも公表している。
今週末フランスはイングランドと対戦する。現在10連敗中の相手である。
今年のシックスネーションズでの敗戦後、「イングランドはチャンスがあれば必ず得点する、またこちらの痛いところを叩きに来る。イングランドに比べると私たちはソフト、チャンスを必ずしもものにできていない」と改善点を挙げていた。
また「今年は思うようにゲームが組み立てられていない」とも話していたサンシュス、プラグマティックなイングランドを相手にどんなゲームを展開してくれるのか期待したい。