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【新連載】プロクラブのすすめ① 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 「今季のプレシーズンを振り返る」

2022.10.11

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った静岡ブルーレヴズ。

 ヤマハ発動機ジュビロから名称を変えて2季目を迎えた同チームは、運営面、経営面でどのようなことをしてきたのか、またこれからどのようなことを仕掛けていくのか。これは「プロ化」を進める他チームにとっても有益な情報になるだろう。

 本連載企画では、代表である山谷拓志社長の考えや知見を深堀りしていく。今回は12月のリーグワン2022-23開幕まであと2か月と迫る中、半年以上のプレシーズンをどう過ごしているのかを中心に訊いた。(取材日9月27日)

――先日、台風の影響で静岡では大きな被害が出ました。クラブハウスやオフィスは大丈夫でしたか。

 あの日(25日)はわれわれもクリタと試合をしていて、後半くらいから雨が降り始めました。試合後には本当に強い雨になって、それが5、6時間続いた。警報も何度も鳴って、かなり深刻だなと。ただ、オフィスやグラウンドに被害はありませんでした。

――社長に就任された直後(昨年7月)にも熱海で土砂災害があり、その時は募金活動をおこなった。今回もレヴズとして動くことはあるのか。

 ちょうど議論していたところです。飲料水の提供、ボランティアスタッフの派遣…、どういうニーズがあるかを確認してます。地域のチームとして、力になれることはないかを探している状況です。
*以降、磐田市災害ボランティアへの参加やプレシーズンマッチでの募金活動、ボランティアの水分補給用にポカリスエットの提供などをおこなった

――10月になりました。山谷社長にとって、この時期に多い仕事は。

 社長とは言いながらも小さな所帯なので、いろんな重要案件に関わりますが、ひとつは売上でかなりの割合を占めるスポンサーセールスです。今年も高い目標(ヤマハ発動機を除いて5億円)を掲げているので、新規開拓をしていく中で私も商談に参加します。
 あとは経済同友会やロータリークラブといった経営者の集まる会合に、講演者として呼ばれることもあります。ありがたいことに、ブルーレヴズの話をしてくださいと言っていただける。地域の会社の経営者の方と接点を持てるのは非常にありがたいことです。
 チームの練習はなかなか行けてないですけど、(プレシーズンの)試合はいまのところ全部見ていて、チームの調子や新しい選手のパフォーマンスをチェックしたりもしてます。

――加えて、リーグとの会議もある。

 これは驚きなのですが、実行委員会と呼ばれるチームの代表者が集まる会議を”毎週”やってます。Bリーグのときは3か月に1回程度でした。
 それだけ課題が多いということなのかもしれませんが、思ったよりも決まらない印象です。肝心の中長期的な議論はなかなかできていませんし、直近のことでもコロナに関するレギュレーションをどうするのか議論できていない。もどかしさがありますね。

――リーグワン2022-23の日程が発表されました。

 来年がワールドカップイヤーなので、スケジュールが少し早まりましたね。Bリーグとリーグワンのファイナルが被ったことにも配慮した形のようです。
 ただ1点、僕がずっと訴えていたことがあって。レギュラーシーズンの最終節は4月23日(21〜23日)です。つまり、ゴールデンウィーク(GW)にホストゲームがない。集客を増やしましょうと言っているのに、興行的には書き入れ時のGWに試合がないのはありえません。ホスト&ビジターであっても、GWの最初と最後のどちらかで1試合は確実にホストゲームができるはず。なので、試合を入れてほしいとお願いはしたのですが…。

――カーディングについては。レヴズのホスト開幕戦は12月25日、埼玉ワイルドナイツと対戦です。

 カーディングは、僕らは何も要求できません。われわれはホスト開幕戦で前年度の優勝チームと戦える。ありがたいことです。去年も良い試合ができたので(IAIスタジアム日本平でロスタイムに25-26で逆転負け)、集客の呼び水になるし、チームとしても最初のホーム戦でチャンピオンを迎えられるのはモチベーションが上がると思います。

――12月25日はクリスマスですね。

 言ってしまうとアレですけど、去年は来場者プレゼントにポンチョを渡しましたが、今年はクリスマスにちなんだもので検討してます。ほかにもクリスマスツリーや合唱団、ゲストなどなど、どんなことができるか色々検討中です。

――長いオフシーズンも残り2か月となりました。昨季はチケットサイトの開発など、ゼロから始めることが多く、なかなか広告やプロモーションまで手が回らなかったと話してました。このオフシーズンはどう過ごせましたか。

 正直な話をすれば、ヤマハ発動機ジュビロから名前を変えたことで、静岡ブルーレヴズの知名度はまだまだ高くないです。なので多くの方に知ってもらうために、7月から8月にかけて3万本のうちわをひたすら配りました。
 試合時間が発表予定されれば(取材時点では未発表)、今度はポスターとチラシを配布できます。ロードサイド看板や地元の電車、バスの空いてる広告スペースに何か出せないか、なども計画中です。コストをかけずにできるプロモーションとは何かを色々と検討してます。

 あとは開幕の1か月前や1、2週間前には、せっかく近くに公園もあるので(移転した新オフィスの前に今之浦公園)、選手と触れ合えるイベントをやりたいと思ってます。シーズンも近づくので選手のコンディション的には厳しいけど、なんとかやらせてほしいとお願いしてます。

――今季は新シーズンのスローガンを出すのも早かったです。

 チーム自体が7月から新しいシーズンとして始まるわけなので、何も発表しないのはおかしいと。内部的にも、活動するのであればスローガンを決めておく必要があります。発表する前日か前々日には、選手・スタッフ全員をひとつの部屋に集めてスローガンや目標などを伝えました。

 対外的には早い段階で情報発信すれば、ファンの期待を高めることにもつながるし、グッズにも反映できるんです。グッズはシーズンが始まるまでは当然売り上げは伸びませんが、スローガンの「REV UP!」のロゴを入れたTシャツやタオルは(今年)限定もののグッズとして販売できるし、実際7月は結構売れました。それはバスケでもやってきたことで、早く情報を出したほうが色々動けるなと。
 選手のリリースに関しても、メディアからすればあの選手を取材してみよう、とか、ファンにとってもこの選手早く見たいとなってもらえますから。

――今季、経営者として特に意識していることはありますか。

 社員同士、社員と選手、社員とスタッフなど、クラブハウスとオフィスが別の場所にあってなかなか顔も合わせられないので、できるだけそこのコミュニケーションを深めることに今年はこだわってます。
 10月、11月には選手やスタッフ、社員が混じってディスカッションする機会も作ってます。社員同士についても、入社年度や役割が違うので、ヤマハ発動機時代のことを知らない社員も半分くらいいる。なので6月には1泊2日の研修をして、ヤマハ時代のことを勉強しました。それを踏まえた上で、ブルーレヴズらしさとはなにかを話し合ったりもしました。

 オフィスの移転についてもそういう経緯があります。前のオフィスは会議室が別の階にあって顔を合わせないことも多かった。いまは全員、同じフロアにいるので気軽に会話できる。会議の内容も自ずと耳に入ってくるので、それは協力できるよとツッコミを入れられたり、オープンなコミュニケーションにつながってるのを実感してます。

――新体制の会見では、昨季は広報を担当していた林優子さんの配置転換(今季からチームマネージャー)にも触れられてましたね。

 チーム側に事業部側の事情や考えを分かってもらえる人がいるのはすごく大きいです。もちろん、選手のコンディションが一番大事なのでそこを無視することはありませんが、このイベントに選手を出したいとなった時の調整は必要。林さんにはそこのつなぎ役を期待してます。

――開幕も近づき、プレシーズンマッチも始まってます。

 興行的な観点からすると、どれだけレギュラーシーズンのチケットセールスにつなげるかがすごく大事です。
 プレシーズンでは1試合単体で収益を得ることはあまり想定してません。本当は海外のチームを呼んで、そこでは収益を上げるような興行をしたいのですが、今年は叶わなかった。こちらは来年以降も検討を続けます。
 今年はプレシーズンマッチをきっかけにファンになってもらったり、ファンクラブ会員になってくれた方々の満足度を上げる。あとはスポンサーさんも呼んで支援しようかなと考えてもらえるきっかけになればいいなと。

 草薙の試合(11月19日vs横浜E)は入場を無料にしました(*無料のファンクラブ会員登録が必要)。有料試合か否かで使用料が1桁変わるという裏事情もありましたが、草薙は静岡の中部地区です。今季も開催予定の日本平でのホストゲームを見に行きたいと思ってもらったり、エコパやヤマハスタジアムにも足を運んでもらうきっかけにつながればと思います。

――ファンクラブについては、先日のプレシーズンマッチの際に初めてファンミーティングをおこないました。

 生の声を聞けるのは非常にありがたいです。今年からファンクラブは五郎丸くん(CRO)が責任者になりました。去年は集客のスタッフのひとりでしたが、今年はファンクラブの責任者として、どうやって会員を集めるか、どうしたら満足してもらえるか、などを頑張って考えてくれてます。
 ファンミーティングについても五郎丸くんの提案で、彼が仕切ってやりました。ファンの要望にすべて応えられるわけではありませんが、耳を傾けている姿勢を見せることも大事です。ひとりから言われたことが確かにそうだなと、変わることもあります。
 この前は自由席を作ってほしいという要望がありました。われわれとしては、どうしても単価が安くなったり、来場者数が読めなかったりするので、やめようと思っていたのですが、反映しました。
 最初、自分の席だけ取っていたけど、あとから友だちも行くことになって追加で取ろうとしても指定だと隣になれないことがありますよね。どうしてもその日にならないと人数が確定できないという団体さんもいます。それで復活させました。

――ありがとうございます。時間になりましたので、今回はこのあたりで。

 僕は時間があるときは経営者として来年、再来年どうするかも考えてます。W杯開催時、終わった時どうするか、どういうことが起きるのか、そこでどういう投資ができるか。ラグビー界を見てると、W杯以降の選手(獲得)の動きはかなり顕著です。

――それでは次回は少し先のこともうかがいます。よろしくお願いします。


PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)