トゥーロンが止まらない。
2月5日のホームでカストル戦に敗れ最下位になった。当時キャプテン代行を務めていたSHバティスト・セランが試合後の円陣で「頼むからもう少し闘争心を出してくれ! サバイバルモードに入ったんだ!」とチームメイトに訴えていた。
その訴えが心に響いたのか、翌週は当時首位だったボルドーに勝利した。負傷していた選手も徐々に復帰し、少しずつ体制が整ってきた。そしてようやく彼が帰ってきた。
昨季の最終戦で膝靱帯を負傷した、フランス代表のキャプテンでもあるFLシャルル・オリボン(28歳)が、3月12日のモンペリエ戦で9か月ぶりにピッチに戻ってきた。この試合は16-18で敗れはしたが、チームが大きく変わるきっかけになった。
「終盤、自陣ゴール前に追い詰められ、ひたすらゴールを守った。FWが素晴らしい働きをして守りきりペナルティーを獲得した。この時僕はもうベンチだったけど、ベンチのメンバーも夢中で我を忘れて熱くなるほど一緒に戦っていた。この日まで僕たちは笑い物だったけど、この日は首位のチームを相手にタフに戦うことができた。途轍もないエネルギーを感じた。僕たちは落ちこぼれじゃないということがわかってみんな安心し自信が生まれた。チームが分裂していると言われていたけど、この日はとても強く団結しているのを感じた」とオリボンは語る。
その翌週からトゥーロンの連勝は止まらない。ラ・ロシェル、クレルモン、リヨン、トゥールーズ、ボルドーと次々と上位のチームに勝利し、現在トップ14で8位、残る2節の上位チームの成績次第でプレーオフ進出を意味する上位6位に入ることも可能なところまで順位を上げた。2か月前は誰も予想していなかった。
「チームの成功は1人の選手によって作られるものではない。チーム全体を推し進めてくれる力が生まれ、全員がその力を感じて参加している時にチームは成功に向かうことができる」というのがオリボンのセオリーだ。今のトゥーロンには一体感が感じられる。ボールが次々とつながる。味方のために身を投じてディフェンスする。
先週末はロンドンアイリッシュに勝利し、欧州チャレンジカップ準決勝進出を決めた。この試合でオリボンはディフェンスで奮闘し、ラインアウトでは敵のボールをスチールし、60分には試合の勝敗を決定づけるトライも決め、またキャプテンとしてチームをリードし、完全復活を感じさせた。MOMに選ばれた。
「負傷で昨年のNZ戦、そして今年のシックスネーションズ優勝に参加できなくて満たされない気持ちだったか」とレキップ紙の問いに、「怪我したことが原因で自分が満たされないとは思わない。怪我したことでさらに強くなれたから。これらの怪我も僕の一部であり、僕の歴史、歩んできた道のりの一部分だ」と答える。
オリボンは2017年に左肩甲骨を骨折した。フランス中探して手術してくれる外科医を見つけた。1年後に復帰したが、1か月ほどで練習中に同じ左肩甲骨を再び骨折した。
「もうラグビー人生は終わりではという声があちこちから聞こえた。でも、その後にはもっと素晴らしいことが待っていた」
再び手術とリハビリを乗り越え、2019年3月に復帰、その後のパフォーマンスでフランス代表ワールドカップ補欠候補に選ばれ、最終的に代表メンバーに入り、「ワールドカップ日本大会で素晴らしい経験をした」と言う。
準決勝のウエールズ戦でインゴールに飛び込みトライを決める姿は蘇った不死鳥のように映った。
その不屈の精神を評価され翌年のシックスネーションズでは代表キャプテンに任命され、初戦のイングランド戦では2トライを決め、新生フランス代表を名実ともに牽引した。
この夏の日本戦での代表復帰が期待されているが、「物事には順序があり、代表にはクラブで優れたパフォーマンスができていないと選ばれない。この夏に日本ツアーがあることはわかっている。でもその前にトゥーロンでの決勝ステージがある」と目の前の試合に集中する。
トゥーロンは今週の土曜日にイングランド代表選手が居並ぶ強豪サラセンズと準決勝を戦う。
サラセンズは金曜日にグロスターに44-15と圧勝している。それに対してトゥーロンの準々決勝は2日遅れの日曜日だった。
「リカバリーに48時間遅れをとっている。泣き言を言うつもりはないが公平とは言えない。メンタル面でもリフレッシュが必要。ちゃんとした練習は1回しかできない」と言うのはフランク・アゼマHCだ。
トゥーロンは1月30日から1週も休みなく15連戦してきて疲労が蓄積していることが懸念される。
「もちろんリカバリーは重要だけど、今チーム内にはポジティブな推進力が生まれている。このエネルギーとマインドセットで次も戦う」とオリボンは言う。
不屈の精神でホームのスタッド・マヨールにサラセンズを迎え撃つトゥーロン。サポーターも一丸となり、熱く激しい戦いが期待される。