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今季限りで引退するフランソワ・トランデュック[ボルドー]の価値。

2022.05.04

フランス代表時のフランソワ・トランデュック。(Getty Images)



 フランスのラグビージャーナリストがトーク番組で、フランス代表SOのロマン・ンタマックとマチュー・ジャリベールを比較していた。

「ジャリベールはよりクリエイティブで自らボールを持ってラインブレイクもできる。トランデュックのようだ」と1人が言うと、「でもトランデュックはディフェンスもできる。むしろンタマックの方がそこは近い」ともう1人が言う。

 そのフランソワ・トランデュック(ボルドー/35歳)が今季で引退する。
 2008年、当時の代表ヘッドコーチに着任したばかりのマーク・リエーヴルモンはレ・ブルーの10番に21歳のトランデュックを抜擢した。若く才能ある新しい代表の10番はフランスのラグビーファンの期待を一身に背負った。

「今も印象に残っている試合は、トゥールーズでの南アフリカ戦(2009年 20-13で勝利)、ダニーデンでのNZ戦(2009年 27-22で勝利)、2010年のシックスネーションズ全勝優勝、2011年ワールドカップ(以下、W杯)」とトランデュックは振り返る。

 2010年のシックスネーションズでは、「フランソワ(トランデュック)は見事なゲームコントロールでチームをリードした」とリエーヴルモンHCから讃えられた。
 しかし2011年W杯ではプール予選の3試合目から10番のジャージーはSHのモルガン・パラに委ねられた。

 フィリップ・サンタンドレが2012年に代表HCに就任すると、再びトランデュックが10番に起用される。ゴルフコーチの指導のもとプレースキックにも取り組み、成功率80パーセントを越えるようになった。
 しかし負傷や自身の不調もあり代表に呼ばれたり呼ばれなかったりを繰り返す。それでも得たキャップ数は66。フランスの10番ではフレデリック・ミシャラク(77キャップ)に次いで多い。

 その間、クラブはモンペリエからトゥーロン、ラシン92と移籍し、今季はボルドーで現役最後のシーズンを送っている。

「かつての自分とはもう違う。思うようにラインブレイクもできない。メンタルコーチ、フィジカルコーチ、キックコーチ、トレーナーもつけてハードワークして、ようやく自分のスタンダードに戻せた。まるで怪我から復帰する時のようだった。しかもこれがずっと続く。さらに隣には素晴らしいパフォーマンスをしているマチュー(ジャリベール)がいて差は歴然だ」

「でもそれでいいんだ。今の自分にできることの中に自信を見つけたから。今は味方のCTBがグラウンドを走って活躍してくれるのがとても嬉しい。まるで僕の代わりに走ってくれているみたいに感じる」

 昨季のラシン92との契約を終了した時点で引退することを考えていた。
 しかしボルドーのクリストフ・ユリオスHCのマネージメントに興味を持った。「彼は選手のマインドセットを変えることができる。彼のマネージメントを近くで見るのは今後のキャリアのためにも学ぶところが多いと思い、最後にもう1年チャレンジしようと決めた」と言う。

 トランデュックは、マネージメントのマスターの学位を取得し、エンジニアの採用・派遣を行う事務所の共同経営に参加している。

 一方、ユリオスHCは「フランソワのような経験のあるSOが必要だった。チームにとっても、またマチュー(ジャリベール)が成長するためにも」とリクルートの動機を説明していたが、トランデュックは期待以上の働きをすることになる。

 ジャリベールが2月から太腿の肉離れで戦列を離脱していた2か月間、10番をつけ、落ち着いてゲームコントロールし、周囲を生かし、ドロップゴールで確実に得点してチームをリードした。
 代表のカメロン・ウォキを欠き、さらに主力が次々と負傷した最も苦しい時期だった。

「開幕前は『なぜトランデュック?』とよく言われたが、わかっただろ? フランソワはチームに落ち着きと自信を与えてくれる偉大な選手だ」とユリオスHCはご満悦だ。

 ボルドー移籍の理由はもうひとつある。
 モンペリエで共にプロデビューしたルイ・ピカモルが昨季後半からボルドーでプレーしていた。
「友であり、かつてのチームメイトの2人がボルドーで再び一緒にプレーしてキャリアを終えるなんて、いい話じゃないか」と言うユリオスHCの粋な計らいだ。

 4月24日、古巣のモンペリエでの最後の試合、大勢のファンの拍手に迎えられ、トランデュックはピカモルと一緒に他の選手より先に入場し、80分プレーした。
 モンペリエで共にプロデビューしたフルジャンス・ウエドラオゴも出場していた。彼らをデビュー当時から応援してきたファンにとっても特別な試合になった。23-22でボルドーが勝利した。

 試合を終えたトランデュックは、「試合中感情を抑えようとしていたが難しかった。ルイ(ピカモル)と一緒にモンペリエでの最後の試合、しかも勝利で飾れた。感無量だ。このシーズンはとても幸せでボーナスのようなもの。グラウンドの中でも外でも一瞬一瞬を大切に生きたい」と感激を抑えられない様子でインタビューに答えた。

 7月30日には、トランデュック、ピカモル、ウエドラオゴの引退試合が企画されている。3人がプロデビューした当時のモンペリエが使っていたスタジアムが舞台だ。
 この試合の収益は慈善団体に寄付されることが発表されている。

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