第4節を終えて4勝のフランスを追う1敗同士の両チームの戦いは、32-15でアイルランドがイングランドを下した。
アイルランドは4トライを挙げてボーナスポイントを獲得。優勝への望みをつないだ。
試合は波乱の幕開けとなった。
開始82秒、イングランドLOチャーリー・ユールズのアイルランドLOジェームズ・ライアンへのタックルがレッドカード相当とジャッジされたのだ。
腰の高い体勢でタックルにいったイールズの頭がライアンの顔面を直撃。ノックアウトされたライアンは負傷退場となり、イアン・ヘンダーソンが交代でイン。イングランドはこの一発のタックルで、試合のほとんどを14人で戦うことになった。
この機会にジョニー・セクストン(SO)がペナルティゴールを決めたアイルランドは、5分には中盤での見事な繋ぎからジェームズ・ロウ(WTB)が走り切り、あっという間に8-0とリードを奪った。
しかし8万人を超える大観衆を迎えたトゥイッケナムで戦うイングランドは、苦しい状況でも勝つための手段を探り続けた。
この日はFLで出場していたキャプテンのコートニー・ロウズがスクラムではイールズが抜けたLOに入り、FLの位置にWTBのジャック・ノエルが入る。
エディー・ジョーンズ監督は、攻守ともに激しいコンタクトプレーだけでなく、ラックでも非常にいい仕事をするノエルを「FLで出場させても何の問題もない」と称えたこともある。
スクラムでのノエルの貢献がどれほどだったかは当事者たちしか分からない。
しかし、エリス・ゲンジとカイル・シンクラーのPRコンビはこの日、キアン・ヒーリー、タイグ・ファーロングのトイメンPRを押し続けた。
イングランドは、17分にスクラムでのペナルティからマーカス・スミス(SO)がPGを決めて反撃を始める。32分にもPGで得点を追加して2点差に迫った(8-6)。
この日の両チームはともに果敢にボールを動かす場面が多く、8万人を超えるトゥイッケナムの大観衆は大いに沸いた。
アイルランドは36分、イングランドゴール前のペナルティから速攻。ヒューゴ・キーナン(FB)がトライを奪った。セクストンのゴールも決まりふたたび差を広げた(15-6)。
イングランドも粘る。前半終了前にはスミスがPG成功。
15-9とアイルランドのリードでハーフタイムに入った。
後半も開始早々から激しい肉弾戦と、ボールが大きく動いた。満員の観衆は沸き続けた。
イングランドはゴール前で死に物狂いの激しいディフェンス。統率のとれたアイルランドの攻撃を耐え凌いだ。
14人の相手にチャンスをものにできないアイルランドは、フラストレーションを溜めた。
ピンチを凌ぐたび、イングランドは雄叫びをあげて喜んだ。
52分、60分とアイルランドのペナルティを確実に得点に繋げたイングランドは、15-15と同点に追いつく。スクラムを支配し続けるイングランドは、徹底的にアイルランドにプレッシャーをかけた。
数的優位で負けるわけにはいかないアイルランドは必死の攻撃を展開。65分にはPGでふたたびリードを奪う(18-15)。
72分には12フェーズを重ねた後のラックから素早く出たボールをジャック・コナン(FL)がトライ。ゴールも決まり、25-15と試合を仕留めにかかった。
76分にはフィンレイ・ビーラム(PR)がねじ込み、32-15で勝利を収めた(4トライでボーナスポイントも獲得)。
イングランドのロウズ主将は、「厳しい試合だったが、自分たちへの自信は捨てなかった。レッドカードで一人少なくなった瞬間、一人一人のエネルギーが上がった。スクラムでは、エリスとカイルが凄まじい仕事をしてくれた」とコメントした。
しかしその結果、イングランドの選手たちの疲労度は大きかった。終盤、攻守両面でミスが出た。
マン・オブ・ザ・マッチとなったアイルランドのジェイミソン・ギブソンパーク(SH)は冷静にこの日の試合を振り返った。
「ほっとした、というのが正直な感想だ。非常にカオスな試合だったが、そんな時こそ冷静になるべきだ。来週の結果がどうなるかは、今の時点では誰にも分からない」。
ここまで全勝のフランスを唯一の1敗チームとして追いかけるアイルランドには優勝の可能性が残っている。
開始早々から14人での戦いを強いられたイングランドのジョーンズ監督は、「誰でもミスはするものですし、チャールズの危険なタックルもただのミスです。ですが、このチームはまだ若いチームです。まだ10キャップにも満たない若手たちが厳しい状況におかれながも、戦術面でも精神面でも非常にいいものを見せてくれました。今日の試合は、彼らにとってテストマッチのいい勉強となったでしょう」と話した。
最終節へ優勝の望みを残したアイルランドのアンディ・ファレル監督は、「14人を相手に戦っている試合は、当然勝たなければならないというプレッシャーにさらされます。トゥイッケナムのサポーターたちの熱心な声援もあり、イングランドへ試合の流れが傾いた時間帯もありました。ですが、選手たちがしっかりとタスクをこなしていれば、勝てるのはわかっていました」と振り返った。
2022年のシックスネーションズは、優勝候補の筆頭であったフランスは唯一全勝で最終節を迎え、二番手とされていたアイルランドが順当に1敗でフランスを追いかける展開となった。
アイルランドは最終節でスコットランドをホームに迎え、イングランドはフランス戦のためスタッド・ドゥ・フランスへ乗り込む。
アイルランドがスコットランドを倒し、イングランドがフランスを破れば(フランスがボーナスポイントなしで負けると)、大会を通じて勝っても負けてもボーナスポイントを獲得し続けたアイルランドが優勝となる。
ファンの大歓声が戻ってきた大会の最終戦は3月19日(土)、20時キックオフ。パリでフィナーレを迎える。