「僕、パパみたいになれるかな?」
「不可能なことなんて何もないさ。ただ、そのためにはしなきゃいけないことがある。難しい時だってある」
「でも、僕なりたいんだ」
まだ幼かったロマン・ンタマックが、元フランス代表の父・エミールに初めてプロラグビー選手になりたいと打ち明けた時の会話だ。
「上達するには努力あるのみ」という父の教えを守り、子どもの頃から人一倍努力してきた。
「ある冬の土曜日、ラグビースクールの大会で朝7時半に家を出て、一日中真冬の寒さの中で子どもの試合を見て、家に帰ったのは夕方6時。息子にはテレビのアニメでも見せてこっちはソファーでくつろごうと思っていたら、『パパ、庭で練習したいんだけど』と言ってきた。『え? 今から?』と心の中では思ったけど息子に言われちゃイヤと言えない。庭に出て1時間、パスとキックの練習をしたよ」と父エミールはロマンの幼少期のエピソードを語る。
幼い頃から『10』に憧れてラグビーの試合を見てきた。中でもロマン少年のヒーローはダン・カーターだった。
「彼のようなプレーがしたくて、オールブラックスだけじゃなく、クルセイダーズの試合も全部見た。正確で、しかもいとも簡単にプレーする。グラウンドを駆け抜け、キックで狙い通りのところにボールを落とす。ディフェンスも上手い。最もコンプリートな選手。世界最強の選手ばかりを相手にあんなに簡単そうにプレーできるなんてあり得ない!」と言いながら父と夢中になって見ていた。
2019年のシックスネーションズで代表デビューした。代表2キャップ目、対イングランド戦で後半カミーユ・ロペスに代わって出場。44-8の大敗だったが、試合後イングランドのオーウェン・ファレルから「君は素晴らしいキャリアを築いていくことになる」と言葉をかけられた。
「とても嬉しかった。もっと努力しようと思った」
自身にとって4度目のシックスネーションとなる今回、「オーウェン・ファレル、ジョニー・セクストン(アイルランド)、ダン・ビガー(ウェールズ)と自分が同じフィールドに立っていることがいまだに現実と思えない。でも、彼らと対戦することで自分を彼らのレベルまで引き上げなくてはいけない。彼らのおかげで自分を超えることができる」と話す。
現地では「やっとフランス代表の10番が出てきた」と言われているが、「僕はそうは思わない。フランソワ・トランデュック、カミーユ・ロペス、そして2011年ワールドカップでSOに入ったモルガン・パラにとても憧れた。彼らはすごい才能を持っていて、何度もフランス代表を勝たせてきたことをみんな忘れている。代表チームには難しい時期だったけど、それをすべてその時代のSOの責任にするのは不公平だと思う」とは反論する。
トランデュックは2010年にシックスネーションズでグランドスラムを達成した。パラは2011年ワールドカップでファイナルに導いた。2019年日本大会のアルゼンチン戦でロペスのドロップゴールがなければ予選通過できていなかったかもしれない。
この若者は代表の『10』の歴史をしっかり見てきている。
また、冷静であまり感情を見せない。カーターとジョニー・ウィルキンソンから学んだ。
「彼らは常に冷静で苦戦している時もチームメイトに落ち着いて指示を出していた。『10』はチームに聞いてもらわなければいけないポジションなのに、怒鳴ったりしたら聞いてもらえなくなる」と言う。
目指しているのはコンプリートな『10』。
「状況が許せばイニシアチブをとり、劣勢の時間帯をうまく凌げるようゲームコントロールし、チームメイトを上手く生かし、ディフェンスは誰も通さない」
そんな『10』になりたいと言う。納得できる。
フランスでもオールブラックスの選手に憧れる少年が多かったが、最近はデュポン、ンタマックみたいになりたいと言う子どもたちも増えてきた。そんな子供たちの夢を背負っていることも、この22歳の青年は自覚している。
「良い選手である前に良い人であれ」と両親から教えられてきた。
素直に良い人に育っている。