スコットランドのフィン・ラッセルvsイングランドのマーカス・スミスという、ファンタジスタ型のSO対決が注目されたこの試合。イングランドはトライを含めてスミスが一人で17得点の活躍も、20-17でスコットランドがイングランドを下した。
大会第1節は常に大きな注目を集める。ましてや、伝統のカルカッタカップ(イングランド、スコットランド間にかかった最古のカップ)となればなおさらだ。
そのせいか、序盤はかたい立ち上がり。序盤、濡れた芝生の上ではキックの蹴り合いが繰り広げられた。
スコットランドのキャプテン、スチュアート・ホッグ(FB)は冷静。相手キックをキッチリと処理し、陣地を挽回した。
17分、スミスのPGでイングランド先制。しかしその後しばらくしてスコットランドが中盤からボールをつなぎ、最後はベン・ホワイト(SH)がトライを奪った。
スタメンのアリ・プライスが頭部を負傷。一旦ベンチに下がっている間に代表デビューを果たしたホワイトは、あっという間に結果を残した。ラッセルが冷静にゴールを決め、7-3とした。
追いかけるイングランドは、エディー・ジョーンズ監督が「新しい、イングランド」として掲げるスタイルの象徴とも言える、マックス・マリンズ(WTB)にボーを集めようとした。しかしキックの正確性を欠くなど、いつもの輝きを見せることができない。
普段のスミスは所属クラブのハーレクインズで、「伝家の宝刀」とも言える正確なキックでトライをアシストすることが多い。しかし、この日はキャッチャーとの間合いやタイミングが合わなかった。
33分にはPGで7-6とするも、イングランドはボールを持ってもスコットランドのディフェンスに締め付けられ続けた。
その後、ラッセルとスミスがPGを蹴り合った。
47分、10-9とイングランドがスコットランドに食い下がる。52分には、モールサイドから持ち出したベン・ヤングス(SH)とタイミングを合わせてSOスミスが走り込み、ディフェンスを切り裂く。そのままトライまで持ち込んだ。ゴールは外れるも14-10とイングランドが逆転。スミスは62分にもPGを決め17-10と差を広げた。
イングランドはスミスに変わりジョージ・フォードを投入し、試合を締めにかかった。しかし終盤に差し掛かる流れの中、スコットランドが反撃に出た。
ラッセルのキックを空中でダーシー・グラハム(スコットランドWTB)が取りに行く。そのとき、イングランドのHOルーク・コーワンディッキーが、意図的にボールをタッチラインの外に出す。ペナルティをとられた。
イエローカードだけでなく、認定トライまで与えてしまう結果となった。
皮肉なことに、コーワンディッキーはこのプレー時、お尻から地面に着地し、苦悶の表情を浮かべて倒れ込んだ。
メディカルスタッフの助けでようやく立ち上がり、レフリーの判定を聞いた時のさらなる痛さは想像に難くない。17-17の同点となった。
終盤間際に敵陣でペナルティを得たイングランドは、同点ではなくトライを狙う。しかし、マイボールラインアウトでボールを失ってしまった。
これに対し、イングランド陣にボールを進めたスコットランドはラッセルが冷静にPGを決た。20-17。スコットランドが、6万人を超える満員のマレーフィールドで、大会初戦を白星で終えた。
カルカッタカップの悪夢再び。
イングランドのジョーンズ監督は、「今日はスコットランドが上手くチャンスをモノにしました。後半にチャンスがありましたが、正確性を欠いてしまった。これでは勝てません。アウェーだとか、そういう問題ではありません」と渋い表情。
この日初めてイングランド代表のキャプテンを務めたトム・カリー(FL)は、「後半の反則が試合を壊してしまった。今日は初めてのキャプテンで、今週は感情的に非常に高まっていた。しかし、俺たちは勝つためにラグビーをやっている。悔しいが、今日は負けだ」と残念そうに話した。
スコットランドのホッグ主将は、「本当に嬉しいとしか言いようがない。イングランドは非常に手強い相手で、最後までもつれる厳しい試合だった。リードされたときはとにかく勝つことだけを考え、それを仲間に伝えて踏ん張った」と笑顔を浮かべた。
グレガー・タウンゼント監督は「正直言って緊張する場面の連続でしたが、冷静に状況を見続けました。選手たちにはいつも自分を信じろ、と言っています。フィットネスも、徹底的に鍛えています。とにかく、今日は応援に来てくれたファンのための日です。満員のマレーフィールドに来れば、なぜ皆がラグビーの試合を観に行くのかがよく分かるでしょう」と、ファンの声援に感謝した。
今年のシックスネーションズはグランドスラム(全勝優勝)が生まれない接戦となる見込みで、最終節までもつれる展開が予想される。
満員の観衆がスタジアムに戻ってきた2022年大会は、熱い興奮に包まれ続けるだろう。