11月13日におこなわれるニュージーランド代表戦は、５万席を超えるアビバスタジアムの前売り券が既に売り切れた。
これに対し、この日（11月6日）の日本代表戦の観客数は約４万人弱。日本代表のプレースタイルが観客を魅了する展開ラグビーとはいえ、オールブラックス戦に比べれば興行としての魅力がやや落ちる、というのはアイルランドのラグビーファンたちの正直な気持ちなのだろう。
「とにかく悔しいです。本当に、泣きたいほどに悔しいです」
5-60という大敗後、姫野和樹（NO８）は言葉を絞り出した。
この試合が10度目のテストマッチ（他に1985年にアイルランドXVとしての2試合あり）となる両国の通算成績は日本の１勝に対してアイルランドの９勝。55点差という点差は、2000年にダブリンで行われた試合での9-78という結果に次ぐ大敗だった。
「スコアを見ると攻撃が上手くいった試合に見えるかもしれませんが、今日は日本を１トライに抑えられたディフェンスが大きな収穫です」
試合後、アイルランドのアンディ・ファレル監督は快勝を振り返った。
この日、記念すべき100キャップ目を獲得したキャプテンのジョナサン・セクストン（SO）は、アイルランドのライン攻撃を自由自在に操った。
そのセクストンは48分には自らトライも決め、スタジアムの観衆は総立ちで拍手を送った。
前日の雨天の予報に反し、ときおり晴れ間ものぞく穏やかな気候のなか、アイルランドのサポーターたちはギネスを片手に試合を大いに楽しんだ。60分に後継者とされるジョイ・カーベリーとの交代のためにグラウンドを去ったときには、観衆から再び大きな拍手が送られた。
58分には姫野のラインブレイクからシオサイア・フィフィタ（WTB）のトライで一矢報いた日本だったが、この日はとにかくアイルランドが暴れ回った。
アンドリュー・コンウェイ（WTB）は自身２度目となるテストマッチでのハットトリックを記録し、開始早々に先制トライを挙げたジェームズ・ロウ（WTB）は、攻守ともに高いワークレートを見せた。
唯一、現在のアイルランド代表チームが抱える懸念点は、現在36歳ながら絶対的な司令塔であるセクストンと、二番手以降のSOの実力差がまだまだ大きいという問題だ。
この日、後半から出場したカーベリーをはじめとし、ある程度のテストマッチの経験を持つ若手SOもいることはいる。だが、セクストンは試合に出れば安定して好パフォーマンスを見せ続ける。次点以降のSOがどうしても見劣りしてしまう。
2023年のワールドカップでは38歳となるセクストンがいつまでも絶対的なエースとして君臨し続けるチーム状態には地元のメディアも懸念を見せる。
ファレル監督は、「テストマッチは常に勝たねばならない。そのためには最高の選手を出場させるのは当然です」と言う。
基本的に国内の３つのクラブから代表選手を選んでいるアイルランドは、潤沢な選手層の中から代表を選出している国ではない。
この日の試合もスタメンのうち12人がレンスターの所属で、選手同士のコミュニケーションがとりやすいという長所もあるが、一つのクラブが不調に陥るだけで代表チームに大きなインパクトが及ぶという危険性も抱える。
そんなアイルランドだが、この試合では日本を相手に大きな弾みをつけ、来週のオールブラックス戦へと向かう。
日本のサポーターにとっては厳しい現実だが、アイルランドは2019年の敗戦を、「単なる不覚」としか考えていないのかもしれない。