層の厚さに磨きをかけるオールブラックス
ライバルは似た者同士である。
ニュージーランドとオーストラリアはタスマン海峡を挟んで向かい合っており、ともに英連邦王国のひとつ。地球規模ではご近所同士と言え、国家の成り立ち方も似ている。
その関係性による因縁は、ラグビーの代表戦で顕在化する。1931年からの直接対決はブレディスローカップと呼ばれ、両国、開戦当時のニュージーランド総督ブレディスロー卿にちなんだ杯を奪い合っている。4年に1度のワールドカップが始まったのが1987年だから、ブレディスローカップの年輪の深さがわかる。
このバトルはもともと不定期開催も、1982年以降は年に1度のペースで1〜4試合ずつ、実施される。2021年は8月7日に初戦があり、続く14、28日の2、3戦目は南半球強豪国のリーグ戦にあたるザ・ラグビーチャンピオンシップ(TRC)の試合も兼ねる。これと同様の形式が、長らく続いている。
2023年のワールドカップフランス大会まで、あと2年。いまはどちらも現有戦力の見極め、新戦力の引き上げに注力していよう。オールブラックスことニュージーランド代表も、ワラビーズことオーストラリア代表も、2019年の日本大会ではそれぞれ3位、8強入りと結果には満足していまい。頂点に立つのに必要なプロセスを踏みたい。
しかし決戦当日となれば、視野に入るのは目の前の勝負、目の前の憎き相手に限られる。
何度も世界ランク1位に立ってきたオールブラックスは、2020年秋、ブレディスローカップの18季連続防衛に成功。その折のザ・ラグビーチャンピオンシップでも、挑戦者にあたるアルゼンチン代表に土をつけられながらも最後は優勝している。
今春のテストマッチでも、選手を頻繁に入れ替えながらトンガ代表、フィジー代表との計3戦を制した。連覇で頂点に輝いた2015年イングランド大会以来、4度目となるワールドカップ優勝に向け、選手層の厚みを示す。今度の決戦では、ここまでのタフな争いを制した面子が黒いジャージーを着るだろう。
サム・ケイン主将が下働きで際立つフォワード第3列には、日本の姫野和樹とハイランダーズで切磋琢磨してきた新星のシャノン・フリゼル、破壊力と勤勉さを兼備するホスキンス・ソトゥトゥらが名乗りを上げる。
新旧対決は、攻めの起点たるスクラムハーフでも起こりそう。突破力とパスで際立つ常連のアーロン・スミスに、ブラッド・ウェーバー、代表デビューしたてのフィンレイ・クリスティが球さばきの速さで追随する(初戦はアーロン・スミスの100キャップ目となるゲーム。リザーブには、ブラッド・ウェーバーがピックアップされた)。
司令塔のスタンドオフ争いでも火花は散る。日本大会で主戦級のリッチー・モウンガへ、フルバック兼務のボーデン・バレットが挑む。
バレットは先日まで日本のサントリーへ在籍。2020年の国内トップリーでは、スタンドオフとして経験値を積んできている。
主軸を固め戴冠狙うワラビーズ
この国に縁があるのはワラビーズも同じだ。
主将でボールハンターのマイケル・フーパーは前トヨタ自動車で、大きくて速いウイングのマリカ・コロインベテは今季から埼玉ワイルドナイツへ加わる。
ワラビーズ自体は最近こそ、若手主体のフランス代表に僅差で2勝1敗とやや苦戦している。ただしその間、フーパーやコロインベテ、防御を引き寄せてパスができるセンターのマット・トゥームアなど、多くの主軸候補が固定されてきた。右プロップのタニエラ・トゥポウら、問答無用の突進役も興味をひく。
似た顔ぶれで共有した成功体験は、今度のブレディスローカップで「底力」となるかもしれない。ゴールドジャージーをまとったワラビーズはまず、下馬評で有利のオールブラックスから快適さを奪いたい。その向こう側にこそ、1999年以来3度目となるワールドカップ制覇への道が見える。
一定の組織性を保ちながら個々が生き生きと動くオールブラックスの攻めに、ワラビーズがいかなる質の防御を繰り出すか。
世界屈指の飛び道具も利するワラビーズの波を、オールブラックスがどんな防波堤で対処するか。 世紀をまたいで続く好敵手物語の最新版。是非とも注視してほしい。
『ラグビー伝統の戦い ブレディスローカップ』
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