南アフリカAとの前哨戦はお互いに収穫多し。思わぬ場外戦も
新型コロナウイルス感染対策のためさまざまな制約を受ける中でチーム強化を進めてきた今回のB&Iライオンズにとって、テストマッチ前の最大の難関となったのは7月14日の南アフリカA戦だ。もともと南アフリカチームは46人の代表スコッドの中からこの試合の出場メンバーを選ぶ意向を表明していたが、数少ない実戦機会になるはずだった7月9日のジョージアとのテストマッチがコロナの影響でキャンセルになったこともあって、FLピーター=ステフ・デュトイやSHファフ・デクラーク、WTBチェズリン・コルビら実に16人もの2019年ワールドカップ優勝メンバーを起用。“A”と呼ぶには豪華すぎる布陣で前哨戦を行った。
『第4のテストマッチ』ともいわれたこの試合では、南アフリカAが2019年ワールドカップを彷彿させる力強い攻守でプレッシャーをかけ、前半17-3と大きくリードを奪う。しかしB&Iライオンズも規律の乱れで相手に2人の一時退場者が出たところから流れを引き寄せ、後半3分のPRウィン・ジョーンズ(ウエールズ)のトライと同10分のSOオーウェン・ファレル(イングランド)のPGで4点差に。その後はスコアが動かず17-13でフルタイムを迎えたが、南アフリカ、B&Iライオンズのいずれにとっても、たくさんの収穫を手にする一戦となった。
B&Iライオンズにすれば、世界一と評される南アフリカの強靭なフィジカルにいかにして対抗するかがテストマッチの最大のテーマであり、相手の圧力を実際に体感したことで、よりゲームプランがクリアなったのは確かだろう。同じく重要なポイントであるスクラムでも互角以上に渡り合い、ガットランド監督は「これこそが我々の望んでいた試合だ。テストマッチに向けて、ここからの時間ですべきことが明確になった」と、敗戦にも十分な手応えを口にしている。
一方、2019年のワールドカップ以降1年8か月もの間テストマッチから遠ざかり、ゲームタイムが大きく不足している南アフリカも、この一戦で得たものは多かったはずだ。SHデクラーク 、SOモルネ・ステインのキックから看板の大型FWを前に出し、猛然と体を当てて相手の攻め手を封じるおなじみの戦法は、B&Iライオンズを前半沈黙させるほどのインパクトがあった。チームの生命線であるディフェンスのシステムも安定感があり、長く実戦から離れていた不安をまったく感じさせなかった。選手やスタッフ陣は、自分たちのスタイルが依然として世界トップレベルにあると自信を深めたのではないか。
なおこの試合から3日後の17日のゲームを巡っては、B&Iライオンズとスプリングボクスの間で興味深いやりとりがあった。スプリングボクスのディレクター・オブラグビーを務めるラシー・エラスマス(2019年ワールドカップ時の優勝監督)が、対戦相手をストーマーズから南アフリカAに変更することをB&Iライオンズ側に提案。しかしガットランド監督はただちにそれを拒否し、予定通りストーマーズとゲームを行った(結果はB&Iライオンズが49-3で勝利)。
エラスマスの主張は、「我々(南アフリカ代表)もB&Iライオンズも厳密に外部から隔離されており、南アフリカAに変更することが、新型コロナウイルスの脅威に対するもっとも安全な方法だ」というものだった。一方でその裏には、不十分なプレータイムを少しでも補い、B&Iライオンズの情報をできるかぎり収集したいという思惑も見え隠れする。B&Iライオンズ側にしてみれば2週間で5試合を戦うタイトな日程をふまえてスコッド37人のローテーションをプランニングしてきており、手の内が明らかになるリスクも考慮すれば、提案を拒むのは当然といっていい。予定外のところから急遽浮上したビッグマッチが実現することはなかったが、逆にこうした場外戦を通じて、24日の第1テストの楽しみがふくらんだのは確かだ。
第3列はサイズか、仕事量か。HB団の組み合わせでゲームプランが浮かび上がる
B&Iライオンズは14日の南アフリカA戦と17日のストーマーズ戦で先発をすべて入れ替え、24日の第1テストに起用する23人のメンバーの最後の見極めを行った。現時点でセレクションの対象外となっているのは、アキレス腱を痛めたSOフィン・ラッセルひとりだけ。圧倒的なサイズとパワーを誇るスプリングボクスに対し、あくまで同じ土俵で真っ向勝負を挑むのか、それとも別の強みで仕掛けに行くのか。「選考の最終段階に入った」と語るガットランド監督の決断が注目される。
中でも話題となっているのが、FWのフロントローとバックロー、HB団の人選だ。フロントローではHOジェイミー・ジョージ(イングランド)がシャークスとの第2戦(7月10日)でゲームキャプテンを務める一方、イングランドのチームメイトのルーク・カウワン=ディッキーがストーマーズ戦でマン・オブ・ザ・マッチに選出される活躍を見せた。いずれも安定感あるセットプレーに加えフィールドプレーでも非凡な機動力とスキルを有するワールドクラスの選手で、経験では2017年のニュージーランド遠征でも3テストに出場しているジョージに分があるが、対スプリングボクス戦で焦点となるブレイクダウンのバトルに関してはカウワン=ディッキーのインパクトも大きな魅力を感じさせる。両脇を支えるPR陣との連携も含めて、重要な選択になるだろう。
バックローについては、2019年の世界最優秀選手に輝いたFLピーター=ステフ・デュトイ(200cm、119kg)を筆頭にビッグマンが並ぶスプリングボクスFWの推進力に、いかに対抗するかという点がポイントになる。ジャパン戦を含めたここまでの6戦では、タイグ・バーン(アイルランド、198cm)、コートニー・ロウズ(イングランド、201cm)とLOもできる大型選手を4試合でブラインドサイドFLに起用し、残る2試合ではジョシュ・ナヴィディ(ウエールズ、185cm)、トム・カリー(イングランド、185cm)という小柄ながらワークレートと機動力が武器の2人を両FLに配する布陣を組んだ。サイズを重視するのか、それとも仕事量にプライオリティを置くのか、試合の趨勢を左右する大きなポイントになりそうだ。
HB団はSOにケガ人が続出し心配されたが、急遽招集された22歳のマーカス・スミス(イングランド)がストーマーズ戦で好パフォーマンスを披露し、南アフリカA戦で直前になって先発を回避したダン・ビガー(ウェールズ)も順調に回復。CTBもできるオーウェン・ファレルを合わせた3人からのチョイスとなる。SHは負傷で離脱したLOアラン=ウィン・ジョーンズ(ウエールズ、現在はチームに復帰)に代わってツアー主将に指名されたコナー・マリーが本命だったが、ここにきてアリ・プライス(スコットランド)がスピーディーな球さばきと強気の仕掛けで評価を高めている。マリーならキックを軸にした堅い試合運び、プライスなら積極的にボールを動かすゲームを志向することが予想され、ゲームメイクの安定感が持ち味のビガー、大型FWを押し返すディフェンス力を誇るファレル、アタックの爆発力なら一番のスミスという3人のSOをどう組み合わせるかによって、B&Iライオンズのゲームプランの輪郭が明らかになるだろう。
頑健なスタイルでねじ伏せにかかるスプリングボクス。2021年最大のビッグマッチは見どころ満載
一方のスプリングボクスはジャック・ニーナバーヘッドコーチを筆頭に複数の選手およびスタッフに新型コロナウイルスの陽性者が確認され、一定期間の隔離措置がとられたが、今週月曜日からすべてのメンバーが復帰した。実戦機会は7月2日のジョージア戦と南アフリカAとして戦った7月14日のゲーム、そして急遽組まれた7月17日のブルズ戦(B&Iライオンズ対ストーマーズ戦とダブルヘッダーで開催。14-17で敗戦)の3回のみで、決してチームとしての準備期間が十分とはいえないものの、14日の試合では2019年ワールドカップ時を彷彿させる迫力満点のプレーを展開。感染者にも目立った後遺症はなく、そのひとりであるSOハンドレ・ポラードは、「テストマッチへの準備はしっかりできている」と自信をにじませる。
ワールドカップの優勝キャプテンであるFLシヤ・コリシは復帰プロトコルに沿ってプレー可能かどうかが判断され、現時点では24日の第1テストに出場できるかどうかは微妙な状況。もし欠場となった場合は、SOポラードか南アフリカAでキャプテンを務めたCTBルカンヨ・アム、あるいはLOエベン・エツベスが代役を務めると予想されている。他にも経験豊富でリーダーシップをとれる選手が各ポジションにそろっているだけに、この点についても不安はほとんどないだろう。
今週に入り、2011年のワールドカップで南アフリカを率いたピーター・デヴィリアーズ元監督が現在のスプリングボクスのプレースタイルを「非常に退屈」と評する記事が報道されたが、ポラードは「自分にとっては世界でもっとも美しいもののひとつだ」と一蹴。現在のチームは自分たちの強みを最大限に生かす方法を熟知しており、その戦い方で世界王者のタイトルも獲得している。B&Iライオンズとのテストシリーズでも、頑健なスタイルを前面に押し出して相手をねじ伏せにかかるのは間違いない。
際立つフィジカルをベースに築き上げられたスプリングボクスの堅牢な組織ディフェンスに対し、北半球を代表するB&Iライオンズの俊英たちがどのようなラグビーで挑むのか。その結果は、2023年のワールドカップフランス大会に向けた今後の世界の流れを左右する重要な意味も持つ。2021年のラグビー界最大のビッグマッチを、存分に堪能したい。
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