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欧州4強激突へ… 英国型変異ウイルスの影響受けるボルドー、トゥールーズはけが人続出。

2021.04.29

マスク姿で試合会場に入るボルドーのジェフェルソン・ポワロ主将(Photo: Getty Images)


「一寸先は闇」とは昔から言うが、この1年はこれまでよりも、さらにこの言葉に行き当たる場面が多くなった。

 ヨーロッパの最強クラブを決めるハイネケン・チャンピオンズカップは、5月1日、2日に準決勝2試合がおこなわれる。優勝争いに残った4チーム中3チームがフランスのクラブとなったが、今も新型コロナウイルスが色濃く影を落としている。

 4月11日のチャンピオンズカップ準々決勝で、83分にマチュー・ジャリベールの逆転PGでラシン92を降し、初の準決勝進出を決めたボルドーは、その2日後のPCR検査でコロナウイルス陽性者が確認された。ボルドーは5月1日にトゥールーズと対戦するが、準々決勝から2週間、試合はもちろん練習すらできていない状態だ。

 ボルドーだけでなく、トゥーロン、ブリーヴでも陽性者を確認、ボルドーと対戦したラシン92は濃厚接触と判断され、フランス国内リーグ・トップ14の21節の7試合中4試合が延期となった。翌週もボルドー、トゥーロン、ブリーヴで引き続き感染者が発生。カストルでも新たに陽性の選手が出て、4試合が延期された。 
 ここ数か月、予定通りに試合がおこなわれ、また延期された試合も全て消化できていたトップ14だが、ここにきて再び先が読めなくなってきた。プレーオフまで日数が残り少なく、ボルドー以外のチームはチャンピオンズカップがおこなわれる週末に消化できるが、ボルドーは平日にも1試合組み込まれ、8日間に3試合という過酷なスケジュールになっている。

 名将で知られるボルドーのクリストフ・ユリオスHC(ヘッドコーチ)。過去にはオヨナを2部リーグからトップ14に昇格させ、翌年には誰も予想しなかったプレーオフ進出を成し遂げている。カストル時代はリーグ戦6位通過でプレーオフ進出、決勝トーナメントでトゥールーズ、ラシン92、モンペリエを次々と破り優勝させた人物だ。今回ばかりは頭を抱えるが、「今は耐え忍ぶしかないが、まだまだ闘う。このチームにふさわしいシーズンの締めくくりをしてみせる」と発言している。

 チームは4月26日の検査で、ようやく全員が陰性になった。しかし、イギリス型変異ウイルスに感染した選手は10日間隔離されなければならず、先週後半から感染した8人の選手は、今週末のトゥールーズとのチャンピオンズカップ準決勝には出られない。
 ボルドーのロマン・マルティ会長も「イギリス変異種は感染力が強い。しかも数人の選手は急速に容態が悪化した」と言いつつも、「今週末の準決勝、トゥールーズが極めて有利なのはわかっている。うちはこの上なく準備できていないのだから。それでも中止にはならないでほしい」と祈る思いでいる。

トゥールーズのヨアン・ユジェ。今季限りでの引退を表明していたが負傷離脱となった(Photo: Getty Images)

 一方、ボルドーと対戦するトゥールーズは、チャンピオンズカップ準々決勝の翌週、国内リーグで代表選手を休ませながらもカストルに勝利。その2日後に相手リザーブのフロントローの選手が感染したという知らせに、すぐにビデオで試合をチェック、当該選手と接触した選手2名を隔離し、FWはマスク着用でコンタクトなしの練習に切り替えた。
「チャンピオンズカップ準決勝でコロナのために不戦敗はあまりにも酷。リスクゼロはあり得ないが、予防するためにできることは全てする」とディフェンスコーチのロラン・チュエリー。幸い、隔離された選手もその後の2度の検査で2度とも陰性となり、通常に練習を再開、週末にはラシン92をホームに迎えて対戦した。

 しかし、トゥールーズはこの試合でチームの主力のWTBヨアン・ユジェを失ってしまう。ユジェがグラウンドに横たわっている間、ユース時代からのチームメイトのFBマキシム・メダールがずっと寄り添っていた。トゥールーズのユーゴ・モラHCだけでなく、ラシン92のロラン・トラヴェールHCまで駆け寄った。誰にでも大きなけがだとわかったし、昨年11月に今季で引退することを発表している彼のキャリアの最後になるかもしれないと、グラウンドには重い空気が張り詰めた。
 トゥールーズは後半に2トライ追加、ボーナスポイントを獲得して勝利したが、チームに笑顔はなかった。試合後のインタビューでSOロマン・ンタマックは「ヨアンのけがでみんなが動揺して、変な空気になった。試合に入り直すまでに時間がかかった」と話した。

 ユジェはフランス代表62キャップ。初キャップは2010年アルゼンチン戦。2011年ワールドカップNZ大会はスコッドに入っていたが、アンチ・ドーピング競技会外検査の居場所情報義務違反で直前に資格停止に。満を持して臨んだ2015年イングランド大会は初戦のイタリア戦で膝靭帯断裂。3度目の正直になる2019年日本大会では、練習後は毎日銭湯に通い、サウナと冷水浴のリカバリーを怠らず、オフの日も1人ウェイトルームでトレーニングを欠かさず、徹底してコンディションを整えていた。
 トライ後の敬礼ポーズや投げキッスのセレブレーション、惜しみない運動量で神出鬼没。猛烈なタックル、またWTBなのに果敢にラックに突っ込んで行き、時には敵を挑発し、味方がトライをすればどんなに遠くからでも一番に駆けつけて最高の笑顔で祝福。グラウンドの外ではチームメイトやスタッフをイジって場を和ませるムードメイカーだ。

 試合の2日後、アキレス腱断裂と診断されすぐに手術。手術後、本人のインスタグラムに、「手術は成功、これから新しい人生が始まる。僕より先に体がストップ! と訴えた。奇跡もサプライズもない。C’est la vie(セラヴィ=これが人生)。僕はラグビーに全てを捧げたし、ラグビーからはその10倍ものことを与えてもらった」とのメッセージが投稿された。

 3月27日に膝靭帯断裂でシーズンを終了したチームメイトのCTBソフィアンヌ・ギトゥーンヌも、インスタグラムで自身のけがの報告をする時に『#c’est la vie』と記している。フランス人が何かをあきらめなければいけない時に「仕方がない」と自分を納得させるためによく使う表現だが、寂しく響く。
 ギトゥーンヌもトゥールーズのアタックを前に進めるモーターのような存在で、彼の不在は大きな損失になっている。
 トゥールーズに限らず、今年は大きなけがが例年より多い。モラHCも「(代表の試合が1週間ずれるなど)あらゆる面でコロナの影響をすでに受けているが、ウイルスが選手の身体に与える影響は、まだはっきりとはわかっていない。感染した選手の回復後のフィジカルの状態を見ていると、安心できない兆候が見られる」と不安を漏らしている。

 FBメダールもこのラシン92戦で膝を痛めて今週月曜日の練習には参加していない。もう1人のFBトマ・ラモスも、ふくらはぎの負傷が完治しておらず、ランニングを再開したばかり。WTBチェズリン・コルビも足首のけがを抱えながらプレーしており、盤石なようだが、トゥールーズも実はギリギリのところで戦っている。

初の欧州制覇を目指すフランスのラ・ロシェル(Photo: Getty Images)

 もう1試合の準決勝で5月2日にレンスター(アイルランド)と対戦するラ・ロシェルは、選手のワクチン接種を始めた。地域のワクチン接種センターに相談し、使用しなかった余剰分のワクチンを、まず感染していない選手に回してもらい、ゆくゆくは全員が受けられるようにして、少しでも不安を取り除くことが狙いだ。他のクラブも同じような動きをするだろう。
 今後、フランス全土でワクチン接種が順調に進み、感染状況が落ち着けば、フランス政府は5月中旬から規制緩和を計画している。その一環として、試験的に大規模なスポーツの大会で観客を入れて実施することも検討中だ。5月24日から6月13日まで予定されているテニスの全仏オープン、6月初旬に予定されているサッカーフランス代表の欧州選手権予選の準備試合開催に備える目的もある。
 それが実現すれば、今季終了までにトップ14のスタジアムに観客が戻ってきた景色が見られるかもしれない。観客数制限はあるだろうが、今季で引退する選手がサポーターと対面してお別れできるよう間に合ってほしいものだ。彼らはそれに値する。