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欧州6か国対抗戦逆転V狙うフランス ジャリベールはド・ゴール将軍の名言引用しチームを鼓舞

2021.03.19

フランス代表のマチュー・ジャリベール。ウェールズ代表との大一番でも10番をつける(Photo: Getty Images)


 3月15日にラグビーワールドカップ2023フランス大会のチケット販売が始まった。第1回先行販売はフランス時間正午にスタート、12時1分にはすでに15万人がアクセスし、主催者側の予想をはるかに超え、一時サーバーがダウンするアクシデントが起きた。SNSでは「アクセスできない」「またエラー」「誰か買えた人いるの?」というメッセージが飛び交った。この日だけで25万件の申し込みがあり、31万枚のチケットが売れたという。「大会スケジュールもチケットの価格も多くの人に受け入れられたということ。安心した」と大会組織委員会のクロード・アチェCEO。2023年が近づいてきた。

 一方、2023年を目標に強化を進める“ガルティエ・ブルー”(ファビアン・ガルティエ ヘッドコーチ率いるフランス代表)は、先週の第4節でイングランド代表に20-23で敗れた。新型コロナウイルスに感染した選手の回復が心配されたが、その心配を払拭するようなインテンシティーの高い試合になり、フランス国内でのテレビ視聴者は平均で640万人(34.9%)、最高時は820万人に達した。

 第4節のベストプレーヤーに選ばれたSOマチュー・ジャリベールを、フィガロ紙は『ソリストからオーケストラの指揮者へ』と例えた。自ら仕掛けて敵のスペースをつき、突破口を切り開くスタイルの彼が、ガルティエ・ブルーのゲームプランに溶け込んでプレーするようになった。しかも自分らしさを失うことはない。

「僕は直感でプレーすることが多いけど、その前にグループにしっかりとハマらなくちゃいけない。自分1人でなんとかしようとしたこともあったけど、それは毎回通用しないということがわかった」と打ち明ける。ロラン・ラビット代表BKコーチも「我々が彼に求める枠組みの中で彼自身のプレーができるようになった。テストラグビーとクラブラグビーの違いを理解した」と成長を認めている。

 ジャリベールはジャック・ブリュネル前代表ヘッドコーチの就任後初の試合、2018年シックスネーションズのアイルランド戦でスタメンに抜擢された。しかし初キャップの試合は膝靭帯負傷のため30分で終わってしまった。6か月後にプレーを再開したが再び負傷。「このけががあったから、彼は成長した」とラビットBKコーチは付け加えた。復帰後、ボルドーのアタックをリードし、昨季、コロナでリーグが中止された時点でボルドーは1位、初のプレーオフ進出を果たすはずだった。

 イングランド代表のSO/CTBオーウェン・ファレルを師と仰ぐほど憧れ、飼い犬にも「オーウェン」と名付けるほど。「ファレルの映像を分析して勉強している。彼のプレーを見るのが大好き。とてもエレガントだ。しかもディフェンスが強い」

 昨年のオータム・ネーションズカップの後、その憧れのファレルとジャージーを交換した写真がジャリベールのインスタグラムに投稿された。試合中の表情とは一変して、「憧れのスター選手と写真を撮ってもらう少年の笑顔」だった。ジャリベールに限らず、若い才能が、これからどのように成長してゆくのかを見るのも、ガルティエ・ブルーの楽しみの一つだ。

フランス代表を指揮するファビアン・ガルティエ ヘッドコーチ(Photo: Getty Images)

 優勝への望みをつなぎたい大一番、ウェールズ戦のスターティングメンバーは前週と不動。「とてもパフォーマンスが良く、このチームの力とポテンシャルを感じた。そのポテンシャル、ノウハウ、才能をまだまだ最大限に引き出していかなければならない」とガルティエ ヘッドコーチ。「フィニッシャー」と呼ばれる控え選手には、コロナに感染して代表から外れていたPRウイニ・アトニオとCTBアルチュール・ヴァンサン、また負傷したLOシリル・カゾーに代わって、LO/FLスワン・レバジが入った。

 イングランド戦の後、現地メディアでは選手交代について議論が繰り広げられた。明らかに疲労が見えていたFLシャルル・オリヴォン、SHアントワーヌ・デュポン、CTBヴィリミ・ヴァカタワを下げて、FLアントニー・ジュロン、SHバティスト・スラン、SO/CTBロマン・ンタマックを投入するべきだったというものだ。
 特に疑問視されているのは、41キャップと経験もあり、ゲームマネジメントに長けているスランを今回もベンチで終わらせたことだ。これに対して、ガルティエ ヘッドコーチは「もちろん彼だけでなく、試合に出られなかった他の選手とも対話して気持ちも聞いているし、交代させなかった理由について説明もしている。例えばイングランド戦は120m/分でプレーしていたが、練習は140m/分というさらに速いテンポでおこなっていた。試合に出ていないメンバーもこのテンポでプレーできるようになっている。グループとしての経験値も積んでいるから、試合に出ればすぐに対応できる。グループ全体の成長を考えている」と答えた。

 また、試合終盤のゲームコントロールについて、「(イングランド代表LOマロ・イトジェに逆転トライされた)試合終了4分前まで4点差でリードしていた。そこにたどり着くまで、どのシチュエーションで点差を開くことができたか、失点を避けることができたのかを見ることが大切」と答えた。

 今回のレフリーのルーク・ピアースはウェールズ出身だが、「レフリングについては、ジェローム・ガルセスからもアドバイスを受けている。明日、リーダーの選手と一緒にルーク・ピアースとミーティングをする。レフリーを理解して、彼がゲームを組み立てやすくなるよう協力する。たとえ、彼がウェールズ生まれだとしても、いやむしろウェールズ生まれだから」とニヤリと笑いながら答えた。

 先週のイングランド戦の後、フランスチームのロッカールームは悲しみに打ちひしがれていた。呆然とする選手、目に涙をためている選手、涙が止まらない選手。その中心で、ガルティエ ヘッドコーチは「我々はタイトルを獲得できる、ウェールズに勝てる!」と繰り返した。

 ジャリベールは、「戦闘には負けたけど、戦争に負けたんじゃない」と、シャルル・ド・ゴール将軍の「フランスは戦闘に負けた。しかし戦争には負けてない」を引用した。1940年、フランスがナチスドイツ軍に占領されていた時期に、ド・ゴール将軍がロンドンからフランス国民に発信したメッセージの一文で、一つの戦闘に負けたからといって戦争に負けたことにはならない、まだ勝機はあるという意味で使われる。
 彼らの信じる力をこれまでに何度も見せられてきた。残り2試合も熱い戦いが期待できそうだ。

 なお、この会見の数時間後に、延期されていたフランス対スコットランド戦が現地時間3月26日におこなわれることが発表された。一方、フランス北部地域、ニースのあるアルプ・マリティム県、パリ周辺地域が3月20日から4週間のロックダウンに入ることも政府から発表された。