ラグビーリパブリック

フランスラグビー徒然。Janvier(1月) コロナ禍で「FREXIT」の声も

2021.01.23

マスク姿で移動するスタッド・フランセの選手・スタッフたち(Photo: Getty Images)


 フランスでは2度目のロックダウンは解除されたものの、1日の新規感染者数は約2万人と政府の目標の5千人にはまだ遠い。医療機関の逼迫した状態も続いており、現在フランス全土で18時以降の外出が禁止されている。飲食店、美術館、映画館、劇場や、屋内スポーツ施設も休業のまま。またスキー場も閉鎖されている。

 この状況でトップ14の試合が、無観客ではあるものの、奇跡的に毎週おこなわれている。

 さらに、イギリスや南アフリカで出現した変異株が国内に入ってきていることもあり、これらの規制が緩和されるのはまだ難しいと見られている。また、ワクチン接種キャンペーンも、他のヨーロッパの国々に後れをとり、政府に対する国民からの批判の声が止まない。

 その批判に対して、ジャン・カステックス首相は、「ラグビーの試合が80分続くように、ワクチンのキャンペーンも数か月続く。試合は始まったばかりなのに、『だめだ、もう負けだ』なんて、誰にもわからないじゃないか」と、国民の理解を求めた。
 9月にも、「このウイルスは予測不可能だ。ラグビーのようにステップをきってディフェンスをすり抜け、思わぬところに現れる」と、国民のウイルスへの注意を喚起するために発言している。

 彼は熱烈なラグビーファンで、自身もプレーしていた。ラグビー地帯のフランス南西部の出身で、政治家には珍しく南西部の訛りのまま話す。就任時は雑誌『パリマッチ』で、「ラグビーの試合後の交流会で聞こえてくるような無骨な訛り」と批判され、話題になった。前任者のエドゥアール・フィリップは「彼の訛りが大好き。聞いているとヴァカンスに来ているような気分になる」と冗談交じりに楽しんでいた。確かに、カステックス首相が話すのを聞いていると、フランス南部の太陽の下で、どこかのラグビーチームの会長が話しているような気になる。

一時中断となったヨーロピアン・チャンピオンズカップ(Photo: Getty Images)

【トップ14とヨーロピアン・チャンピオンズカップ】
「FREXIT」もトップ14は前倒し開催へ。

 1月11日、ヨーロピアン・チャンピオンズカップ(ハイネケン・チャンピオンズカップ)の一時的な中断が発表された。イギリスでのコロナウイルスの変異株の出現により急速に感染拡大しているなか、国境を越えて行き来することに、フランス政府が懸念を示したためである。しかし、その前から、フランスメディアは、フランスチームの大会ボイコットもあり得るのではと、「BREXIT」をもじって「FREXIT」の可能性を報じていた。
 
 事の始まりは、12月18日の第2節。ウエールズのスカーレッツに1名の陽性反応者が確認された。そのため、前週、スカーレッツと対戦したイングランドのバースの選手12名が濃厚接触者として隔離され、バースはその週のラ・ロシェル戦を棄権せざるを得なくなった。

 しかし、スカーレッツの試合はそのまま開催の方向で進行、対戦相手のトゥーロンは予定通り前日に現地入りしていた。

 試合当日の朝、試合会場のパーク・イ・スカーレッツ・スタジアムでキャプテンズランをおこなった際、すれ違ったスカーレッツの選手から、「ほとんどの選手が感染していて、試合に出るのはほぼBチームだ」と聞かされ、不信感を抱いた。選手間で話し合い、「感染を避けるための十分な対策が取られていない」ということを理由に、試合を拒否する旨をコラゾ ヘッドコーチとルメートル会長に伝えた。選手たちの意思は尊重され、試合をせずに帰国の飛行機に乗った(トゥーロンは、まだ感染者が出ていない数少ないチームのひとつである)。

 この事態が起きるまでに、ルメートル会長は、感染状況を把握しようと、大会主催団体のEPCRに「スカーレッツの選手はいつ感染したか、最終検査はいつ実施されたか。濃厚接触者は何名で、陽性反応者が出た場合は水曜日に両チームとEPCRでミーティングがおこなわれるよう定められているのに、なぜなかったのか」などと質問を投げかけていた。

 金曜日、試合当日にEPCRから出された回答は、「週の初めに検査をして陽性は1人だけだった。ウエールズ協会の医師と現地当局が検証した結果、大きなリスクはないと判断されたが、不安ならスカーレッツの選手を再検査してもいい。試合をしたくない選手がいるなら、代わりの選手をトゥーロンから呼び寄せてもいい。そのために試合を日曜日に延期してもいい」だった。結局、両者の間で合意は得られず、トゥーロンの不戦敗として、28-0でスカーレッツの勝利とされた。

 翌日の12月19日、チャンピオンズカップと並行しておこなわれているチャレンジカップで、バイヨンヌがイングランドのレスターをホームに迎えて対戦した。レスターに複数名の陽性反応者が確認されてはいたが、試合は予定通りおこなわれた。翌週、バイヨンヌの選手から8名の陽性反応、しかもイギリスの変異株に感染していることが確認された。

 バイヨンヌは選手・スタッフ全員隔離、トレーニング施設も2週間閉鎖された。その間に予定されていたトップ14の試合は、バイヨンヌにとっては残留のかかった大切な試合だったが延期に。チームは「EPCRの感染症対策はトップ14で実施されているものよりも柔軟であり、その一貫性と有効性に疑問を抱く」と声明を出した。

 この週は、イングランドのエクセターでも複数名の感染者が出たため、トゥールーズとの対戦を棄権、また、前週、エクセターと対戦したスコットランドのグラスゴーの選手20人が濃厚接触者として隔離され、グラスゴーもリヨン戦を棄権している。
 以後、エクセターは検査の頻度を週1回から週2回に増やしたという。

 トップ14の主催団体のLNRは、EPCRにヨーロピアンカップの感染対策をフランスで実施されているレベルに引き上げるように求めた。トップ14の規定では、PCR検査を週明けと、試合の72時間前におこなうことが定められているのに対して、ヨーロピアンカップの規定では、PCR検査は週明けのみ。これでは試合までの間に感染し、そのまま試合をして感染拡大につながるリスクが高くなるということだ。

 EPCRもその求めに応じて、試合の72時間前の検査を追加することを決めたところであったが、イギリスでの感染状況の著しい悪化を受け、フランス政府が、この大会に参加することは多大なリスクを伴うとして、イギリス、アイルランドでおこなわれる試合だけでなく、フランスで予定されている試合も含めて、1月は参加を見送るようにフランスの全クラブチームに求めた。やむなく、EPCRは大会の一時中断と、1月に予定されていた第3節、第4節の中止を正式に発表した。

 この試合の無くなった2週をすかさず利用して、トップ14は1月17日の週に延期になっていた4試合をおこない、翌週には3月20日に予定されていた第19節の試合を前倒しでおこなうことにした。
 なんとしてでも、シーズンを敢行しようという意欲が感じられる。

フランス代表は11年ぶりのシックスネーションズ優勝を目指す(Photo: Getty Images)

【シックスネーションズ】
フランス政府の判断は1月24日に。

 同じくドーバー海峡をまたいでおこなわれるシックスネーションズ(ヨーロッパ6か国対抗戦)の開催に対しても、フランス政府は慎重な姿勢を見せていた。ロクサナ・マラシネアヌ スポーツ担当大臣は、「(アウェーでおこなわれる)アイルランド、イングランドとの対戦に関しては、フランスで適用されている感染症対策実施要領と同等の厳しい対策が、対戦する国々でも本当に実施されているという確証が必要。選手の健康がかかっている。ヨーロピアンカップでフランスに変異種が持ち込まれた。こういう事があってはいけない」と、フランスラグビー協会にシックスネーションズで適用される感染症対策実施要領を他の参加国と作成して、提出するように求めた。

「フランスでは、各競技団体が感染症対策実施要領を政府に提出し、保健省の認可を得ている。それだけの時間、労力、お金をかけて感染症対策に取り組んでいる。国際試合の場合もこの水準で他国の代表チームを受け入れるのだから、対戦国にも同等の対応でフランス代表チームが受け入れられることを期待する」と説明した。

 1月18日、シックスネーションズの対策実施要領がスポーツ担当大臣に提出され、現在、保健省の認可待ちである。「入念に作られた実施要領が提出された」と大臣は報告し、「大会実施にあたって、この要領がしっかりと適用されることを参加国政府に約束してもらいたい。大会は2か月続く。その間に、チームと外部を遮断する『バブル』から選手は出たり入ったりすることになる。それぞれの国の予防対策も、これに見合ったものになっていなければならない」と付け加えた。

 すでに、開幕戦となるイタリア戦の準備合宿のメンバーは発表されている。LNRとの話し合いの結果、今回は37名の選考可能な選手と、5名のトレーニングパートナーを招集できることになった。
「チームとして一緒に経験を積むことが重要」と繰り返してきたガルチエ ヘッドコーチ。今回もブレることなく今までの主要メンバーがリストに名前を連ねている。ただ、SOのロマン・ンタマックは12月27日のボルドー戦での対戦相手とのコンタクトで顎を二重骨折、手術を受け、復帰は2月末と見込まれている。

 フランス代表合宿は1月24日から2月4日まで、昨年同様ニースでおこなわれ、メディアの取材はすべてオンラインでおこなわれると発表されている。パリ郊外の国立ラグビーセンターの方が、立地的に隔離されており安全ではという声もあるが、「パリのどんよりした天候よりも、ニースで南仏の太陽の下でトレーニングした方がリフレッシュできて、精神的に良いというのがガルチエ ヘッドコーチの意向」とフランスラグビー協会副会長のセルジュ・シモンは言う。

 一方、女子とU20のシックスネーションズは、すでに延期が発表された。男子ほど国内リーグのスケジュールが過密ではないため、もっと良い状況で開催できる時期が検討されている。

 試合は延期になったが、1月12日からポルトガルのファロで強化合宿をおこなっていたU20フランス代表とスタッフの複数名が陽性反応を示したと報じられている。集合日から検査を3度おこない、すべて全員陰性、それぞれのチームへ帰る前の4度目の検査でのことだ。陰性の選手は帰宅し、陽性反応者と濃厚接触者は1月24日まで現地のホテル内で隔離されている。

「あらゆる感染対策を慎重に実施していても、リスクゼロにはならない。しかし、陽性反応者が確認され次第、他の選手やスタッフへの感染を防止するための措置も迅速にとられて状況はコントロールできている。検査をおこなうことで効果的にウイルスを検知でき、感染拡大のリスクを抑えられるということが示された」と、シモン副会長は述べているが、フランス政府のシックスネーションズの開催可否の判断への影響が懸念されている。

 大会のテレビの放映権料は1億1千万ユーロ(約140億円)で、参加国の各協会に配分される。昨年秋から無観客試合でチケット収入が無くなり、どの国の協会も財政的に追い詰められており、どうしても大会をおこないたいところだ。
 これに対してシモン副会長は次のように述べている。
「経済的な理由だけではない。チームのパフォーマンスを維持するためにも、大会がなくなるのは望ましくない。しかし最も大切なのは社会のなかでの役割だ。フランス代表チームは、国民に喜びや熱狂、一体感を届ける役割を担っている。コロナ禍で人々は夢や感動や希望を必要としている」

 ここまでフランス政府は、自由が制限されている困難な時期だからこそ、人々に娯楽を提供することが必要と考え、プロスポーツの大会を継続する方針をとってきた。もちろん、しかるべき感染予防措置を実施することが条件だ。
 カステックス首相は、「最も大切なのは、健康である。経済の問題が、健康の問題より優先されることはあり得ない。しかし、決断する時には、心理的、社会的、経済的な問題も考慮される。残念ながらこの試合はまだ終わっていないから最終評価ではないが、現段階で客観視すると、わが国の感染状況は決してよくはないが、他国と比べると最悪ではない。いくつかの業種には休業してもらってはいるものの、経済的、社会的活動も崩壊はしていない」と、感染症対策と経済の間でギリギリのバランスをとるために腐心していることを訴えている。

 ドーバー海峡を越えて、フランス代表がトゥイッケナムやアビバスタジアムに行くことが許可されるかどうか、ウエールズ代表とスコットランド代表が、スタッド・ド・フランスに来ることができるかどうか。
 1月24日にフランス政府の判断が下されることになっている。