「Covid Cup」と皮肉を込めてフランスメディアに呼ばれていたオータム・ネーションズカップが終わった。フランスは決勝の延長戦でイングランドにサヨナラPGを許し19-22で敗れたが、今回もガルチエ・ブルーは驚かせてくれた。
リーグとの取り決めの「この秋のテストマッチ出場は1人3試合まで」という制約も、ガルチエ・ブルーの躍進を阻むことはなかった。むしろ、進化を証明する結果となった。
シックスネーションズを戦ったコアスコッドから大きくメンバーが代わったイタリア戦に向けて、新しいメンバーでの準備期間は5日、そのうちグラウンドで練習できたのは2日だけ。極めて短い準備期間にも関わらず、コーチから与えられたゲームプランを、全員が、がまん強く、最後まで忠実に守り戦い抜いた。
「1人として、ゲームプランから外れて『個』をアピールしようとする選手はいなかった。これはファビアン・ガルチエが『アイデンティティ』の確立に取り組んできた成果だ。プロジェクトの中心に代表ジャージーを置き、チームのマインドセットを立て直した。選手が代わっても、一緒に練習する時間が短くても、成果が出た。選手みんなが、『アイデンティティ』を守りながらプレーしている」と元フランス代表キャプテンのティエリー・デュソトワールはイタリア戦を分析した。
翌週のイングランド戦では、メンバー発表の前からイギリスメディアに「茶番だ」と批判された。イングランドチームの先発メンバーの総キャップ数は772。対するフランスは68。FBブリス・デュランだけで30キャップ、残りのメンバーのキャップ数がどれだけ少ないかがよくわかる。しかしメンバー発表の記者会見の最後にガルチエ ヘッドコーチは、「約束する。日曜日(試合当日)には、準備は整っている」と言った。
その通りだった。試合には勝てなかったが、若いブルーたちはフランス国内でテレビ観戦していた440万人の視聴者を魅了した。誰にも「デュポンがいれば、ンタマックがいれば、オリボンがいれば」とは思わせなかった。
「試合を観ながら、思わず立ち上がり、夢中で彼らを応援していて思い出したことがある。観る者に感動を与える、これがスポーツの役割だということを。このチームは、最も若いフランス代表チームのひとつなのに、とても成熟しているように思える。彼らがこの試合で勝ち取りに行ったのはリスペクトだ。メディアのリスペクト、そしてフランス観衆のリスペクトだ」とデュソトワールはこの試合の分析の中で述べている。
「僕たちはフレンチ・ファルス(French farce=茶番)ではない、フレンチ・フォース(French force=力)だ。BチームもCチームもない。あるのはたったひとつのチーム・フランスだけだ! それを見せつけたかった」
表情にまだ22歳のあどけなさを残しながら試合後のインタビューに答えるFLカメロン・ウォキの言葉が胸に刺さった。『アイデンティティ』である。
今年の1月に始動した時から、代表スタッフは「45人でひとつのチーム」ということを強調していた。
この日の試合後の記者会見で、イングランド代表チームのエディー・ジョーンズHCも、「フランスは、選手が代わっても同じ戦術が遂行できるようなシステムを作っている。トレーニングセッションを見学しに行って勉強する必要があるかもしれない」と冗談を交じえながら言っていた。
フランス代表チームの合宿所のミーティングルームの壁にポスターが貼られている。
「生徒のように言われたことをする選手から、自らの判断でコントロールできる選手に導くことが目標。その過程をビジュアル化している」とガルチエは説明する。そのポスターの左上には、「目標:チャンピオン」と書かれているのが見える。
このチームの多くがZ世代と呼ばれる年齢だ。その世代の選手のマネジメントについて記者から質問され、「Z世代と一括りにはできない。このチームの中だけでもいろいろなプロフィールがある」と言いつつも、「この世代は、野心はあるが高慢ではない。彼らは、鳥肌が立つような体験を好む。強烈な瞬間を経験したい。だから、それぞれの瞬間をエキサイティングなものにする工夫をしている。また、ネットやスマホのようなITツールを使い慣れている世代だから、ディテールや正確さへのこだわりを持っている」とガルチエは答えている。
今回の「1人3試合」の規定で、出場機会を得たのは若手ばかりではない。大会ベストプレーヤーに選ばれたブリス・デュランは、童顔だが30歳。2015年のワールドカップにも出場している。2018年に膝靭帯を傷めて手術を受け1年近くプレーできなかった。昨季、ようやく調子が戻ってきたと思った矢先に、新型コロナウイルスの影響で競技が中止になった。歯がゆかった。ラシン92からラ・ロシェルに移籍、自らにチャレンジを課して再スタートした今季、開幕から高い評価を得て、3年ぶりの代表復帰を果たした。イングランド戦ではハイボールを浴びせられても落ち着いて処理し、チームを安定させた。ガルチエも「エクセレント」と評している。
次のシックスネーションズのメンバー選考で代表スタッフは頭を悩ますことになるだろう。