ラグビーリパブリック

偏愛・食い込み系記者の出場国プレビュー! ラグビー8カ国対抗戦 オータム・ネーションズカップ【ウェールズ/ジョージア】

2020.11.13

FLジャスティン・ティプリック(写真)ら、2019大会4強を牽引したメンバーが多く残る。新指揮官のもと覚醒はあるか(Getty Images)

◆オータム・ネーションズカップ2020

○グループA
イングランド
アイルランド
ウェールズ
ジョージア

○グループB
フランス
スコットランド
イタリア
フィジー

ウェールズは名将の「影」を払拭できるか

 2007年から昨年のワールドカップまで代表を率いた名将ウォーレン・ガットランドの後任、ウェイン・ピバック監督率いるチームは、不調に苦しんでいる。

 昨年のワールドカップで準決勝進出を果たしたチームは、今年のシックス・ネーションズでは万年最下位のイタリア相手の1勝に終わり、屈辱の5位に終わっている。大会前の準備試合のフランス戦も含めると、現在5連敗中。昨年からそれほど大きな選手の入れ替えも行っておらず、「新チーム」というよりは、「新監督」が叩かれる声が多く聞かれる。

 主将を務めるのは、この秋150キャップ(連合チームである、ブリティシュ・アイリッシュ・ライオンズのテスト対象試合を含む)超えが確実である、アラン=ウィン・ジョーンズ(LO)。35歳のベテランは、「まだまだこれから」と言わんばかりに、クラブ、代表の試合で激しく肉弾戦を支配し、チームを引っ張り続ける。グランド上でのプレースタイルだけではなく、チームメイトたちとの人間関係でも精神的な柱。名キャプテンの動きには注目の価値がある。

 中堅どころでは、闘争心むき出しのプレーが売りの“熱き司令塔”、SOダン・ビガー。そしてラン、パスプレーの上手さが光る“技巧派FW”、FLジャスティン・ティプリックらが健在。ガットランド監督時代にFW第3列で多くの名選手が生み出され、このポジションは現在も熾烈なスタメン争いが繰り広げられる。

 オータム・ネーションズカップでは、アイルランド、イングランド、ジョージアと同組。万が一ジョージアに敗れ、最下位決定戦に出場するような事態になると、ピバック監督の解任論は止まらないだろう。

 そんなプレッシャーのなか、選手たちはどのような戦いを見せるだろうか。選手たちの、プレッシャーをはねのける力に注目だ。

みんな大好きアラン=ウィン・ジョーンズ。2019日本大会でも、人柄とそのプレーがファンを惹きつけた(写真はシックスネーションズ/Getty Images)

ジョージアが受ける世界のテスト

 レロス(ジョージア代表の愛称。ラグビーに似た、同国古来の民族スポーツ「Lelo」に似ていることが由来)が、欧州6か国対抗シックス・ネーションズの面々とともにオータム・ネーションズカップに参戦する。

 これは輝かしい機会、というよりはジョージアにとって一つのテスト、洗礼となるのだろう。かねてからシックス・ネーションズのドアを叩いてきたレロスに、それだけの力があるのか。北半球のファンが注目する中、戦いが始まろうとしている。

 チームの若さは、武器でもある。「ジュニア・レロス」と呼ばれるU20代表はジュニアワールドチャンピオンシップ(ジュニアワールドカップとも呼ばれるU20大会。世界上位12か国がエントリー)に参戦し、伝統的なパワー重視のスタイルとともに、ワイドでスピーディな魅せるラグビーで、スコットランド、アイルランド、イタリア、日本、アルゼンチンといったチームを倒してきた実績がある。こうした選手が成長していく中で、フル代表は新たな自信と飛び道具的な力を加えている。

SOテド・アブジャンダゼは21歳の医学生。3度のジュニア・ワールドチャンピオンシップを経験するリーダー(Getty Images)

 PRグラム・ゴギチャシヴィリ、LO/FL オタール・ギオルガゼ、FLベカ・ゴルガゼ、ベカ・サギナゼ、SHヴァシル・ロブジャニゼ、ゲラ・アブラシゼ、SOテド・アブジャンダゼ。彼らはすでにフランスリーグのトップ14で名の知られた選手たちだ。

 そのプレースタイルは対戦相手には驚きかもしれない。ジョージアは比較的新しい、改善されたチームで遠征をスタートさせる。ヘッドコーチのレバン・マイサシビリは、オータム・ネーションズカップに、国際経験のない選手も招集している。

 レロスは献身的なディフェンスとパワー重視の強い接点を前面に出したプレースタイルが有名だ。そのスクラムは世界的に尊敬を集めており、エディー・ジョーンズがイングランドのスクラム改善のため2回合同練習に招いたほどだ。近年のコーチ陣の目標は、その実績のあるFWと、BKのプレーのバランスをとることだった。

 マイサシビリHCは、2020年の欧州で、これまでの戦術を捨てたアタックを見せている。チームは重点的に攻撃の強化に力を注いできた。オータム・ネーションズでの力関係を考えれば、ディフェンス場面はどうしても多くなる。それでも指揮官は攻めのスタイル構築を貫こうとしている。いわく、「ディフェンスだけで成功することは不可能だ。大胆に攻め、試合をコントロールする必要がある」

 そして、すでに仕事に当たっている経験豊富なスタッフたちは、イングランド、アイルランド、ウェールズに対し、驚きに満ちた魅力的なプレーを見せる助けになるだろう。

 カルバン・モーリス(ハイパフォーマンスアドバイザー)、セバスチャン・ブルーノ(FWコーチ、2019年大会はフランス代表スクラムコーチ)、 デーヴィッド・ハンフリーズ(ハイパフォーマンスコンサルタント)、ネイル・ドーク(アタック&B Kコーチ)らは名うてのスペシャリストたち。ジョージアのリニューアルを加速させようとしている。元ジョージア代表のベシク・カラシュリゼ(BKコーチ)やギオルギ・キハイゼ(FWコーチ)、S&Cのトップであるイラクリ・キコニアの経験を後押しすることになるだろう。

 新型コロナウイルスは、ジョージアに強豪と戦う大きな舞台を与えたが、一方でその感染拡大はこの大会への準備に問題を引き起こした。選手たちの半数は3月以降ゲームの機会を失った。シックス・ネーションズへの参入チャンスとなるこの大会、特に順位決定戦では、勝つためにあらゆる手を打つだろう。12月5日のその相手はフィジーか、イタリアか。イタリアはジョージアのシックス・ネーションズへの道で超えるべき壁だ。フィジーは2019年ワールドカップでの大勝(フィジー45-10ジョージア)で、ジョージアの評判を大きく揺さぶった相手だ。

 レロスは10月23日にマレーフィールドでスコットランドと大会前の準備試合を戦い7-48で敗れた。残念ながら、明らかに期待された内容のプレーではなかった。とりわけ、スコットランドがセットプレー、スクラムでもジョージアを上回ったことはショックだった。感染拡大のため8か月近くプレーできず、これが活動再開後、最初のゲームだったとはいえ、あの試合のペース(速さ)への適応には今後も苦労するだろう。高いレベルのラグビーではこれは不可欠だ。長い期間、試合や練習ができなかった影響を思い知らされる結果となった。

 ジョージアは、もう1試合準備試合を予定していたが、ヨーロッパ大陸での感染拡大の状況によりトビリシ(ホーム)で11月1日に予定されていたロシア戦は中止となった。コーチ陣は残されたわずか3週間でプレーの質を向上させなければならない。

 チームは国内のパフォーマンスセンターに戻り、隔離された環境でオータム・ネーションズカップの準備を続ける。残念ながら欧州各クラブは国際的な門戸が開くまでは選手をリリースせず、海外ベースの選手たち抜きで行わなければならない。

 レロスは最善を尽くし良い結果を願いながら、自らの力を試すべく、歴史的なチャンスとなる遠征をスタートさせようとしている。

【WOWOW番組情報】
ラグビー8カ国対抗戦 オータム・ネーションズカップ
11/13(金)~12/6(日) WOWOWで独占放送&配信!
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第1節
グループA
11/13(金)深夜3:45 アイルランドvsウェールズ
11/14(土)夜11:55 イングランドvsジョージア
グループB
11/14(土)夜9:30 イタリアvsスコットランド
11/15(日)深夜0:00 フランスvsフィジー