国内ラグビートップリーグに加盟するNTTコムは、フランスプロリーグのトップ14に所属のリヨン(LOU)とパートナーシップを結んでいる。複数のトップリーグ勢が南半球の強豪と連携を図るなか、次回のワールドカップやオリンピックを開催するフランスのプロクラブとタッグを組む。
「自分たちのチームで(収益確保などを)やっていかないといけないという努力目標ができたなか、フランスに飛んだんです」とは、チームを統括する内山浩文ゼネラルマネージャー(GM)だ。
2022年1月発足予定の新リーグでは、加盟するチームがホームゲームの興行などを通して収入を得なくてはならない。同部の採用担当時代には主将の金正奎、ワールドカップ2大会連続出場中のアマナキ・レレイ・マフィら後の主軸を加入させた内山GMは、その改革案が表面化するよりも前から企業クラブとしての課題意識を持っていた。見聞を広めるべく渡仏したのは2019年6月。世界有数の売り上げ規模を誇るトップ14が佳境を迎えた頃だった。
「うちはアスリートをつなげて社会課題をどう解決するかという試みをやっていて、『deleteC』(商品名、サービス名から『C』の文字を消して販売し、その売り上げの一部をがんの治療研究へ寄付する試み)にも参画しています。一方、リヨンにもがん研究機関があり、結びつきがある」
現地ではスタジアムでのエンターテイメント性、リーグ戦自体のレベルの高さなどに加え、街とクラブとの結びつきの強さに感銘を受けた。試合当日の会場では、各種シートや周囲の飲食スペースの充実がファン同士のコミュニティ作りに一役買っていたという。
「日本の我々が見に来たことに対する敷居も低く、スタッフ全員がウェルカムな姿勢で隅々まで見せてくれました。スタジアム周辺にホテル、クリニックがあったり、いたるところにラグビーのコンテンツが多かったり。スタジアムを中心とした街づくりという観点があった。スタジアムの構造も日本によくある陸上競技場との併設ではないから、選手とファンとの距離感も近い」
同年のうちに、所属する山田章仁がリヨンへ期限付き移籍。日本代表経験者で移籍1年目だった山田が先方へ入ったことで、「子どもたち向けに、日本文化と触れ合う企画をエンターテイメント風に仕掛けてくれた」(内山GM)。2020年1月からのパートナーシップ締結は必然のこととなった。
注目の取り組みは、選手獲得のサブスクリプション化。NTTコムがリヨンに定額を支払うことで、同部の若手選手を自由に移籍加入させたり、入れ替えたりできる。
このシステムがあれば、支出を最小限に抑えながらその時々で必要なポジションに新戦力を補強できる。少なくとも現行のトップリーグでは、外国人選手の登録時期への制限が少ない。サブスクリプションの効果は大きそうだ。
「戦力強化のために契約した外国人選手がけがで戦列を離れたからといって、その選手との契約を解除することはできない。追加で選手を補充するにも同年度内に新しい予算を組み変えるのは難しい。…ということが課題でした。それに、人を介して新しい選手を補強する際はその選手のレベル感に関する情報が入ってきにくい時があるけど、この制度で人を入れる場合は『トップ14レベル』という担保はある」
フランスの若手選手をチームへ招くことには、人件費を圧縮させる以外にもメリットがあると内山GMは言う。従来の南半球勢の力を借りる以上に、日本人選手の力を底上げできると強調するのだ。
「(今回のサブスクリプションにより、既存の所属選手が)異国から来た選手への配慮、気づきなどの人間力を養える。気づきめいたものをコンスタントに入れていくのは組織にとって大事。(サブスクリプションの際は)英語ができる選手をターゲットにしているけど、英語がままならない選手が来た時もフランスの文化、フランスのスポーツへの取り組みや考え方を何気ない会話のなかで知れます。何かを判断する際、『こういう時、他のチームはどうするんだろう』を聞ける相手が多ければ多いほど、それが強化につながるんじゃないかと。日本でのワールドカップは成功しましたが、フランスでも自国開催大会までの施策が僕らの目に見えない範囲で打ち出されていると思う。そういった情報をクラブ間で交換できれば、最先端に触れることもできます」
千葉県浦安市に広大な練習施設を構え、これまでのトップリーグ最高位を5位としてきたNTTコム。コロナ禍における活動に関しては、6月上旬時点で「オンライン上での身体づくりは始めている。最低限の部分のケアはできている」と内山GMは説明する。パートナーシップの結ばれる期間は2024年のオリンピックパリ大会終了後まで。