ラグビーリパブリック

星本泰憲(宗像サニックス)が築いた『人生の土台』。

2020.05.31

2017年度は副将、2018年度はFWリーダーを務めた。(写真/BBM)



 夢を追うエナジーは尽きていない。
 チームの勝利と、自身のベストパフォーマンスを追求してきたこれまで。これからは建設業の仕事に就き、新たな生活基盤を作る。

 星本泰憲が8年間所属した宗像サニックスブルースを勇退した。6月に入ると、次の道へ踏み出す。
 勤務先は、「自分で自分の家を建てたい」という昔からの思いを実現させるためにも決めた。
 モノ作りが好きだ。働きながら建築士の資格を得る勉強も重ねたい。「これまで(ラグビーの世界で)やってきたことを、他の分野でどう活かせるか楽しみ」と話す。

友人の誘いもあり、大阪の大池中でラグビー部に入った。都島工、近大でプレーを続け、宗像サニックスに入団。ポジションはバックローからHOになった。
 170センチ、93キロの体は、トップリーグに限らず、学生時代からFWでは小柄な部類。それでも日本の最高峰リーグで40試合を戦えたのは(ブルース公式戦は62戦出場)、自身の強みを把握し、磨いてきたからだ。

 信念を持ってプレーを続けてきた。
「低いヤツが強い。そんな信条でやってきました。小さいと相手はタックルしづらい。人ができないくらいの低さでプレーできたら、どんなに強い相手でもバランスを崩す、と」
 低さを追求したプレーを、激しく実行することを長くやり続けてきた。自分で築き上げたプレースタイルだからぶれなかった。

 プロ選手として過ごした8年間で、いろんなことに気づいた。実力の世界。力があればチャンスも成功もつかめるが、約束されたものはない。
「自分でも、(プロ生活を)辞めた後のことが気になったこともありました。でも、(やがて)いまできることに打ち込む、やり切ること(が大事)、と思った」
 瞬間、瞬間を、そのときの目標を実現させることに注ぎ込む。
 そんな生き方はどんな世界でも通用すると思うから、前述のように、新生活が楽しみと言える。

 負けん気とハングリー精神が、エナジーの源泉だ。進学はいつも一般入試。這い上がらないと、何も始まらなかった。
 宗像サニックスも、他チームと比べればビッグネームが少ない。そのチームカラーが自分には合っていた。
「他チームと比べて…とか、まったくなかったですね。本当は、意識し過ぎるぐらいしているのでしょうが、そういうものは、学生時代に卒業しました。常に(恵まれた立場の存在に)負けたくないと思ってきたので」
 体のサイズ同様、負けじ魂も、自分自身そのものだった。これからも、「そんなんでへこたれるんや、と思われたくない」。

 人は、自分が思っている以上の力を持っている。
 2017年1月14日、福岡・レベルファイブスタジアムでのNEC戦で、そう思った。
 7日前に、当時の宗政伸一社長が急逝していた。
 特別な試合だった。

「ラグビーは気持ちのスポーツ。もともとそう思っていました。あの日、自分はどうなってもいいと思って戦った。プレーが良かった、悪かった、とかでなく、気持ちがあった」
 26-24。旅立った人に勝利を届けることができた。
 世界的企業が並ぶトップリーグの中で、叩き上げの男たちに愛情を注ぎ、チームを存在感がある集団に育て上げた。ワールドユース大会を世界に認められる舞台にした熱意。故人へ抱いていた尊敬の念と悼む想いが、いつも以上の集中力を引き出した80分だった。

 勝負の世界に生きたからこそ体感できた多くのことがある。ラグビーを通して得た多くの仲間たちがいる。 
 人生という家を建てるための土台は分厚い。

30歳。低く、激しいプレーで活躍した


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