■10月からイングランドに同行
--今回のシックス・ネーションズでも優勝候補筆頭のイングランドですが、大越選手は、ひと月に渡ってイングランド代表と行動をともにしていたんですね。しかもワールドカップの大会期間中に。どのような経緯だったのですか。
大越「イングランド代表ヘッドコーチはエディーさん(ジョーンズ/現サントリー・ディレクターオブラグビー)。サントリーを通じて依頼があり、いわば練習相手を務めることになったんです。イングランドは、大会メンバーにSHを2人しか入れなかった。日本など、多くの国はSH3人制でしたよね。コンディションなどの面から、イングランドの場合はSHがもう1人いたほうがいい、という判断になったようです」
--声がかかった時は、驚いたでしょうね!
大越「自分なんかで、いいのだろうか…と思いました。イングランドにとってのプール第2戦、アルゼンチン戦の週から参加しました。はじめは僕1人ではなく、BK全員とか、複数名で行っていたのですが、SHは決勝の週まで行くことに。準々決勝(オーストラリア戦)は大分開催だったので、宿もご飯もすべて一緒に過ごしました」
--毎週の練習は、どんなサイクルで?
大越「大会中は府中やNTTコムのグランド(千葉)で練習することが多かったので、『通い』で。練習内容から、月火水木と参加していました。エディーさんなので、対戦国に向けた準備は徹底していました。僕は対戦国のSH役として入るので、エディーさんからもいろいろな注文を受けました。「そこは、もっと早いテンポでボールを出してくれ」「キックの使い方はこう」など、細かいところまで。オーストラリアのウイル・ゲニア、ニュージーランドのアーロン・スミス。元々、よく見ていた選手たちですが、前の週には改めて直近の試合を自分でも確認して、彼らの特徴を頭に入れるようにしました」
--イングランドの選手たちと接して、どんなことを感じましたか。
大越「一流のラグビーマンは、人間的にもみんな素晴らしいと思ってきましたが、イングランドは本当にみんなが紳士だなと。決勝の週、僕が参加する最後の練習日には、イングランドのジャージと、決勝のチケットをプレゼントしてくれて。思ってもみないことで感激しました」
--ええっ? チームから大越選手個人へのプレゼントですか。
大越「チームというよりも、選手たちが動いてくれたようでした。全体練習が終わって、僕が一人で自分の練習をしていたら、呼ばれて。何だろう? とついて行ったら、みんなが集まってくれていた。ベン・ヤングズ(先発SH)が、君のおかげでここまで来られた、ありがとうと言って、手渡してくれました。本当にうれしかった。だって、ワールドカップの、それも決勝の前ですよ。彼ら個々にとっては初めての経験で、頭も心も、試合のことでいっぱいなのが普通だと思います。僕だって、集中してほしいと思って、いい準備の手伝いができればと思っていました。それが、自分のような立場の者にまで気を遣ってくれるなんて。信じられません。人としてなんて余裕があるんだ、リッチなんだと思いました」
■ NZに勝ち切った準備
--感激する大越さんの涙が目に浮かびます。ベン・ヤングズとウィリー・ヘインズ、SHの2選手には、選手としてどんな刺激を受けましたか。
大越「イングランドで求められるSHは、こういう選手なんだな、と。僕の場合は体格も小さいし(162センチ、70キロ)、いつも何か仕掛けてやろうという意識が強いのですが、二人はいい意味で、落ち着いていると感じました。チームの意図、周りの選手、相手チームの間で、自分の仕事が何かを理解している。ベン・ヤングズは、まさにコントロール型。緩急のつけ方が上手で、間の取り方、ボールの出し方、一つひとつにそれが表れている。キックが、上手です。ハイパントが高いとか、距離が長いというよりも、狙いがすごい。味方の追いやすさ、相手にとっての取りづらさを考えたキックを、狙ったところに落とす」
--リザーブのウィリー・ヘインズは33歳のベテラン。
大越「エディーさんはリザーブではなく、フィニッシャーと呼んでいます。ベンチの選手も合わせ23人で戦う意識が高い。ウィリーは、ベン・ヤングズとはまた違ったタイプです。体を張る。ブレイクダウンに頭を突っ込んでボール争奪にも加わったり、試合を締めるのに必要なことは何でもできる選手で、指導陣からの信頼も厚かった。グロスター(イングランド)ではキャプテンを任されるほどの人格、落ち着きも持ち合わせていました」
--ワールドカップの優勝経験もあるイングランド、シックス・ネーションズでも多くの「2019年組」がスコッド入りしています。彼らがニュージーランドに勝った週も、大越選手はそこにいたのですよね。
大越「エディーさんは準決勝の週、メディアに『我々は2年前からこの試合に向けた準備をしてきた』と語っていますよね。チームの中にいると、なるほどと思わされた。ああいうコメントは対戦国側に向けた牽制だと、言われていましたが、僕はそうではないと感じました」
--その週は、どんな雰囲気でしたか?
大越「一言で言うと緊張感。いい緊張感で練習がスムーズに流れていく。今週はニュージーランドだから、みたいな対策をしているのではなくて、これまで、チームで言い合ってきたこと、身についていることが、自然とニュージーに勝つための練習になっている。すごいと思いました。試合は家族と、サントリーのクラブハウスで見ました。僭越ながらチームの一員になったような気持ちでいたので、うれしかったですねえ」
■自在なキックに注目を
--シックス・ネーションズでは、ワールドカップ出場の2人のSHもそのままスコッド入りしていますね。
大越「30歳と33歳。ベテランの2人です。しかも相手はいわば隣国同士。互いに知り尽くした者同士の駆け引き。ワクワクしますよね。これまでもシックス・ネーションズのビッグゲームは見てきましたが、今回は全部、見ます。2人のSHが、ワールドカップの経験をどんなふうに消化してまたピッチに立つのか、どんなプレーを見せてくれるのか」
--イングランド全体については。
大越「やはりハーフ団に目が行ってしまうのですが、キックの使い方は面白いし、味があると思います。イングランドというとFWを生かすため、キック中心の…と言う重いイメージがあると思いますが、キックばっかりというよりも、キックをコントロールする意識が高いのだと思います。キックの量を増やしたり、減らしたり、その狙いを変えたり。ポゼッションとのバランスを見ている。その感覚が、日本国内のゲームとは少し違うかなと思います」
--イングランドの強みは。
大越「エディーさんのチームですから。準備力です。ワールドカップで体感させてもらったあの準備する力が、伝統の舞台でどのように発揮されるのか、改めて楽しみです。どんな仕掛けをするのか、どんなカードを用意しているのか」
--ライバルたちについては。
大越「やはりライバル感が強いのはアイルランド、スコットランド。今年は、フランスも気になりますよね。ワールドカップでも、強い時のフランスは勢いがすごい。どんどんオフロードで繋がって、サポートの選手が次から次へと湧いてくる、乗っかってくる流れになったら、手がつけられない。南アフリカにやられた時のような展開にならないといいのですが。フランスは、ヌタマックとデュポンのハーフ団が若くて、スピードもあって、キックも蹴れる。魅力的ですよね」
--最後に。大越さん、イングランドの中で練習をしてみて、自分が通用すると感じたところはありますか。
大越「あえて言うなら、スピードでしょうか。ボールをさばく、味方のアタックのテンポを上げるスピード。僕は体が小さいので、そのことはずっとテーマとして取り組んできました。実際にやってみて、そこだけは勝てるかもと思えました」
--単純な、走る速さ、ではないのですね。
大越「パスを放った後すぐの2歩、3歩の速さだと思います。動きだしが早い。ボールと一緒についていくような意識です。僕でもそんなふうに思えた。やってきたことが全然通じないのでもない、と実感できました。昨年は日本のワールドカップで、多くの人が、いろんなチームと実際に交流したり、目の前で応援したりできたと思います。シックス・ネーションズの6カ国に接点があった人たちは、ぜひシックス・ネーションズでも応援を続けてみてほしい。その実感が、もっとそのチームや国を、ラグビーを、好きにさせてくれると思います」
Profile 大越元気 [SH/サントリーサンゴリアス]
おおこし・げんき/162㌢、70㌔。1994年12月26日生まれ、25歳。茗溪学園高→同志社大→サントリー3年目。高校日本代表、U20日本代表、ジュニアジャパン選出経験あり
★『ラグビー欧州6カ国対抗戦 シックス・ネーションズ』
【放送日】2/1(土)~全15試合生中継![WOWOWプライム][WOWOWライブ]
<第1節>
ウェールズvsイタリア 2/1(土)夜10:55[WOWOWプライム]※無料放送
アイルランドvsスコットランド 2/1(土)深夜1:30[WOWOWプライム]
~現地より生中継!解説:大西将太郎、実況;蛯原哲
フランスvsイングランド 2/2(日)夜11:45[WOWOWプライム]
~トンプソン ルークがゲスト出演!
※第2節以降の放送スケジュールはWOWOWラグビーオフィシャルサイトに随時掲載。