■ウインガーの視点
——小野澤さんはシックス・ネーションズ、よく見ているのですか。
小野澤宏時(以下・小野澤)「伝統国、強豪国の試合を見ていると考えさせられることはたくさんあります。シックス・ネーションズもそんな気づきや、確認をくれる大会の一つですよね。それとWOWOWはラ・リーガ(サッカーのスペインリーグ)もやるじゃないですか。見ちゃいますよね」
——サッカーも日常的に見るんですね。
小野澤 「ラグビーではパスを出せる角度は180度だけ。サッカーは倍の360度。その中で、ディフェンスがどうやって相手にプレッシャーをかけるのか。嵌めにいっているのか。その群れとしての動きがすごく興味深い」
——なるほど。
小野澤 「で、ラグビーなんですけど、WTBって、トライ取る選手はいつも取るじゃないですか。ウェールズのジョシュ・アダムスとか、また取ってるなあ、ていう」
——はい。ワールドカップでは出た試合ほとんどでトライを取りました。
小野澤 「ラグビーはインサイドが起点で、ボールが内から外に回りますよね」
——はい。
小野澤 「だから、9番や10番がゲームを作っているように見える。けれど、実際は外の選手がお膳立てをしているんですよ。外にいるWTBはタッチラインの一番近くにいる。全体が見渡せるんです。で、内側にいる人たちと絶えずコミュニケーションを取っている」
——右に回ってこいとか、ミスマッチがある、とか。
小野澤 「優秀な人は、『自分にいい状況でボールが回ってくるように』人の配置をしているんです。内側の人たちの配置をして、最後に最高の状況ができるところに、自分を置く」
——ええっ。
小野澤 「[例えば、内側から順に『10番、B K、FW…』という並びの場合と、『10番、FW、BK…』では、全然違う。それを外からコントロールしている」
——そうなんですね。
小野澤 「だって、『10番、BK、BK、BK、自分(WTB)』なんて状況、普通ありますか」
——スクラムの時くらいですね。
小野澤 「それ以外はどこかにFWが入る。それをどのタイミングでどう並べるか」
——ブレイクダウンの強弱もある。
小野澤 「そうそう。ブレイクダウンではだいたい3秒でボールを出そうとするじゃないですか。だからポイントができる前はもちろん、タックルが起きてからは、常に3秒後の世界を予想して、内側とコミュニケーションを取っているんです、WTBは」
——ははあ〜(感心)
小野澤 「だから、ハーフ団がゲームを作って、WTBは、ボールを運ぶだけ−−みたいに紹介されることの多いポジションですけれど、全然違うんです。トライを取ったWTBについて『そこにいたのが素晴らしい』なんて褒めてもらえることもあるのですが、それもちょっと違う。トライを取る選手は『そこに自分を置いている』」
——すごい! そんなWTBが、シックス・ネーションズにはたくさんいますか。
小野澤 「いるんじゃないですかねえ。テレビだと、画面から消えている間にどんなポジショニングをしているんだろうとか、想像、予想するのも面白い。『この選手、さっきまでここにいたのに、次の場面では、前向きで相手のキックをキャッチしている。いつ気がついて、いつ移動したんだ?』とか」
——選手名を挙げていただけますか?
小野澤 「挙げにくいですよ(笑)。スコッドがどこも大きい。しかもW杯後の、この時期だし。でもですね、ちょっと注目しているのはフランスです」
■「4年サイクル」崩壊後の世界
小野澤 「2019年大会は、世界のラグビーの4年周期が崩れた大会だったんじゃないかと。だって、監督が就任して1年ちょっとしか経っていない南アフリカが優勝したんですから。ワールドカップのためのキャンペーン(強化)は、2年前くらいからで十分なのでは?って、世界中の関係者が感じたはず。もちろん、それぞれの国の段階、ステージによってとらえ方は全然違うと思いますけれど」
——日本にとって、2015年に向けたエディー・ジョーンズの4年、2019年に向けたジェイミー・ジョセフの3年は必要なものだったと感じます。
小野澤 「そうですね。じゃあ、すでに成熟しているトップの国々は、どうなんだろうという興味です。僕ら観る人からすれば、『4年なんて言わず、1年1年楽しめばいいね』って。だけど例えば、職業選手や職業監督たちにとって、この現象はどう映るのか。これまでは、自国リーグの選手でじっくりと長期の強化プロセスを組んだ国が勝った。今回は、イングランド、フランスにも多くの主力を出していた南アフリカが、それでも勝った。どうなると思います?」
——…わかりません!
小野澤 「そこでですよ、フランスはそんな中で、次大会が自国開催。勝負の大会ですよ。だからここから、4年間どんな道を辿って本番を迎えるのかが、すごく楽しみなんです。フランスの42人スコッド、平均年齢が24。キャップなし(国代表出場歴)が19人。フランスは、4年周期が崩れた世界の中で、4年のストーリーを描こうとしている」
——フランスは2019年大会も、若いメンバーで臨みました。
小野澤 「そこですよ。2019年はもう捨て石で、2023年に向けた育成の場だと割り切ったんだ——みんな、そう思ってたじゃないですか」
——W杯経験者がわずか9人というスコッドでした。
小野澤 「じゃあ、なぜ、その大会後に指揮官を変える必要があったんだろうって、思いませんか。すごくコメントがしづらいチームなんです。何を意図してこうなっているのか。だからこそ、目が離せないんです、フランスって」
■世代交代。ベテランと若手の化学変化
——各国、世代交代もあるのでしょうね。
小野澤 「ベテランって言われる選手たちが持っているのは経験ですよね。経験って、ゲームの中での確率をどう扱うかのスキルだと思う。残り時間、いろんなリスクの中で、こっちの方が、『試合の最後に、1点以上相手よりもスコアが多くなっている確率』が、高そうだぞっていう判断、選択」
——2019年では、小野澤さん、やはりフランスに感激されていましたね。
小野澤 「前半を19−10で勝っていたフランスが、後半9分に退場者を出して以降、いなしにいなしてリードを保った。最後に力尽きた(ウェールズ20−19フランス)。あのY・ウジェ(WTB)とM・メダール(FB)の不思議なロングキック、相手の『トライをとりにいかねば』という心理を煽って、あえてフィールドの真ん中に蹴り込んで…。まさに、相手を手玉に取っているわけですよ。もう感激ですよ。そんな中で、あっさりノックオンをするD・プノーが、今回のスコッドには残っていたりする」
——うーん、フランスらしい。
小野澤 「大丈夫かなあ。きっと、強気のハーフ団、A・デュポンとR・ヌタマックに未来を託す、みたいなことなんでしょうけれど。確かに、年寄りばっかりだと確率だけになってしまって意外性がない。若手の爆発力はチームを120%、130%に持っていく可能性がありますよね。彼らが4年の経験を重ねたときにどうなるのか、その道筋が気になる」
——それぞれの国のリスタートという意味では一線上。
小野澤 「シックス・ネーションズは、世界が4年サイクルだろうと2年サイクルだろうと、基本はその時、その1年を戦ってきました。そこだけはずっと変わらない1年ごとの勝負というものに、価値を感じます。新しい世界の秩序の中で、シックス・ネーションズがどんな戦いを見せてくれるのか。変わるもの、変わらないもの、楽しみに見たいですね」
Profile 小野澤宏時 [元日本代表WTB /解説] おのざわ・ひろとき
1978年生まれ、41歳。静岡県出身。静岡聖光学院→中大→サントリーサンゴリアス→キヤノンイーグルス、福井県代表など。W杯には3度出場。日本代表キャップ81(日本歴代2位)、55トライ(世界歴代4位)。現在は清水エスパルス強化スタッフ、静岡県教育委員会委員など多方面で活躍。
★『ラグビー欧州6カ国対抗戦 シックス・ネーションズ』
【放送日】2/1(土)~3/14(土)全15試合生中継![WOWOWプライム][WOWOWライブ]
<第1節>
ウェールズvsイタリア 2/1(土)夜10:55[WOWOWプライム]※無料放送
アイルランドvsスコットランド 2/1(土)深夜1:30[WOWOWプライム]
フランスvsイングランド 2/2(日)夜11:45[WOWOWプライム]
※第2節以降の放送スケジュールはWOWOWラグビーオフィシャルサイトに随時掲載。