ラグビーユニオンの国際統括団体であるワールドラグビーが新たな国際大会として計画し、2022年からの開催を目指していた「ネーションズ・チャンピオンシップ」が、期限までに参加協会から全会一致での合意が得られなかったため、開催中止が6月19日に発表された。
シックスネーションズ(欧州6か国対抗)を中心とするカンファレンスと、ザ・ラグビーチャンピオンシップ(南半球4か国対抗)を主催するSANZAARを中心とするカンファレンス、2つのカンファレンスから計12チームの構成となり、日本も含まれる予定だったが、代表チームの強化に直結すると考えていた日本ラグビー協会の青写真は消えた。
スーパーラグビーに参戦している日本チームのサンウルブズは2020年を最後に除外されることが決まっており、日本協会は新たに定期的に強豪と戦える機会として、世界ランキング上位国との対戦が毎年11試合できる可能性があったネーションズ・チャンピオンシップに賛同していた。
ワールドラグビーから、ネーションズ・チャンピオンシップの開催に向けた議論継続がなくなったという報告を受けた日本協会の坂本典幸専務理事は、「日本ラグビー並びに、世界のラグビーがよりグローバルに発展していく機会を逃したことは、日本ラグビーフットボール協会として大変残念です」とコメントしている。
日本協会は5月の時点で、大会が成立しなかった場合でも代表強化を進めるため、ニュージーランドなど南半球強豪が争うラグビーチャンピオンシップに参加したい意向を表明しており、その実現へ向けて積極的にアプローチしていかなければならない。
新国際大会の構想は、今年2月末に『ニュージーランド・ヘラルド』紙へリークされ、公になると、賛成、反対さまざまな議論が巻き起こった。
ワールドラグビーのアグスティン・ピチョット副会長(元アルゼンチン代表キャプテン)を中心に協議され、サッカーのUEFAネーションズリーグ(2018年開始。2年ごとに開催)の流れをくむ大会計画だったといわれている。
ワールドラグビーによれば、ネーションズ・チャンピオンシップの主な目的は、参加協会にとって強力で持続可能な財政および競争モデルを確保すること、初めてすべての新興国に意味のある競争経路を提供すること、さらに、ファンや放送局に新たな国際ゲームの興奮を注ぎ込み、新しい市場を開拓することだった。2027年にラグビーワールドカップが拡張される(本大会出場が現行の20チームから24チームに増える)可能性を視野に入れて、中堅国・新興国の競争力を高める狙いもあった。「ラグビーの世界規模の発展を確約する」としていた。
大手スポーツマーケティング会社(Infront Sports & Media)からの、12年間で61億ポンド(約8300億円)という巨額な資金提供を保証され、この新大会は、特に南半球のなかでラグビー界が経済的に苦しんでいる国に利益をもたらす可能性があると見られていた。当初計画では、ニュージーランド・ヘラルド紙の概算によると、参加国が大会で受け取る金額は1チームにつき約7億6000万円~10億6000万円だったという。
しかし、国際ラグビー選手協会の会長を務めるアイルランド代表のジョニー・セクストンは、選手のことよりも商業的利益を優先していると批判。ラグビーのような体を激しくぶつけ合うスポーツで、11月の5週間に5試合を詰め込むこと(シックスネーションズとラグビーチャンピオンシップの各上位2位チームが準決勝、決勝を戦う計画だった)への懸念を示していた。
さらに、リーグ構想に関する協議に招待されなかったイングランドとフランスのプロクラブリーグ関係者も抗議の意を表明。
また、シックスネーションズの欧州伝統国とラグビーチャンピオンシップの南半球強豪4か国以外にネーションズ・チャンピオンシップに参加するのは、日本とフィジーと発表されたが、当初のリーク情報では、世界ランキングトップ10に入っているフィジーではなく、マーケット市場拡大へ魅力的な経済大国のアメリカ(フィジーより世界ランキングは下)が名を連ねていたことが明らかとなり、さらに、「10年間は昇格・降格の制度はない」との情報も報じられたため、サモア、トンガを含めた南太平洋諸国は日本で開催されるワールドカップへの参加ボイコットを示唆するなど、猛烈に反発した。シックスネーションズに属しているイタリアよりもランキングが上のジョージアも当然、怒り、この新大会構想は物議を醸した。
のちにワールドラグビーは、昇降格制はあるとし、1部から3部までのリーグを創設して2年に一度、入替戦をおこなう、などの計画を発表していたが、この昇降格制については、降格した場合に大きな経済的リスクを負うことになるシックスネーションズの複数国が強く反対し、ワールドラグビーは全会一致の合意を得られず、新大会創設を断念することになったのだった。
そもそも、ファンの間でも反対意見は少なくなかった。「4年に一度開催されるワールドカップの意義がなくなってしまうのではないか」「仕組みが複雑。わかりづらい」「シックスネーションズもラグビーチャンピオンシップも従来通りにやって、夏と秋にはテストマッチがあるのだから、同じようなもので特別に興奮するものではない」、などの声があった。
しかし、ラグビーがもっとグローバルなスポーツに発展し、人気を拡大させるためには新たなアイデアや試みは必要で、以前から言われていることだが、スーパーラグビーと欧州チャンピオンズカップの優勝チームが対戦する“クラブ世界一決定戦”のような大会を望む声もある。
ラグビーはこれから、どう変わっていくのだろうが。それとも、伝統や独自性を重んじ、変わらない道を選ぶのだろうか。