東北地方でラグビーが盛んな町、といえば岩手県釜石市とともに、秋田県秋田市もその一つに挙げられるだろう。全国大会歴代最多優勝回数を誇る秋田工業高校の地元でもあり、多くのトップ選手を輩出しラグビーに対する市民の関心は高い。そして、地域の中心となるのは社会人トップイーストの秋田ノーザンブレッツ(以下秋田)だ。秋田は元々は秋田市役所のラグビー部だったチームが、現在は完全なクラブチームとして地元密着の活動をおこなっている。
トップイーストDiv1には同じく、地域クラブ形態のクリーンファイターズ山梨(以下山梨)があり、こちらも市民チームとして奮闘している。10月24日、ここまでともに1勝2敗で迎えた両チームの対戦を取材するため、すでに厳しい冷え込みの始まっている秋田の地を訪れた。
秋田のチーム運営を支えているのは、主に地域の企業や自治体だ。実に300社を超える企業や団体がスポンサーとして名を連ねているほか、秋田県知事がチーム名誉会長を務めるなど、まさにラグビータウンとしてノーザンブレッツを応援している。また、無料試合の多いトップイーストだが、地元ホーム戦は有料試合としている。それにもかかわらずスタンドには多くの地元ファンが駆けつけていた。
試合のほうは、立ち上がりから両チームがそれぞれに持ち味を発揮する展開となった。秋田序盤のキーマンはPRの齊藤剣(明治大)だ。秋田の能代工業卒の地元選手で、2024年に浦安D-Rocksを離れ、現在は地元秋田で競技を続けている。今年30歳になるそのスクラムスキルは卓越しており、齊藤を中心としたスクラムで山梨を大いに苦しめ、FWがモール、ラックを起点に得点を奪う。
一方の山梨は対照的にフィールドプレーが冴える。風上の利を活かしたキックで陣地を取り、15人全員でグラウンドを目一杯に使ったプレーでフィニッシュまで持ってゆく。
こうして前半30分までは取られては取り返しての展開が続いたが、前半終了間際に山梨はロトアヘア・アマナキ大洋(前・NECグリーンロケッツ)と川崎輝(山梨学院大)の両WTBが立て続けにトライを挙げる。激しい点の取り合いとなった前半は31-21とCF山梨のリードで折り返した。
後半に入ると、うって変わってスコアの動かない膠着状態となる。秋田陣内に何度となく攻め込む山梨だが、192cm103kgのCTB児玉樹(明治大)をはじめとした秋田ディフェンスがなんとかゴール前でしのぐ。児玉もまた、秋田工業出身の「地元っ子」である。
主力の齊藤や児玉は確かに秋田出身だが、秋田の地元出身選手は2割ほどだという。トップイーストでの活躍を目にした大学生が毎年多くチームの門を叩く。当然移住、就職といっためどを立てなければ競技生活もままならない。このあたりのチームの受け入れ体制について、秋田の古屋亮太GMに話を伺うことができた。
「学生がチームに加入する時、同時に就職の話になります。むろん地元企業と連携し、一定のサポートはしていますが、その上で勤務先は自身で決めてもらうようにしています。大学を出て社会人としての素地を作るためには、自分で勝ち取った就職先であるほうが本人にとっても企業にとっても良いマッチングになると思うからです」
社会人として自分の足で立つことが求められるトップイーストの選手にとって、仕事とどう向き合うかということは競技にどうコミットするかということと等しく重要な決心だ。ましてや母体となる企業のない秋田では、より一層仕事に対する選手の覚悟が問われることになる。前述のようにたくさんのスポンサー企業に支えられたチームなので、選手を受け入れてくれる企業も豊富だ。とはいえ、就職先を自分が決めることは、自身の覚悟を固めてもらうために欠かせないというわけだ。この段階から選手の成長を促す取り組みが始まっているとも言える。
「おがる」
これは、秋田の方言で「大きくなる」「育つ」という意味だそうで、2026年シーズンのスローガンでもある。当然ラグビー選手として体が大きくなるという意味もあるが、チームが大きくなる、そして選手個人が社会人としても成長してゆく、さまざまな意味がここに込められていそうだ。
さて、試合の方は互いに疲れの見えてきた終盤、自陣10mライン付近で秋田がペナルティ、これをチョン蹴りでリスタートした山梨NO8公文毅京(摂南大)が一気に22m付近まで持ち込み、最後はWTBアマナキ大洋に渡ってトライ。この時点で3トライ差としてボーナスポイントが見えてきた。
山梨では、シーズンインする半年以上前から、激しいコンタクトプレーを練習でも実施している。外国出身選手とのフィジカルバトルで鍛えられた公文をはじめとした日本人選手の突破力は、このチームの選択肢の多さを下支えしている。
その後ダメ押しとなるPGを決め、スコアは山梨18点リードの39-21となる。ここまでかと思われた44分、秋田はブレイクダウンからボールを奪い、CTB児玉が自陣10mライン付近から山梨アマナキ大洋を振り切って独走、山梨のボーナスポイントを阻止する意地の1トライを返した。しかし結局試合はこのままノーサイドとなり、39-28で今シーズン2勝目は山梨の手に渡った。
「地元の結束、一体感の醸成。だれもがそれぞれの立場で参加でき、強いつながりを感じる環境・文化を醸成する」
これはリーグワン設立時に掲げられたミッションの一つだ。今回秋田を取材してあらためてわかったことは、このミッションを地でゆくノーサンブレッツと地域の結束力だ。まさにラグビー選手にとっては理想郷のような地域に見える。古屋GMはこうも言っている。
「秋田の選手は、ちゃんと自分の頭で(将来のことを)考えることが求められます。ラグビーへの熱量が高く、とにかく食らいついて入ってくる選手ももちろんいます。ただ、熱量だけでは社会人選手を長く続けることは難しい。選手としても社会人としてもどうなりたいのか、自分で問いを立て、考えられる選手が結果的に成長していると思います」
ラグビータウン秋田とはいえ、ラグビー一辺倒の生活というわけにはいかない。自分の将来のこと、その中でラグビーとどう向き合うのか。そこまでの考えをしっかり持った選手が育ち、地域経済で活躍し、プレーで市民に感動を与える。これが秋田ノーザンブレッツが地域と共生できている理由だろう。
最後に第4節までを終えてトップイーストDiv1の成績も振り返っておこう。東京ガスが4戦全勝で、以降横河武蔵野、山梨、秋田、明治安田と、きれいに1勝ずつの勝ち星差となっている。後半戦での順位変動も十分ありうる展開だ。
