この人のプレーを一度でも見たことのある愛好家にとっては、待望の報せだったのではないか。
22歳の李智寿が、ラグビー日本代表のテストマッチで初めてメンバー入り。10月24日、東京・秩父宮ラグビー場でのフィジー代表戦で23番をつけた。
本番2日前の公式アナウンスに伴い、多くの在日同胞から祝福の伝言が届いた。そのひとりは李承信。コベルコ神戸スティーラーズ所属で現在故障のためジャパンから離れている司令塔には、SNSのダイレクトメッセージで「頑張れ、楽しんで」と伝えられたという。すぐに返事もした。
静かながらも昂っていた。
「緊張もあったんですけど、楽しさが勝って…」
身長180センチ、体重82キロのサイズでスペース感覚に長ける。
普段、主将としてプレーする朝鮮大は、関東大学リーグ戦2部に加盟。他の同世代勢とは強化環境や注目度が大きく異なるなか、23歳以下日本代表、JAPAN XVと下部カテゴリーで存在感を示してきた。
6月27日、愛知・パロマ瑞穂スタジアム。JAPAN XVの一員として、マオリ・オールブラックス相手に持ち味を発揮した。7月に代表デビューするSOの伊藤龍之介とともに多くのチャンスを作り、前半を24-7とリードした。31-14で迎えた後半20分に故障で退き、結果的に31-38 で惜敗したことで復帰が待たれる人のひとりとなった。
10月からの別府合宿では、体調万全で正代表に加わった。まもなく、件のフィジー代表戦でチャンスを掴んだのだ。この一戦は、日本ラグビーフットボール協会の創立100周年記念試合と銘打たれた。
同じCTBのポジションでは、不動のレギュラーであるディラン・ライリーが軽い怪我でリストから外れていた。スターターではまず、インサイドに昨季8度先発で約11か月ぶり出場のチャーリー・ローレンスが入った。アウトサイドには、今年2024年以来の復帰を果たして出番を積み上げてきたサミソニ・トゥアが名を連ねた。
李は両者に加え、WTBのバックアップを託された。
ジョークを言ったのだろう。エディー・ジョーンズヘッドコーチは笑う。
「智寿はJTS(ジャパンタレントスコッド=23歳以下日本代表のベース)でもWTBでプレーしていますし、かなり器用な選手です。大学でもバスの運転、トイレの掃除と何から何までやるような選手なので、役割を担ってくれるでしょう」
当日。キックオフを迎えた当の本人は、「いつでも出られるような準備はしていました」。待望のデビューを果たしたのは後半27分だ。28-31とビハインドを追うなか、ローレンスとの交代でピッチに立った。
31分。自陣中盤右で球をもらうと、防御へまっすぐ仕掛けながら大外にさばく。32分。似たエリアの逆側の区画でワンバウンドのパスを落ち着いて拾い上げ、滑らかに駆け上がってタックラーの目の前でシャープに左の味方につなぐ。
冷静で正確なパスワーク。
「外からの声もよく聞こえた。落ち着いてプレーできるよう、仲間のサポートがありました」
その後もハンドリング、サポート、タックルと、少ない残り時間を惜しむように働き場を探した。28-34で敗れ、「テストマッチ(代表戦)レベルになると、ひとつひとつのプレーの重みを感じました」。もっとも、ぶつかり合った感触はよかった。自信を深められた。
「足らん部分はありますけど、通用する部分もあった」
チームはここで一旦、解散し、10月27日からのヨーロッパ遠征に備える。
今後のスケジュールについて、フィジー代表戦後の李は「具体的には聞いていない」としながら、もし招集されたら朝鮮大のシーズンが続くなかであってもフル参戦したいという。大学からも後押しされる。結局、26日に発表されたツアーのメンバーにその名を刻んだ。
新設ネーションズチャンピオンシップの後半戦で、ウェールズ代表、イングランド代表、スコットランド代表といった列強と対峙する。
卒業後はリーグワン1部のクラブに進む。日本ではサラリーマン生活を送る社員選手と競技専属のプロ選手が混在するが、李は「やるからにはプロの道で。やり切りたいという思いです」。ラグビーに賭ける。
